〈年金月18万円・退職金2,000万円〉図書館の本を読みふけり、ネットサーフィンしかしていない定年退職後だったが...68歳元サラリーマンがいとも簡単に「老後破産」した理由【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月30日 19時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
高齢者の家計が破綻する「老後破産」。現役時代のように働くことができない以上、家計の変化には細心の注意を払うべきですが、老後破産に陥る原因を知っておくことも重要です。老後のマネープランが崩れてしまう原因とは? 本記事では、藤崎隆さん(仮名/68歳)の事例とともに、老後破産の実態をFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
コミュニケーションが苦手で内勤だった独身男性のリタイア生活
藤崎隆さん(仮名/68歳)は年金生活を送る独身男性です。藤崎さんは60歳で証券会社を退職後、65歳まで関連会社で勤務しリタイアしました。あまり人付き合いが得意でなく、営業に配属されましたがコミュニケーションが苦手だったために内勤に異動になり、65歳まで務めていました。退職金は2,000万円を受け取ることができました。
現役のころからSNSで匿名アカウント株式やFXのトレードの成果や相場の分析を公表するなどして、フォロワーからの反応を見るのを楽しみにしていました。時にはほかのアカウントに対して否定的なコメントを残したり、やりとりがヒートアップして罵倒し合ったりするような場面もしばしばありました。
そんな藤崎さんのリタイア後の楽しみは、やはり投資。図書館へ通いつめ、有名なトレーダーの本を借りて勉強し、毎日株価や為替のチャートと睨めっこ。トレードを行って、SNSにその実績を投稿するのが日課でした。チャート分析を得意とし、株式投資もFXもまずまずの実績で老後も順調に資産を増やし、リタイア時には3,000万円もの資産を手にしていたのでした。退職金と合わせると5,000万円になります。
そんなある日、藤崎さんはSNSのフォロワーと会うことになりました。藤崎さんのSNSアカウントは短期トレードを行う投資家が多くフォローしていました。そのなかで、いつもコメントを残してくれるフォロワーがいて、そのフォロワーと仲良くなり直接会うことになったのでした。
えっ、女性?
初めて顔を合わせたとき、藤崎さんは驚きました。そのフォロワーは女性だったのです。SNS上でやりとりをするうえで、何度か別のフォロワーとも直接会ったことがありましたが、女性が苦手な藤崎さんは基本的に女性のフォロワーとは直接会わないと決めていたのです。もともとコミュニケーションが苦手ですが、女性を前にすると、ますますなにを話せばよいかわからず、気まずい空気になるのが嫌だからです。
そのフォロワーの年齢は30代。藤崎さんにとっては、娘のような年齢の女性です。最初はなかなか緊張のあまりなかなか話せなかった藤崎さんですが、女性が大変聞き上手だったため、トレードの話でだんだんと盛り上がることができました。得意のトレードの知識を興味深く聴いてくれるその女性に、藤崎さんは次第に好意を持つように。昔から自分の話を楽しそうに聴いてくれる人など皆無でしたが、自分よりも30歳以上も年下の女性であったこともあり、これまでの人生で経験したことのない喜びだったのです。
藤崎さんのSNSアカウントも、それまではトレードのことばかりでしたが彼女と一緒に行ったお店で2人分の料理が映った写真を投稿するようになり、これまでとは違った投稿が増えてきたのでした。
しかし、そんな幸せの絶頂にいる藤崎さんを絶望のどん底に叩き落とす事件が起きてしまいます。
付き合うことになったが…
度々その女性と会う回数を重ねた藤崎さんは、すっかり心を許し、その女性に交際を申し込みます。そして驚くべきことに、女性の返事はまさかのOK。30歳以上の年の差を超えて交際することになったのでした。
彼女からのお願い
そして、そんなある日その女性から「稼げそうなビジネスがあり、自分ではよく判断できないから一緒に話を聴いてほしい」こんな相談を受けました。さらに、説明会に一緒に行ってほしいという頼みでした。藤崎さんは少し疑いを持ちながらも説明会に参加してみることにしたのでした。
説明会で語られていたのは、誰でも簡単に広告収入を得ることができるというビジネスで、月利で20%以上も狙っていけるというものでした。そして、彼女はとても乗り気な様子で、この仕事で稼げるようになったらいまの仕事を辞めたいが、手元資金が少なく、自分のお金だけでは独立は難しいので藤崎さんにもお金を出してもらえないかと相談を持ちかけたのでした。
そして「そのお金があれば藤崎さんと一緒の時間も増やせる」というような言葉で、どう考えても怪しげな話ですが、「彼女がそれほどまでに言うのならば」と、試しに100万円だけ貸すことにしたのでした。
その翌月、20万円の利益を手にできたと彼女から喜びの言葉を聴き、全額を藤崎さんに渡したのでした。その翌月、翌々月と20万円の利益を手にしたことで藤崎さんの疑いは完全になくなり、藤崎さんは彼女をすっかり信じ込んでしまい、ついに手持ちの資金をすべてビジネスにつぎ込むことにしたのでした。
しかし、その後に彼女から語られたことが「投資した会社が破綻してしまい、残りのお金が返せなくなってしまった……」という衝撃の事実を聴き、藤崎さんの頭は真っ白になってしまいました。
さらに、その後彼女とも連絡が取れなくなります。続いて発覚したのが、彼女が投資したビジネスは詐欺スキームで、彼女はその詐欺会社の一員という事実。名前も本当の名前ではなかったそうです。彼女は藤崎さんからお金を騙し取るために近づいたのです。そして、その後彼女と連絡を取ることができなくなり、ようやく自分が「騙された」ことに気が付いたのでした。
こうして藤崎さんは5,000万円を失ってしまうことに。年金額は月額18万円、家賃と日々の生活費を払えば赤字です。現役のころから積み上げてきた資産と好きな女性を一度に失ったことも加わり、なかなか精神的に立ち直れずにいるのでした。
弱みにつけこむ投資詐欺の勧誘に注意を
今回藤崎さんが被害に遭った詐欺スキームは、ポンジスキームと呼ばれるものです。高いリターンを謳い勧誘し、初めのころは投資家に対し返すことで信用を得ます。しかし、これは見せかけで、ほかの会員から集めたお金であたかも利益が出ていると信用させるのです。それだけの高いリターンを払い続けられるはずもなく、そもそも事業としての実態もないためにどこかで破綻させるという詐欺スキームです。
金融知識は豊富だったはずの藤崎さんでしたが、彼女が共犯として介することで正常な判断力を失い、さらに実際に彼女からの返済を受けていたことですっかり信用してしまい、大きなお金を投資してしまったのでした。
そして、近年ではマッチングアプリを使い、パートナーを探しているふりをしながら詐欺のターゲットを探している業者もあり、藤崎さんのようにSNSで共通の趣味や話題で近づいてくることもあります。
また、詐欺ではなくても公的年金の不安に付け込んだビジネスや金融商品の勧誘を受け、損失を被っている事例は後を絶ちません。安心してお金を預けているはずの金融機関から勧誘を受けた金融商品をよく理解せず、ハイリスクで複雑な仕組みの商品を契約してしまったことで多額の資産を失ってしまうようなこともあります。
少しでも疑問に思うことがあれば、まずは第三者に相談して1人で判断しないようにすることが大切です。各自治体にはそういった相談を無料で行うことができる消費生活センターが設置されていますので、少しでも疑問に思ったらそういった機関にまず相談してみることが大事です。
詐欺で老後資金を失う高齢者たち
今回は豊富な金融知識を持ちながらも詐欺に遭ってしまい、老後の資産を失ってしまった藤崎さんの事例をお伝えしました。
警視庁が公表する2022年の特殊詐欺関連統計によると、全国の被害額は370億8,000円という巨額の金額で、1万7,570件もの詐欺が発生しているといいます。また、その被害者の86.6%が65歳以上の高齢者というデータがあります。大事な老後の資金を失ってしまっている事例も多数報告されています。
こういった詐欺スキームに騙されて大金を失い、詐欺の被害者がそれでショックを受けてしまい自ら命を絶ってしまうような痛ましい事件も起きています。
ビジネスの基本は「価値提供」です。誰かの役に立つことでその対価を受け取る、これが大前提であり、投資とはそれがこれからの社会で多くの人から必要とされて長期的に成長の果実を受けるためにお金を投じることです。
誰の役に立っているのかよくわからないビジネスモデルに投資をしたり、高い利回りだけに釣られているとこういった詐欺に引っかかりやすいものです。ですので、どうやって利益を出している事業なのかをしっかり見定め、わからないならば自分の大事なお金を投資するようなことはしないようにしましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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