【米ドル円】東京海上アセットマネジメントが振り返る…8月最終週の「米国経済」の動き
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月1日 20時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
不安定ながらも円高傾向が続く値動きのなか、「円安トレンド」の転換が予感される現在、「米ドル円」に対する世の中の関心はかつてないほどに高まっています。そこで、来週の米ドル円相場の動向に影響を与えそうな、先週の米国経済の動きについて、東京海上アセットマネジメントが解説します。
ジャクソンホールでパウエル議⻑が「9⽉利下げ開始」を⽰唆
カンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議で23⽇、パウエルFRB議⻑は「政策を調整する時が来た」と、9⽉利下げ開始を強く⽰唆しました。
市場の焦点であった利下げ幅については、「利下げのタイミングとペースは、今後発表される経済データや⾒通し、リスクのバランスに依存する」と明⾔を避けつつも、「インフレ率が2%の⽬標に向けた持続的な経路にあることに⾃信を深めた」、「労働市場は以前の過熱状態から相当冷え込んできた。我々は労働市場の更なる減速を望んでいない」、「我々は⼒強い労働市場を⽀えるためなら出来ることを何でも実⾏する」と発⾔するなど、労働市場を過度に減速させない姿勢を鮮明にしました。
当初、市場参加者の多くは、ジャクソンホール会議で、パウエルFRB議⻑が9⽉利下げ開始を⽰唆すると予想していたものの、0.25%を超える⼤幅利下げについては、「(0.50%の利下げについて)今は考えていない」との7⽉FOMC後の記者会⾒での発⾔を踏襲する、とみられていました。
実際に、講演のなかでパウエルFRB議⻑が発した「政策調整をする時が来た」との表現は、次回9⽉会合での利下げを予告したに等しい発⾔となりました。
また、具体的な利下げ幅に関する⾔及はなかったものの、パウエルFRB議⻑は労働市場が減速していることへの警戒感を強くにじませており、「労働市場を⽀えるためなら出来ることを何でも実⾏する」と、利下げ幅について具体的な⾔及を避けつつも、必要であれば、0.25%を超える⼤幅な利下げもいとわない、という強い意志が⽰されました。
こうしたパウエルFRB議⻑のハト派的な発⾔を受け、9⽉の利下げ開始がほぼ確実となったことから、市場の関⼼は、その後の利下げ時期や利下げ幅にシフトしている、とみられます。
なお、執筆時点(8⽉30⽇)では、FF⾦利先物市場は9⽉以降、3回開催されるFOMCで、計1.00%の利下げを織り込んだ格好となっています(図表1)。
市場の予想通りに、年内1.00%の利下げが実現するかは、労働市場の減速ペース次第であるだけに、⽬先は8⽉の雇⽤統計(9/6公表)が焦点となります。
前回7⽉の雇⽤統計では、失業率が4.3%(6⽉︓4.1%)へ急上昇し、サーム・ルール※1に抵触したことで(図表2)、⽶国の景気後退への懸念が急浮上した経緯があります。 ※1)失業率の過去12か⽉の最低値に対して直近3か⽉平均が0.5%上昇した時に景気後退が始まるとされる法則
8⽉の失業率もサーム・ルールに抵触することになれば、⽶国経済の先⾏きに対する楽観的な⾒⽅が後退し、⾦融市場は再び混乱に⾒舞われる可能性があります。
そもそも、景気後退⼊りしたかどうかについては、NBER(全⽶経済研究所)といった⺠間研究機関が、さまざまなデータに基づいた議論を経たうえで判定しています。
NBERは景気後退の条件として、①「経済活動全般」にわたって「相当な下降局⾯」にあること、②数か⽉以上の持続的なものであること、③実質GDP、鉱⼯業⽣産、雇⽤、実質個⼈所得等で明⽰的な下降を⾒せていること、としています。
また、NBERが景気後退の判定について、「予測に基づいて⾏動することはなく、景気が明確に減速してから⾏動するため、景気後退⼊り後6〜18ヵ⽉後に判定を⾏う」としています。
実際に、新型コロナウイルス感染拡⼤がもたらした景気後退(2020年2⽉〜4⽉)については、2021年7⽉に認定されています。このため、景気後退懸念が⾼まる状況においては、早期に景気後退⼊りを検知することが期待される、新規失業保険申請件数などに注⽬が集まります。
1970年からコロナ禍前の2019年における新規失業保険申請件数(⽉中平均)と、景気後退局⾯の関係をみると、1970年代初期の事例を除き、新規失業保険申請件数が急速に増加して40万件を超えていくタイミングで、⽶景気が過去に7回、景気後退⼊りしたことが確認できます(図表3)。
⼀⽅、⾜もとでは、FRBが2022年3⽉から急ピッチで計5.25%の利上げを実施したにもかかわらず、新規失業保険申請件数が増加する動きは、弱いように⾒受けられます(図表4)。
新規失業保険申請件数は2023年⼊り後に、⽔準を切り上げているものの、振れを均した4週移動平均は、8⽉18⽇〜24⽇の期間において、23.2万件にとどまっています。
前述の通り、市場では、年内に1.00%の利下げを織り込んでいる状況にあります。利下げの織り込みにやや⾏き過ぎ感がみられるものの、新規失業保険申請件数の結果が、8⽉以降の失業率の悪化につながれば、年内1.00%の利下げの可能性も排除できないと考えられます。
高失業率を伴う、急激な景気失速のリスクに直面している
そのほか、ジャクソンホール会議で興味深い点として、「政策当局者が利下げが後⼿に回り、⾼失業率を伴うハードランディング(景気の急激な失速)となるリスクに直⾯している」といった主旨の論⽂が公表されたことです。
論⽂では、求⼈数と失業者数がほぼ⼀致している場合、⾼インフレ抑制には失業率の⼤幅な上昇を伴うとして、⽶国が1970年代に⾼インフレと⾼い失業率の同時進⾏に⾒舞われた例を挙げています。⼀⽅で、求⼈件数が失業者数を上回るといった、労働需給ひっ迫の状況においては、インフレ抑制により、失業率が上昇しにくいと指摘しています。
2022年に、ウォラーFRB理事が執筆したレポートにおいても、コロナ禍で急上昇した「失業者1⼈当たりの求⼈数」を1倍に近づけることで、失業率をそれほど上昇させることなく、インフレを抑制できることが論じられています。実際に、この説が正しいことは証明されています。
「失業者1⼈当たりの求⼈数」は、2022年3⽉の2.0をピークに、2024年7⽉に1.2まで低下しています(図表5)。
この間、インフレ率(コアPCEデフレーター)は、2022年9⽉につけた前年⽐+5.5%をピークに、⾜もとは同+2.6%に低下したものの、前述の通り、失業率は4.3%と急激な上昇は回避されています。
論⽂では、求⼈数と失業者数が拮抗し、失業率が⻑期平均を下回っているため、FRBが2%のインフレ⽬標を達成できる、と結論づけています(求⼈数と失業者数の推移は、図表6参照)。
もっとも、「失業者1⼈当たりの求⼈数」の低下が続けば、失業率が急上昇する閾値に達し、「失業者1⼈当たりの求⼈数」が0.8倍に低下した場合に、失業率は5%以上に急上昇するとの予想も⽰しています。
⽶調査会社コンファレンス・ボードが公表した、2024年8⽉の消費者信頼感指数は、103.3と、7⽉(101.9)から上昇し、2⽉以来の⾼⽔準となりました(図表7)。
同指数は、4⽉の97.5や6⽉の97.8を底に、緩やかに上昇しています。内訳をみると、現況指数(7⽉︓133.1→8⽉︓134.4)、期待指数(7⽉︓81.1→8⽉︓82.5)ともに上昇しました。もっとも、インフレによる家計負担の上昇や労働市場の軟化もあり、消費者信頼感指数の⽔準は、依然としてコロナ禍前を下回っています。
雇⽤環境に関する指標として、「職が豊富」との回答(7⽉︓33.4%→8⽉︓32.8%)が低下する⼀⽅で、「職探しが困難」との回答(7⽉︓16.3%→8⽉︓16.4%)が若⼲上昇した結果、前者から後者を差し引いた労働市場格差は、7⽉の17.1%から8⽉に16.4%へ低下しました(図表8)。
また、今後6ヵ⽉の収⼊が「増加する」との回答(7⽉︓71.2%→8⽉︓70.4%)が低下し、「減少する」との回答(7⽉︓11.6%→8⽉︓12.7%)が上昇しました。
労働市場に対する慎重な⾒⽅は、求⼈件数の減少や失業率の上昇などを反映しているとみられます。住宅の購⼊計画に関する指標は、単⽉の振れが⼤きいものの、8⽉は⼤幅に低下しました(図表9)。
今後6ヵ⽉以内に、住宅を購⼊するとの回答は、7⽉の4.7%から8⽉に4.1%へ低下しました。⽶⻑期⾦利はピークアウトこそしたものの、⾼⽔準が続く下で、家計の住宅購⼊意欲は冷え込んでいるとみられます。家計は将来の⾦利低下に対する期待(図表10)や、⼤統領選挙後の住宅購⼊に対する政策⽀援を期待して、住宅購⼊を⼿控えている可能性があります。
1年先の期待インフレ率は7⽉の+5.3%から、8⽉には+4.9%へ⼤きく低下しました。コロナ禍後に初めて5%を下回り、平時の⽔準に回帰しつつあります。期待インフレ率の低下はここ数か⽉、インフレが減速したことを⽰すCPIなどのデータと⼀致しており、FRBの利下げを後押しする材料となります。
東京海上アセットマネジメント
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【米ドル円】東京海上アセットマネジメントが振り返る…8月最終週の「米国経済」の動き』を参照)。
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