〈終身雇用に年功序列!?〉世界的には、かなり特殊…いまなお大企業に根強く残る「日本的経営」の実情【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月31日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
戦後、高度成長期の日本企業は、終身雇用・年功序列賃金・企業別組合の仕組みのもとに人材を活用し、業績を大きく伸ばしていきました。時代が変わり、グローバル化が進む現在では、企業の慣習も従業員の就労形態も世界標準へと近づいているように見えますが、じつは大企業にこそ、古い慣習がまだまだ根強く残っているのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
日本的経営の特徴は「終身雇用・年功序列賃金・企業別組合」
日本も米国も、株式会社に関する法律を見ると似たようなことが書いてあります。しかし、実際の会社を見ると、様相は大きく異なっています。日本の株式会社は世界的に見てもかなり特徴があるのです。
具体的には、終身雇用、年功序列賃金、企業別組合が特徴で、それを「日本的経営」と呼んでいます。高度成長期の日本企業には大変便利なものでした。最近は不都合なことも増えてきたので、徐々に変化しつつありますが、大企業を中心として未だに根幹部分は残っています。
終身雇用制は崩れつつあるが、本質は健在
高度成長期、中学を卒業して農村から上京した15歳の少年少女は、就職すると定年(当時は55歳)まで同じ職場で働くのが普通でした。55歳で引退し、短い余生を送ってから永眠したので、「終身雇用制」と呼ばれたのです。
その後、平均寿命も健康寿命も大きく延びたので、定年後再雇用等の制度ができ、それでも退職後の期間が長いので別の仕事をする人も増えたようですが、それは「おまけ」のようなものであり、本質は終身雇用が続いているといえるでしょう。
年齢を重ねると「子会社に出向」といった事例も増えてきますが、同じ企業グループのなかで働いているのであれば、終身雇用だといってよいでしょう。
若い人を中心に、徐々に前向きな転職も増えつつありますが、中高年労働者は、よりよい仕事を求めて転職するという人よりも、勤務先が傾いてしまったので仕方なく別の仕事を探す、という人の方が多いのではないでしょうか。
重要なことは、従業員が自発的に転職することが主で、企業側から従業員を解雇するのは法律的にもむずかしい、ということです。日本人はリスクを嫌う傾向が強いので、「給料は安くてもいいから雇用を保障してほしい」と考えている人が多く、それに応える制度となっているわけですね。
ちなみに、制度としての終身雇用制は続いていますが、これは正社員のみに適用されるもので、パートやアルバイトといった「非正規労働者」には適用されません。そして、バブル崩壊後は労働者に占める非正規労働者の比率が上がっているので、労働者のうちで終身雇用制が適用されている人の割合は低下しています。
非正規労働者のほうが時給が安いので企業にとって都合がいい、ということもありますが、ゼロ成長なので新卒を採用しすぎてしまうと長期間にわたって余剰人員を抱え込むことになりかねず、そうしたリスクを避けるために非正規労働者を多く採用している、という面もあるようです。
年功序列賃金も緩んでいるが、本質は健在
日本では学校のクラブ活動などでも「先輩は偉いから先輩を敬うべき」といった文化がありますが、企業内でも先輩を敬うという文化があります。そして、給料も先輩のほうが高いのです。長く企業に勤めている人を給与面等で優遇するという制度を年功序列賃金制と呼びます。
高度成長期には企業が成長し、毎年大勢の新入社員が入社するので、「少ない数のベテラン社員は給料を高く、大勢の若手社員は給料を安く」という制度が都合よかったのでしょう。社員の側も「今は給料が安くても将来は上がる保証があるなら、それでいい。将来、子育て等の費用がかかるようになったころに給料が上がるのはむしろありがたい」と思っていたのでしょう。
かつて労働力不足だったころの年功序列賃金には、労働者が辞めないように、という意味もありました。若いときは会社への貢献より低い給料、ベテランになると会社への貢献より高い給料をもらう制度なので、若いときは会社に貸しを作り、ベテランになってからそれを回収する、というイメージなのですが、途中で退職すると会社への貸しを回収できなくなってしまうからです。
年功序列賃金制も、根幹部分は残っていますが、緩んでいる面も多いようです。能力主義で優秀な後輩が先輩より高い給料をもらう事例が増えた、ということもありますが、バブルが崩壊してゼロ成長になったことの影響が大きいのでしょう。
ゼロ成長で非正規労働者を増やすとなると、新卒採用が減りますから、ベテラン社員の比率が上がってしまいます。しかも定年延長などになったら、給料の高いベテラン社員ばかりになってしまい、人件費負担が重すぎます。そこで、ベテランになっても給料があまり上がらないようにしたり、役職定年、定年後再雇用といった制度でベテランを安く雇う方法を考えたりしているわけです。
バブル崩壊後の長期低迷期、労働力が余っていて、労働者をつなぎとめておく必要性が薄れたことも、年功序列賃金制が緩んだ一因でしょう。最近は労働力不足といわれていますが、不足しているのは現場の「手足」であって、ベテラン社員の管理職を現場の手足として使うのは容易なことではありませんから。
企業別組合は現在も健在
日本は、労働組合が企業ごとに組織されています。終身雇用制なので企業が成長することが労働者の利益にもつながる、ということで、労働組合が無理な要求をして会社が傾いてしまうのを防ぐ仕組みになっている、ということなのでしょう。
企業別組合は現在も健在で、変化の兆しはあまり見られません。もっとも、非正規労働者が加入していない組合も多いですし、正社員でも組合に加入しない人も増えているようなので、昔よりも労働組合の存在感は大幅に薄れているようですが。
他企業や銀行との取引も、長期的視点を重視
終身雇用制、年功序列賃金制、企業別組合は、企業と労働者の関係を示すものですが、日本企業は取引先企業や取引銀行との間でも長期的安定的な取引をする場合が多くなっています。
毎回同じ部品メーカーから仕入れ、同じ銀行から借りるならば、お互いの事情がよくわかっているので「前回どおり」で打ち合わせが終わり、便利だというメリットはありますが、米国企業は「毎回入札をしていちばん安いところから仕入れたり借りたりするほうが得だ」という考え方が多いようです。
一長一短だということなのでしょうが、文化の違いという面も大きいようです。歴史的にずっと同じ村で同じ人々と商売をしていた日本人と、新大陸に渡ってきて一獲千金を夢見て全米を渡り歩いていた米国人とでは、おのずと取引のあり方も異なっていた、ということではないでしょうか。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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