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足元の市場の混乱の整理と当面の米国株の注目点

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月5日 7時0分

足元の市場の混乱の整理と当面の米国株の注目点

(※写真はイメージです/PIXTA)

8月上旬にかけて、米国株をはじめ世界の株式市場は軒並み全面安の展開となりました。世界的な市場の混乱の背景を整理しつつ、当面の米国株の注目点やリスクについて解説します。 ※本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が2024年8月20日に配信したレポートを転載したものです。

〈〈元のレポートはコチラ〉〉

世界的にリスク回避が広がった株式市場

2024年7月下旬から8月上旬にかけては、米国株をはじめ世界の株式市場は軒並み全面安の展開となりました。図1で足元の世界的なリスク回避の広がりの背景を整理してみると、以下に挙げる3つ要因から市場の混乱がもたらされたと考えることができます。

円キャリートレードの巻き戻しにより日本株が急落

第一に、日銀の利上げをきっかけにした円キャリートレードの巻き戻しの影響が挙げられます。

円キャリートレードとは相対的に金利が低い円建てで資金を借り入れ、高金利の通貨で運用する投資手法で、一部の運用資金は債券だけでなく米ハイテク株などにも向けられてきたと言われています。8月上旬にかけての円キャリートレードの巻き戻しは、急速な円高と株安が連鎖した日本株の急落をもたらしただけでなく、世界的な投資家心理の悪化にも影響を及ぼしたと考えられます。

もっとも、①8月7日に日銀の内田副総裁が今後の利上げへのハト派的な慎重姿勢を示したことや、②最新の投機筋の円先物ポジション(図2)において円キャリートレードの巻き戻しが概ね一巡しつつあることが示されたこと(8月13日時点の投機筋の円先物ポジションは2021年3月以来の円の買い越しに転換)などから、日本株や米ドル円相場を巡る市場環境は落ち着きを取り戻し始めています。

米国の景気後退への懸念が浮上

第二に、7月分の米雇用統計やISM製造業景気指数が市場予想を下回る結果となったことで、改めて米国の景気後退への懸念が浮上したことが挙げられます。

ただし、その後に公表された経済指標では、7月のISM非製造業景気指数が活動拡大を示す51.4に改善したほか、7月の小売売上高が市場予想を上回る前月比1.0%の増加となるなど、米国経済を支えるサービス業や個人消費はなお底堅さを維持していることが示されています(図3)。

もっとも、足元の米国景気は強弱が入り乱れている状況にあることから、今後の経済指標で景気の軟着陸の実現性を慎重に見極める必要がありそうです。

米ハイテク企業の業績鈍化が市場の不安要素に

第三に、米ハイテク企業の業績の伸びの鈍化が米国株式市場の不安定さを生む一因になっているとみられます。

足元では米国企業による2024年第2四半期の決算発表が終盤に差し掛かる中、情報技術セクターの一株当たり利益のポジティブ・サプライズ比率の急低下が顕著となっています(91.0%→74.1%、図4)。

これまでは人工知能(AI)ブームへの期待が米ハイテク株を押し上げる一因となってきたものの、市場はハイテク企業に対してAIブームからの具体的な利益貢献の成果を求め始めています。ハイテク企業の利益の伸びは2024年後半にかけて鈍化が見込まれ、今後は業績に応じてハイテク株への選別の動きが強まる可能性があります(図7)。

今後の市場の焦点はFRBの利下げの行方

足元で米国株式市場の混乱の収束が進みつつある中、今後は米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げの行方が市場の焦点となりそうです。

7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回る前年比+2.9%へ鈍化したことは、9月の利下げを後押しする要因になると考えられます。すでに先物市場では今後の大幅な利下げが織り込まれており、8月22-24日のジャクソンホール会議や9月17-18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において当局者のインフレ警戒姿勢が弱まり、景気や雇用に配慮したハト派な利下げ見通しが示されるかが注目材料と言えそうです(図5)。

米国株式市場にとっては、FRBの利下げは株価の回復を支える要因になると期待されます。過去の利下げの経験では、景気後退を伴わずに利下げが進められた局面において、米国株は堅調な上昇がみられました(図8)。その意味では、米国が景気後退を回避できるかが今後の米国株の方向性を左右する注目点になりそうです。

不透明な環境でも安定を維持する米国高配当株

また、2024年後半には、ハイテク企業の業績が一段と減速する可能性があることに加えて、接戦が予想される米大統領選挙の不透明感や、イスラエルとイランの対立による中東情勢への懸念も残されています。

こうした中、リスク分散の観点から、足元の不透明な市場環境でも安定したパフォーマンスを維持する米国高配当株への見直しが広がる可能性がありそうです(図6)。

和泉 祐一

フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社

シニア リサーチアナリスト

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