なんでこんなことに…週5で図書館に入り浸る“倹約家”の65歳元サラリーマン、年金月17万円・退職金2,000万円でも「老後破産危機」に陥ったまさかの理由【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月17日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
長寿大国の日本では“長生きリスク”という言葉も生まれるほど、老後の期間が延びています。定年後は現役時代のような収入が望めない以上、家計の変化には細心の注意を払わなければなりません。しかし、それでも、老後のマネープランが崩れてしまう原因は思わぬところに潜んでいるものです。具体的な失敗事例をもとに、株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが解説します。
定年後の“穏やかだがハリのない生活”に飽きてきて…
数ヵ月前に定年退職となった65歳の孝雄さん(仮名)は、月に約17万円の年金で暮らしていました。月17万円では、生活費のほかに月々の税金と社会保険料を支払うだけで精一杯です。
退職して時間はたっぷりあるものの、収入は年金のみ。家計に余裕はありません。そのため、週に5日は図書館へ入り浸り、さまざまな本を読んで時間を潰していたといいます。
孝雄さんはもともとゴルフや釣り、旅行など、アクティブで多趣味な人だったこともあり、穏やかながら緊張感のない毎日に飽きてきました。しだいに「もっと刺激が欲しい……月々の収入がもう少し多ければなぁ」という思いが強くなっていったそうです。
そんなある日、サラリーマン時代の同僚とご飯に行った際、その同僚から株で儲かってゴルフクラブを新調したという話を聞いた孝雄さんは「あいつが上手くやれるんだったら自分にできないわけがない」と考え、これまでまったく興味のなかった投資を始めることにしました。
退職金の2,000万円は「もしもの時のために」と手を付けていなかった孝雄さん。金融機関の営業担当者から「その2,000万円に働いてもらいましょう。預金に置いておくよりもお金の寿命が延びますし、儲かった分を分配金として受け取れば、年金の足しになるので思う存分趣味にお金を使えますよ」と魅力的な提案を受けました。
すっかりその気になった孝雄さんは、これまで投資経験がなかったにもかかわらず、退職金の2,000万円を使って「毎月分配型」と「隔月分配型」の投資信託を購入しました。本来はすべて毎月分配型にしたかったものの、新NISAでは毎月分配型の投資信託が対象から除外されているため、仕方なく隔月分配型の投資信託も購入したそうです。いずれもハイリスク・ハイリターンのファンドとなっています。
「こういうことは思い切りが大事だから」と自分に言い聞かせ、一気に2,000万円投資した孝雄さんは「これで自分も投資家の仲間入りだな」と満足げな様子。営業担当者がシミュレーションしてくれたとおり、年金すら不要に感じるほどの金額が毎月口座に振り込まれるようになり、孝雄さんは大満足でした。しかし……
投資になんて手を出さなければよかった…孝雄さんの後悔
ある日のマーケットで「史上最大の下落幅」と言われる大暴落が発生。孝雄さんが保有するすべての投信の基準価額が大幅に下がり、短期間で300万円以上の運用損となってしまいました。
資産運用経験の乏しい孝雄さんは、この大暴落を受けて夜も眠れなくなるほど焦ってしまいます。その後、基準価額が多少回復する局面もありましたが、暴落直前はもちろん、購入時点での水準には戻る気配がありません。
やがて、日々の基準価額の変動を見るのも嫌気がさすようになりました。なにもかもが嫌になった孝雄さんは「なんでこんなことに……欲をかいたせいで俺の老後はめちゃくちゃだ。こんなことになるなら投資なんてしなきゃよかった」と考えるように。
しかし一方で、「せっかくはじめたのに、本当にやめていいのだろうか」との迷いも出てきます。悩んだ孝雄さんは、以前趣味のゴルフで知り合ったCFPに相談することになりました。
長期投資のポイント…毎月分配型は辛抱強く冷静に
老後破産の危機に怯える孝雄さんに対して、CFPから次のような話がありました。
まず、投資は長期で行うこともポイントであるということです。短期的には結果は出ないかもしれませんが、長期的にみればプラスになることも十分あるでしょう。「基準価額が下落している」「これからもっと下がりそう」「今のうちに売らないともっと損する」といって慌てて売らない冷静さを持つことも大切です。
今回はたまたま短期間で暴落してしまいましたが、1年先、2年先の基準価額は回復していることも十分ありえます。
ただし、孝雄さんが買った投資信託の多くは運用益を毎月受け取る「毎月分配型」の投資信託です。投資信託には分配金が支払われるファンドもあり、毎月分配型は投資額に応じて毎月分配金が支払われることになっています。
孝雄さんとしては「分配金が年金の足しになれば」という思いもあったことでしょう。
しかし、利益を分配金として支払うということは、それだけ当該ファンドの純資産を減らしてしまうことになり、基準価額の上昇を阻みます。また、分配型投資信託の商品設計上、利益が出ていなくても元本払戻金(※)として分配金が支払われるため、元本毀損のリスクが高いことも把握しておかなければなりません。
※元本払戻金(特別分配金)……投資信託で分配金が支払われる際、分配落ち後の基準価額が個別元本を下回った場合、下回る部分のこと。なお、元本払戻金(特別分配金)は元本の払い戻しとみなされるため非課税。
そうなると、ひいてはファンドの複利による運用の効果も弱まってしまいます。分配金が収入として計算できる一方、基準価額は暴落前にはなかなか戻りにくいところもあります。そのため、分配金のないファンドを持つより長期的に辛抱強く見守る必要がでてきます。
投資初心者が「損をしない」ための鉄則
すでに2,000万円もの金額を一度に投資してしまった孝雄さんですが、そもそも投資は余剰資金を使うことが鉄則です。退職後の生活で今後、まとまった現金が必要になることもあるでしょう。基準価額が暴落したタイミングでまとまった現金が必要になると、投信を売却せざるをえなくなり、売却によって損が確定してしまいます。
幸い孝雄さんは現時点で急な支出の予定はなく、貯蓄としては他に1,500万円程度残しています。また、毎月の収入としては孝雄さんとその奥さんの年金収入も見込める状況です。
とはいえ、いざという時のために現金預金でも備えておくことが大切です。
投資そのものではなく「投資の方法」が間違っていた
孝雄さんは「投資そのものがいけないのではなく、自分のやり方が間違っていた。投資の仕組みをよく理解していなかったんだな」「まだまだ基準価額は下がったままですが、慌てず、辛抱強く様子を見てみます」「急な支出が必要になるときに備え、年金収入でやりくりしながら現金や預金も確保しておきます」と納得しました。
その後、再び日々の基準価額を見るようになった孝雄さん。その上げ下げに日々一喜一憂せず、その動きを確認するようになりました。さらに、当該ファンドの目論見書も読むようにして、今は冷静に将来の売却のタイミングを窺っています。
もし余裕が出てきて、今後新たに投資信託を購入することになった場合は、1つのファンドや同じ種類のファンドに集中させず、リスクの低いファンドも含め、投資対象の異なるファンドにも分散して購入することもポイントとなるでしょう。
五十嵐 義典
株式会社よこはまライフプランニング代表取締役
特定社会保険労務士/CFPⓇ認定者
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