「タンスから出てきた1,000万円、秘密にしておこう」→税務署「申告していませんね」…なぜ〈相続税の脱税〉はバレるのか?【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月31日 9時15分
※画像はイメージです/PIXTA
相続税の脱税と指摘を受けるのにはどういったケースがあるのか。また、相続税の脱税はそもそもいかにしてバレるのか。さらに、相続税の脱税がバレたらどうなるのか。相続税の脱税についてしていきます。
相続税の脱税とみなされた身近な事例
相続税の脱税とみなされる場合には、どのようなケースがあるのでしょうか。ドラマの世界でよくあるような床下に現金を隠していたなど、明らかに意図的な財産隠しの場合は脱税となるのは当然ですが、ここでは意図せずに脱税と見なされてしまうおそれのあるケースを以下に5つご紹介します。
1)亡くなる直前に口座から引き出せば相続税がかからないと思っていた
相続税の申告は、亡くなった時点の被相続人の預金口座の残高で計算をするので、亡くなる直前に預金を多額に引き出しておけば相続税の節税になる。というような間違った認識を持たれている人がまれにいます。
亡くなる直前に預金を引き出し、その金額を相続財産から除外して申告を行う。この行為は残念ながら、「脱税」となります。引き出したお金を被相続人自身が使い、相続開始(亡くなった日)時点ですでになければ、それは相続財産ではないので申告する必要がありません。しかし、引き出したお金が現金として存在すればそれは間違いなく相続財産ですので、相続税の申告を行う必要があります。
バレるバレないの問題ではなく、申告を行い相続税を支払う必要があります。ただこの直前引き出しについては税務署も目を光らせていますので、金額の大小にもよりますがほぼ100%バレます。
直前引き出しをする行為自体は悪いことではありません。預金が凍結されて当面の生活費が引き出せなくなるので、直前に引き出しておくということは一般的によくあることです。直前引き出しを行っても、相続税申告を適切に行えば問題ありません。
2)土地の評価を間違って相続税額を過少に申告していた
土地の相続財産の相続税評価の計算を間違って相続税の申告を行ってしまったケースで、相続税の脱税と見なされるケースがあります。
たとえば、本来は5,000万円で評価すべきところ、4,500万円と評価して相続税の申告をしてしまった場合。仮に税率が20%としますと、(5,000万円-4,500万円)×20%=100万円の相続税を脱税していることになってしまいます。
相続税評価の中でも特に土地の評価については難易度が高く、専門家である税理士でさえ10人が評価を行えば10通りの評価額が算出されるといわれるほどです。
ここで、本来5,000万円の土地を6,000万円で評価して申告をしてしまっている場合には、過大に相続税を納めていることになり税務署としては特に問題としません。ただ、財産を過少に評価して申告をすると税務署としてはその分の税金を取り損ねてしまうので、躍起になって追及をしてきます。
3)子ども名義の預金口座が相続財産と認定された
いわゆる、「名義預金」の相続財産計上漏れが相続税の脱税と見なされるというお話しです。相続税の税務調査で指摘事項が一番多いのがこちらのケースになります。
「名義預金」とは、被相続人(亡くなった人)がその原資を支出しているが、その預金口座の名義は子どもや配偶者となっているような預金です。
この「名義預金」は、名義は被相続人以外になっていたとしても、原則、被相続人の相続財産として相続税の計算に加味する必要があるケースがほとんどです。「名義預金」を申告しなければ、その分、相続税を脱税したとみなされてしまう可能性は非常に高くなります。「名義預金を相続財産として計上すべきということを知らなかった」といって済まされる話ではなく、場合によっては重いペナルティが課せられてしまいますので注意が必要です。
4)タンスから1,000万円出てきたがバレないと思い申告しなかった
亡くなった被相続人の遺品を整理していたら、タンスから現金が1,000万円出てきた。こういった話はテレビドラマの話だけではなく、実は意外とあります。
こういった場合に、直近の預金通帳から引き出しもないし、生活身の回りを世話していた相続人でさえも知らなかったのだから、税務署にもわかりようはないだろうと考えがちです。そして、相続財産から除外して申告した結果、あとから税務調査で見つかってしまったといったことになると、相続税の脱税とみなされる確率が高くなります。
5)保険の契約者名義を変えれば申告しなくても良いと思っていた
父が保険料を一時金で支払って、被保険者が子どもというような保険契約を父の生前に、契約者名義を父から子どもに変更する。そうすると、いざ父が亡くなったときには、この保険契約は子ども名義の保険となっていますので、一見相続財産に見えず相続税申告をしなくても良い様に見えてしまうかもしれませんがそんなことはありません。
「子ども名義の預金口座を相続財産と認定された」で解説した、名義預金と同じ理屈でこの保険契約も名義は被相続人名義になっていなくとも相続財産として計上する必要があります。仮に、この名義は違うが実質的には被相続人の財産である保険契約を相続財産として申告しなければ相続税の脱税と見なされる可能性が高くなるでしょう。
【コラム…税務署は支払調書で相続財産を把握する】
各保険会社は、「支払調書」という保険契約に関わる情報を税務署に提出する義務があります。
税務署はこの「支払調書」によって、情報を収集し相続財産の計上漏れの把握を行います。たとえば、ある被相続人が死亡して相続人Aに保険金が1億円支払われましたというような場合には、保険会社は相続人Aに1億円を払いましたということを「支払調書」に記載して税務署に提出します。
このような状況ですから、相続人Aから相続税の申告書が提出されていなければ、税務署としてはすぐに申告漏れを把握できるわけです。また、平成30年1月1日以後に生命保険契約等について死亡による契約者変更が生じた場合、翌年の1月31日までに、当該保険会社等から税務署に「保険契約者等の異動に関する調書」を提出する義務が課されるようになりました。生命保険契約に基づく保険金を受け取った場合、保険会社から税務署に支払調書が提出されますが、これまでは保険契約について死亡による契約者の変更があった場合に調書が税務署に提出されていませんでした。
この改正により、税務署は提出された調書によって生命保険契約等の契約者の変更を把握することができるようになったため、より一層課税漏れを防止できるようになったわけです。
参考:保険契約者の異動調書の提出義務化で課税漏れ防止
相続税の脱税はなぜバレるのか?
上記で説明をしてきた脱税と見なされるケースですが、どのような経緯で税務署にバレてしまうのかが気になると思います。ここでは、税務署がどのように税務調査を行っているのか、その手法等について解説したいと思います。
税務署の調査能力は諜報機関にも匹敵
税務署の調査能力は、いわゆる007に代表されるようなスパイ組織にも匹敵すると例えられることがあります。税務署にはKSKシステムといって、日本国民のありとあらゆる所得や財産に関わる情報が集約されているデータベースがあるといわれています。たとえば、Aさんがテレビで「1億円の宝くじに当たりました!」という発言をすると、その情報がKSKシステムに入力されるようです。
また、税務署は強力な調査権限を持っていますので、たとえば、前述のタンスから1,000万円が出てきましたというケースで、相続人がその現金を手元に置いておくのが怖いから自らの名義の口座に入金したとします。税務署は相続税の税務調査のときに、相続人の預金口座も金融機関に照会をかけて自由に調べることができます。そこで1,000万円の入金があれば、当然その原資が気になり、脱税がバレてしまうということになるでしょう。
脱税を暴く税務署の調査手法
相続税の脱税を暴く税務署の調査方法を簡単に3つご紹介したいと思います。
・ヒアリング
相続税の税務調査時に、相続人やその他利害関係者にヒアリングを行います。被相続人がどういった経緯で財産を築き上げたのか、どういった暮らしぶりか、生前の趣味は、相続人の職業や趣味は、などなどいろいろなことを聞かれます。一見関係なさそうな質問から、脱税の痕跡を発見するといったことも少なくありません。たとえば、海外旅行が趣味で年に何回も海外に行っていたという話をしたら、税務職員はその情報から、「もしかしたら海外に財産があるのでは?」と疑ったり、趣味が骨董品の収集でというと、「では、相続財産として計上すべき骨董品があるのでは?」と疑ったりします。
・半面調査
銀行や生命保険会社に対して被相続人名義の預金の有無や流れを確認したり、また場合によっては被相続人と生前懇意にしていた個人に対して直接、調査を行ったりすることもあります。税務署は、強制的に調査できる強力な権限を持っていますので、情報の開示を正式に求められた場合には、金融機関などはその開示を拒むことはできません。
・実地調査
相続税の税務調査はほとんどの場合、被相続人の自宅で行われます。自宅のタンスや床下、金庫等に計上漏れの財産がないか、また居間に飾ってある絵画にはちゃんと申告してあるかといった実地(現場)でわかることを調査します。通常の調査では、予告もせずに突然やってきて家中ひっくり返されるということはまずないです。しかし、それでも税務調査のときに、このタンスを開けてください、この金庫を開けてくださいといったことを要求されることは少なくありません。
相続税の脱税がバレたら最悪の場合は刑事罰
相続税の脱税が知られたら、経済的な罰金としてのペナルティが科せられるばかりではなく、最悪の場合、刑事罰となり懲役刑になってしまうことも有り得ます。脱税は犯罪ですので、バレないだろうという軽い気持ちで脱税を行うと後で痛い目にあってしまいますので注意が必要です。
脱税か節税か…脱税とみなされるラインは
相続税という法律は難解で、黒→脱税・白→節税のようにはっきりと線引きができない、いわば「グレーゾーン」が存在することも事実です。脱税か節税かの線引きが非常にあいまいなことも実務の現場ではよくあることです。
たとえば、前述の名義預金のケースでは、被相続人が原資を拠出し子ども名義になっている名義預金は100%相続財産かというと、そういうわけでもありません。10年前に子どもに預金通帳を渡していて、実際、それ以降は子どもがその預金通帳の預金の管理や運用をしていた場合にはその10年前の時点で贈与が成立し、すでに贈与税の時効を迎えており、おとがめなしといったことも考えられます。
ただし、だからといって、10年前に子どもに預金通帳を渡していればOKというわけでもありません。実際の運用は被相続人が指示していたといった場合には、実質的には贈与が成立していなかったとみなされる可能性も十分にありえます。
この名義預金のグレーゾーンは、過去に裁判で争いになったケースも多々あり、いまだ明確な判断基準がありません。
脱税とみなされなくともペナルティはかかる
相続税の税務調査で、相続財産の申告漏れの指摘を受けた場合、それがすぐに脱税と見なされるわけではなく、さまざまな事情や状況を加味して税務署が判断を行います。
ただ、その結果「うっかり申告を忘れていた」とみなされた場合でもおとがめが一切ないわけではありません。その場合でも、過少申告加算税と延滞税といわれるペナルティがかかります。過少申告加算税については、本来納めるべき税金に加えその15%が追加でかかり、また延滞税については年利約3%の割合でかかってきます。
脱税とみなされたら重加算税、そして刑事罰もあり得る
「財産を意図的に隠していた」とみなされた場合には、相続税の脱税とみなされ、上記の述べたよりもさらに重いペナルティがかかってきます。重加算税といわれるもので、本来納めるべき相続税に加えて35%もしくは40%も追加でペナルティを支払わなくてはなりません。さらに、これに加えて、場合によっては刑事訴追を受ける可能性があることも忘れてはいけない点です。
たとえばこんな事例があります。父の遺産を隠して相続税を約9,000万円脱税したとして、相続税法違反の罪に問われ懲役1年6ヵ月、執行猶予3年に処された相続人である子どもの事例です。
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