「ていねいな老後」を送る年金月20万円"西荻夫婦”を襲った日本年金機構からの「赤い封筒」の中身。お金の管理が「ていねいじゃない」息子が引き起こした悲劇とは?【社労士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月31日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
国民年金保険料が納付期限までに納付されない場合、日本年金機構から納付督励が行われます。特に「赤い封筒」で送られた通告を無視していると、いよいよ大変なことになりかねません。実際の事例を元に、全国民に課される国民年金保険の納付義務について、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が解説します。
日本年金機構から届いた赤い封筒
東京・杉並区で平和に暮らしている70代の老夫婦。自宅は代々受け継いだもので、自宅の一部を改装してカフェでも開こうかなと思っていた矢先、同居する息子宛に日本年金機構から赤い封筒が届きました。
これまでにも何度か封筒が届いていましたが、息子のAは気にする様子もありません。息子は2年ほど前に脱サラしたフリーのITコンサルタント。都心へのアクセスもよく、家族仲も悪くなかったので実家暮らしをしています。
両親は「息子は独立してもう2年ほど経っている。仕事も順調そう」とあまり心配はしていませんが、やはり日本年金機構から届く封筒は気になります。
カフェのオープンの件でいろいろと相談をしている税理士に封筒について聞いてみたところ、「それは年金保険料を納めていない可能性がありますね。財産が差押えられてしまうかもしれません。社労士を紹介しますから早めに対応したほうがいいと思いますよ」と言われました。
慌てた両親は息子を問い詰めます。「大丈夫、大丈夫」と繰り返す息子でしたが、社労士から財産差押えの話を聞いて態度が一変。「実は年金の保険料が払えない。何とかしてくれ」と両親に泣きついてきました。
ていねいな老後を送る老夫婦は「私たちの暮らしはどうなるの…」と悲嘆にくれるばかりです。
国民年金には必ず加入
日本は国民皆年金。よって、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方はすべて国民年金に加入します。国民年金の被保険者には3種類あり、働き方などによって第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者のいずれかに分類されます。
・第1号被保険者:自営業者、フリーランス、農業者、学生、無職の方など
・第2号被保険者:会社員や公務員など厚生年金の加入者
・第3号被保険者:会社員や公務員などに扶養されている配偶者
Aさんのように脱サラしてフリーランスになった場合、第2号被保険者から第1号被保険者へと種別が変更されます。自動的に変更されるわけではないので、会社から退職証明書や社会保険資格喪失証明書を発行してもらい、退職日の翌日から14日以内に住所地の市区町村で手続きをしなければなりません。
国民年金の第1号被保険者になると、自分で保険料を納める必要があります。令和6年度の保険料額は1か月あたり16,980円。決して軽い負担ではありません。
未納が続くと強制徴収
国民年金保険料の納付期限は、納付対象月の翌月末日。たとえば、9月分の保険料は10月末日、10月分の保険料は11月末日までに納めなければなりません。
保険料が納付期限までに納付されない場合、納付督励が行われます。まずは電話や文書により保険料の納付を促されますが、さらに未納が続くと特別催告状が届きます。特に、赤色の封筒で届いたらかなりの危険信号です。
それでも保険料が納付されない場合には、最終催告状が送られてきます。最終催告状は、自主納付を促すために送付される最後の催告文書です。これを無視し、最終催告状の指定期限までに納付しないと督促状が届き、督促状の指定期限までに納付しなければ強制徴収へと進みます。
具体的に外部委託による納付督励の件数をみてみましょう。
令和5年度には、文書による納付督励は972万件、電話による納付督励は1,841万件行われています。令和5年5月以降、外部委託による戸別訪問は行われていませんが、令和4年度には409万件の戸別訪問による納付督励が行われています。
外部委託による納付督励はなんと毎年3,000万件前後。未納保険料を納めてもらうため、かなり多くの納付督励が行われていることが分かります。
「ダメだ、逃げられない…」
先にみた通り、たび重なる納付督励に応じないと、強制徴収の実施に向けた動きが始まります。対象となるのは「控除後所得300万円以上かつ7月以上保険料を滞納している方」です。
強制徴収の実施は不公平感の解消と波及効果を狙ったもの。令和5年度において、最終催告状は176,779件、督促状は102,238件、財産差押は30,789件となっています(最終催告状、督促状、財産差押の件数は当該年度に着手した件数)。
ちなみに、「所得1,000万円以上かつ滞納月数13月以上」である場合には、悪質な滞納者に係る保険料の徴収が困難な事案として、国税庁へ強制徴収の委任が行われます。令和5年度には86件の委任が行われました。
Aさんは社労士から保険料未納者への対応や財産差押の話を聞き、「ダメだ、逃げられない……」と観念しました。
多趣味でやりたいことがたくさんあるAさんはFIREを目指し、数年前から財産のほとんどを日本株や信用取引につぎ込んでいたそうです。
最近は相場環境が良かったことから「年金なんて払わなくても俺の老後は大丈夫」と楽観的でしたが、8月の初めにブラックマンデーを超えるまさかの大暴落。大きな損失を抱えて年金保険料を払うお金がないといいます。話を聞いた両親は口あんぐり。なんと言っていいか分かりません。
とはいえ、このまま見過ごすわけにはいきません。世帯主は父親であり、息子の保険料の納付義務があるからです。財産の差押えなどとんでもありません。仕方なくカフェの準備資金の一部を息子の未納保険料に当てました。
父親はうなだれる息子に対し、「お前もこれからはていねいな暮らしを心がけろよ」と一言。息子は涙ながらに頷きました。
角村 俊一 角村FP社労士事務所代表・CFP
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