1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

令和だけども!「24時間働けますか?」の精神で働いていた50代経営者…自らの働き方を見直すきっかけになった若手経営者からの“耳が痛い”ひと言とは?

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月2日 7時0分

令和だけども!「24時間働けますか?」の精神で働いていた50代経営者…自らの働き方を見直すきっかけになった若手経営者からの“耳が痛い”ひと言とは?

(※写真はイメージです/PIXTA)

「責任感が強く、なんでも自分でやりたいタイプ」で社長になっても社員より先に自ら精力的に動き回っている創業10年の会社社長の川口さん(仮名)。部下から「社長、少しは私たちを頼りにしてくれませんか?」と言われてもどこ吹く風。相変わらず忙しい毎日を送っていました。しかし、ある若手経営者との出会いをきっかけに、川口さんはこれまでの経営者としてのあり方を見直すことに……。本記事では、世界で20万社以上のユーザーを持つ起業家のための経営システム「EOS(the Entrepreneurial Operating System)」の日本人唯一専門家である久能克也氏が、事例を通じて組織化と権限委譲の重要性を解説します。

創業10年、社員12名、年商2億円。武器は「率先垂範」

4月に創業10周年を迎えたA社。社長の川口さん(仮名)は50代の男性で、大学を卒業して入社した会社では一貫して営業に従事してきました。40代の頃に、営業畑で培われた経験やノウハウを活かして、数人の仲間たちと営業代行を行うA会社を創業。最初の3年間は苦労の連続でしたが、持ち前の営業力を活かして仕事を受注し、徐々に会社を大きくしていきました。

年商が5,000万円を超えたところで社員の採用にも力を入れ始め、現在では年商2億円、社員12名、パート・アルバイト15名の規模にまで成長しました。ここ数年は、企業向けの「営業コンサルティング」や「営業研修の実施」、さらには「営業支援ツールの開発」など事業の多角化にも着手。さらなる飛躍を目指して日々、忙しく立ち働いています。

川口社長の性格はいたって真面目。責任感が強く、なんでも自分でやりたいタイプです。現在でもトップ営業として企業を訪問しており、コンサルティングや研修の場にも積極的に参加。発注先の企業とともに開発しているツールのチェックや内容の精査も行うなど、「あの社長は分身の術が使えるんですか?」と冗談交じりに言われるほどの活躍です。

一方で、問題もありました。

創業当初から共に働いている幹部を含め、社員らは、精力的に働いている川口社長を頼もしく思いながら、会社の先行きに一抹の不安を抱いていました。彼は社内のすべての業務をチェックしているのですが、そのせいで現場の仕事が滞ることが多かったのです。

あるとき、副社長を務める創業メンバーの1人が、川口社長にこう切り出しました。

「社長、少しは私たちを頼りにしてくれませんか?」

川口社長は副社長の真意がわからず、「何を言ってるんだ。他社の社長はもっと働いてるよ。心配するな」とだけ返し、また仕事に戻ってしまいました。しかし、副社長が本当に伝えたかったのは、働き過ぎている社長への労いではありません。もう少し他のメンバーを信頼して、仕事や、権限を任せてもらいたい、と言う思いでした。

「権限委譲の仕組みがないんじゃないですか?」

ある日、川口社長はある経営者団体の会合に参加しました。老舗企業を経営している高齢の社長が中心の集まりだったのですが、彼と年齢が近い若手経営者もいました。会合の冒頭、70歳を過ぎた団体の会長が、乾杯の挨拶として次のような訓示を述べました。

「近年では『働き方改革』などと言われており、社員らをあまり働かせてはいけないという風潮が蔓延しつつあります。ビジネスがしにくい世の中になりました。でも、我々経営者にはその縛りがありません。これまで通り、朝早く出社して、夜遅くまで働きましょう!」

会場は笑いと拍手に包まれました。川口社長も手を叩いて賛同の意を示しています。なぜなら「社長」というものは、会社の中で1番の働き者かつ仕事ができる人間であるべきで、その背中を社員に見せるのが仕事だと考えていたからです。だからすぐ隣にいた若手経営者から「まだこういう考え方の社長が多いんですかね。世界と差が開いてしまわないといいけど」と囁かれたとき、その言葉に驚きました。

歓談の時間になり、川口社長は先程の若手経営者に挨拶をして、発言の意味を聞こうとしました。彼は「ああ……」と言って、ウーロン茶で喉を潤してからこう続けました。

「簡単なことですよ。昔ながらの経営者は、働き方改革を『チャンスが減る』ものとしか考えていないんでしょう。だから社員は休ませるけど、その分自分が働けばいい、働くしかないと思っている。でも、それじゃあ会社は大きくなりません。だって社長も人間でしょう。ひとりの人間にできることは自ずと限られます。そんなことは、本人たちも分かっているはずなのですがね」

話を聞きながら、川口社長は耳が痛い思いをしていました。土日はもちろん、ゴールデンウィークやお盆、場合によっては年末年始も働いている自分を誇らしく思っていたからです。それをSNSに投稿すると、たくさんの経営者仲間から「いいね」やコメントがあったのも事実でした。

「あなたは、『社長はもっと休むべきだ』と?」

「ええ。そうですよ」

若手経営者は平然と言いました。

「私は創業以来、土日と祝日は必ず休んでいます。それ以外に長めの正月休みと夏休みをとり、家族はもちろん、自分のための大切な時間も確保しています」

「そうは言っても、創業期の社長はいくら働いても追いつかないほどの仕事がある。どうやってそんなに休めと言うのか……」

若手経営者は川口社長を見て、怪訝そうな表情を浮かべました。それからこう言いました。

「川口さん。もしかして御社には、権限委譲の仕組みがないんじゃないですか?」

何のために、誰のために仕事をしているのか?

「二次会なんて無駄だから帰りましょう」という若手経営者の言葉を受けて、川口社長は家に帰りました。時刻は21時を過ぎていました。本当は会社に戻ろうかなとも思ったのですが、酒が少し入っており、かつ若手経営者に言われた言葉が引っかかっていたので、珍しく直帰したのです。

「……ただいま」

「あらあなた、おかえりなさい。今日はずいぶん早いのね」

「子どもたちは?」

「もう寝てる。あなたにとっては早いかもしれないけど、子どもたちには遅いのよ」

子ども部屋に入り、ベッドで安らかに眠る子どもたちの姿を見て、彼は「いつの間にこんなに大きくなったんだろう……」とつぶやきました。静かに手を伸ばし、柔らかい髪に触れ、頬を撫でると、彼の腕を小さな手が優しくつかみました。どうやら寝ぼけているようです。

自分が頑張ればいいと思っていた。すべて自分でできると思っていた。やらなければならないという気になっていた……。でも、時間はいくらあっても足りない。人脈形成や異業種交流も大切だ。顧客も、社員も、家族も……。私は何のために、誰のために、働いているのだろう。

海外では、家族の時間はもちろん、プライベートも大事にすると聞く。休日に家族と過ごすのは当たり前だ。そういう文化が根づいているのだろう。でも日本の、とくに中小企業の経営者には、家族サービスへのプレッシャーが弱い。どうぞ働いてください、と言わんばかりだ。朝から晩まで働ける。なのに、日本の生産性が低いのはどうしてだろう。

家族と仕事、そのうちのどちらかを犠牲にしなければならないのか。本当にそうなのだろうか? 何かが間違っているのかもしれない……。家族も仕事も犠牲にせず、ちゃんと両立して、みんなが笑顔になる方法はないのだろうか。あるとすればどんな方法が?

川口社長は副社長の言葉を思い出していました。「少しは私たちを頼りにしてくれませんか?」。そしてその言葉の意味を考えました。彼は子ども部屋を出て、カバンからスマートフォンと1枚の名刺を取り出しました。

「……あ、もしもし。川口です。どうも。先程はありがとうございました。それで折り入ってご相談があるのですが……」

「組織構造」と「権限委譲」は会社の成長に不可欠

「繁盛しているレストランがあったとして、そこの料理長がシェフも給仕長も皿洗いもしていたとしたら、あなたはどう思いますか?」

眺めがいい高層ビルの応接室で、川口社長は若手経営者の話に耳を傾けていました。「単刀直入に申し上げると、川口さん、あなたの現状はそれに近い」。言葉のひとつひとつに反発したい気持ちが沸き起こるのを我慢して、彼は柔らかいソファに腰を落ち着けながら、じっと話を聞いていました。

若手経営者は、次のような話をしました。

「問題は、あなたが真剣に考えていないことです。いえ、仕事そのものやお客さんのことについては、真剣に考えているのでしょう。だから業績はそれなりに伸びている。真剣に考えていないのは、組織構造についてです。『ここまでは社長の権限だ』『ここからは部門長に任せよう』などの意思決定もそうです。組織構造と権限委譲について考える時間とり、真剣にデザインしていないから結局すべて自分でやることになってしまう」

「本当に価値のある仕事とは、1度行うとその効果がずっと発揮されるものだとは思いませんか。大企業は、そうやって長く効果を発揮する仕事が蓄積されてきたから大きくなることができた、と考えられる。組織構造と権限委譲について考え、決めるというのはそういう仕事の代表です。立ち止まって、深く考えることなしにはそういう仕事はできない忙しく立ち回っていると達成感や充実感はあるのでしょうが、そういう仕事からは遠くなる」

「これが高じると、社長がすべての仕事に顔を出すだけじゃなく、現場の仕事をやりたいがために優秀な人を採用しなかったり、自分が教えればいいというスタンスをとったりします。でも、会社が組織として機能するためには、人に任せていかないとダメです。率先垂範も良いのですが、組織構造、つまり仕組みを整える必要があるんです」

川口社長は小さく頷きながら、「そういうものでしょうか……」と弱々しい声を出した。いつもの元気は見る影もなかった。背中は丸く、社内にいるときよりもずっと小さく見えた。

「ちょっと視点を変えて、2つの話を紹介しましょう」と若手経営者は言った。

「1つ目は、松下幸之助さんの話です。彼が幼少期から病弱だったことは有名ですね? 9歳で丁稚奉公に出されたのですが、仕事も休みがちだったそうです。日給なので、休めば休むほど給料は減ってしまいます。けれど、松下少年はめげません。体が弱いからこそ、人に頼んで仕事をお願いすることを覚えたそうです。学歴がなかったからこそ、素直に人に教えを請うようにしたのです。そういう松下幸之助さんが創業した松下電器産業(パナソニック)は、今では日本を代表する企業になりました」

「2つ目は、慶應義塾高校野球部の話です。2023年の夏の甲子園で107年ぶりに優勝したことが話題になりました。髪型をはじめ、練習時間の短さや自由な雰囲気、楽しむ姿などが話題になりました。従来の規則に縛られなくても、限られた時間であっても、ちゃんと結果を出せるのだと彼らが証明しています。その根底にあるのは、森林貴彦監督の『部員たちに任せる』『任せたからには信じる』『信じて待つ』という方針です。まさに人材育成の鏡であり、組織のトップに立つ人間のお手本だと思います」

「アカウンタビリティ・チャート」で組織構造をつくる

背中にじっとりと汗をかいたまま、川口社長はようやく「……どうすればいいんでしょうか?」という言葉を絞り出しました。若手経営者は続けます。

「権限委譲をしましょう。家族やプライベートを犠牲にすることが美徳だった時代は終わったと思います。あなたが1番エネルギーに溢(あふ)れた状態でいられるだけの「働く時間」を決める。それ以外の時間は大切な人や自分自身のために使う。そして得意で好きなことに集中する。それ以外の仕事は、その仕事が得意で好きな人に任せるんです、」

その上で、若手経営者が示したプランはこうです。

まず、会社の未来を描く「ビジョン」を作ること。そして、意思決定を担当する「経営チーム」を結成すること。経営チームができれば、権限委譲の土台も自ずと作られていきます。

「大切なのは、川口さん自身が『つるから手を放す』ことです。限られた時間で社長業に専念できるよう、あなたが担当すべきでない権限を分類し、手放していくのです。あとは組織を構造化すればいい。経営チームで話し合いながら、組織を次のレベルに引き上げる組織構造をデザインし、全社員の役割と責任を明確に定義していくのです」

※思い切って手放すことのたとえ

若手経営者が紹介したのは「アカウンタビリティ・チャート」と呼ばれるツールでした。アカウンタビリティ・チャートでは“組織の主要機能”を定義しており、次の3つに分類されます。

●営業・マーケティング:お客を連れてくる機能

●オペレーション:お客に商品・サービスを提供し、価値を届ける機能

●バックオフィス:お金の流れを管理し、効率化し、利益を出しやすい組織にする機能

これらの分類(機能)に基づいて人員を配置し、かつ、それぞれに責任者を1人置きます。こうして組織構造の基礎を作っておけば、社内の仕事も分類され、社長の仕事とそれ以外の仕事が明確になります。組織のデザインがここからはじまるわけです。

「責任者は妥協して選んじゃダメですよ。妥協してGWCでない人を置いてしまうと、その責任は上司の元に戻ってきます。つまり仕事が増えてしまうのです。アカウンタビリティ・チャートによって果たして欲しい責任が明確になっているので、採用の成功率も上がります。つるから手を放す、つまり権限を手放すというのは勇気がいることです。でもそこから全てが始まります。」

※GWC:Gets it(その仕事を理解している)Wants it(その仕事が心から好きである)Capacity to do it(その仕事をする能力と経験がある)の頭文字をとった言葉

権限委譲による「寂しさ」は、組織が前に進んでいる証拠

若手経営者の言うことを素直に聞いて、組織改革に乗り出した川口社長。「みんな戸惑うだろうな」と心配していたのですが、副社長をはじめ、社員たちは行きつ戻りつしながらも、むしろイキイキとしてビジョンの策定、経営チームの立ち上げ、さらには組織化を推進してくれました。その姿を見て、彼はみんなが何を求めていたのかをおぼろげながら理解していきます。

組織構造の基礎ができ、権限委譲が進められると、これまで社長が行っていた仕事が次々に各部署へと割り振られていきました。最初のうちは、自分の持ち物が取られていくような寂しさを味わっていた川口社長も、徐々に人に分け与えることの快感を覚えはじめます。そして会社が、まるで1つの生き物のように、形成されていくのを感じました。

業績への反映はこれからですが、少なくとも、社員はこれまで以上に元気になり、社内が活気に満ち溢(あふ)れるようになったのは事実です。自分が現場にいなくても、社員たちは自由に働き、会社はあるべき方向へと進んでいく。その姿を見て川口社長は、言葉にできない感覚を抱きました。フロアを離れて、若手経営者に電話で現状を報告します。

「ああ、それはね、一種の疎外感のようなものでしょう。心配しなくても大丈夫。組織の構築と権限委譲がうまくいっている証拠です。これまでは全部自分でやってたんですから、疎外感があるのは当然でしょう。中小企業の経営者あるあるです。でもね、勝負はここからですよ。これから本当の”社長業”がスタートするんですから」

久能 克也 株式会社オプティ 代表取締役 EOS JAPAN合同会社 代表

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください