詰んだ…父亡きあとの実家不動産、母の名義にしなきゃよかった。安易な判断が、後日の「大トラブル」を招くワケ【司法書士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月9日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
父親が亡くなり、相続人は母親と子ども2人。遺産は自宅といくばくかの預貯金――。よくある状況ですが、深く考えず自宅を母親名義にしてしまうと、あとから困った事態になるかもしれません。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。
「実家の名義」は誰にするべきか?
両親と子ども2人の家族構成で、父親が亡くなり相続が発生――。その際に、父親の遺産である自宅不動産はどうしたらいいでしょうか? 多くの場合、母親が相続し、相続登記によって母親名義にすると思われます。しかし、それが最適解となるケースばかりではありません。
被相続人:父親
相続人 :母親・子ども①・子ども②
上記のパターンにおいては、母親名義で実家を相続登記したい、という相談は多くあります。とくに子どもたちが独立して実家を出ている場合などは、実家を母親名義にしようと考えるのは自然な流れです。
しかし、この選択にはメリット・デメリットがあるのです。
遺された母親が実家を相続する「メリット」
①母親の居住権確保
実家を子ども名義にした場合でも、母親が使用貸借(無償で借りる契約)で住み続けることに問題はありません。しかし、名義を母親にしておけば、法律上も母親が居住権を確保でき、確実に住み続けられるという安心感があります。
子ども名義にしていた場合、万が一親子の折り合いが悪くなったらどうでしょうか。所有者である子どもが「出て行ってほしい」と主張した場合、母親の立場は非常に不安定なものになってしまいます。そんな事態を回避できることから、母親名義にすることには十分なメリットがあるといえます。
②子ども同士の紛争の回避
上記の事例のように、子どもが複数人いる場合、子どものうちのだれか1人の名義にしてしまうと、ほかの子どもから不満が噴出し、紛争に発展する恐れがあります。
名義を母親にすることは、そんな事態の回避に有益です。母親が相続すれば子どもたちも納得し、紛争を防ぐ効果があるといえます。
③税制上の特例を利用できる
配偶者控除によって、相続税の支払いが不要になる、あるいは大きく減額される可能性があります。
遺された母親が実家を相続する「デメリット」
①母親が亡くなった場合、再度相続登記の必要がある
母親が亡くなって二次相続が発生すると、実家の名義を再度変更する必要が出てきてしまいます。それにより、手間と費用がかかります。
②認知症に伴うリスク
母親が高齢になれば、どうしても認知症のリスクが高くなります。認知症の診断が下ると、その後の相続で困るケースが出てきます。
まず、医師の診断による認知機能のレベルによっては、民法上において「意思能力のない人」という扱いになり、契約行為等ができなくなります。つまり、家の売却や名義変更ができなくなってしまうのです。
老人ホーム等への入居費用を捻出するために自宅を売却したくても、認知症では契約行為ができません。そのため、子どもが一時的に介護費用を負担する必要が出てきます。
もちろん、母親が老人ホームに入って実家が空き家になっても、所有者である母親は契約行為ができないのですから、成年後見制度の利用をする等しない限りは、相続が発生するまで売却できません。
認知症発症から相続発生までの期間がどのくらいになるかはわかりませんが、その間に建物が劣化するなどして、売却時に価格が下がる可能性も考えられます。また、市況の変化による売りのタイミングを逃してしまうかもしれません。子どもに資金的な余裕があればいいのですが、そうでなければ「詰んだ」状態になってしまいます。
このような困った事態を回避するには、実家はいずれかの子ども名義とし、それ以外の子どもには、現預金や保険金でバランスを取っておく方法もあります。
ただし、上述の通り、自宅の名義を子どもにすることで、母親の居住権が不安定となるリスクもあることから、居住権を確実にするには、遺言書で配偶者居住権を設定する等の対策の検討も必要でしょう。
家族信託の利用、遺言書の準備…先を見越した対策を
実家の名義を母親にすることのメリットとデメリットについて解説しました。家族の構成や関係性、資産状況によって検討すべき事項や相続手続きは異なります。
もし、実家不動産の名義を母親とする場合は、併せて家族信託などの利用も検討しましょう。そうすれば、母親が認知症になっても売却が可能になります。
もとより高齢で、認知症のリスクが高い場合は、名義を子どもにしておくことで、後々のトラブル回避が可能です。また、子ども名義にする際は、配偶者居住権を遺言書で設定することで母親が実家に住む権利も確保することもできます。
このような対策を、どういった形で遺言書に残すのかについては、司法書士や弁護士など、プロにご相談ください。
加陽 麻里布 司法書士法人永田町事務所 代表司法書士
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