復調それとも現状維持か、世界のM&A市場動向…勢い増す米国、AIが欧米の争奪戦の場に
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月25日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
現在、M&A市場は回復傾向にあるものの、局所的には低調の名残が見えます。経済は調子が戻ったものの、産業ではコスト高という圧力の影響が続いている地域もあるようです。転換期は訪れるのでしょうか。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。
回復しつつあるM&A市場、今後の進展は
2024年上半期のいくつかのトレンドは、グローバルM&Aが回復基調にあることを示していますが、依然として、地域や地方のマクロ経済と規制の状況、株式市場の業績、流動性フローが、細かいレベルでディールメーキングに影響を与えています。
市場は、2021年から2022年にかけての高水準からは下抜けしているかもしれませんが、上半期の南北アメリカのM&A活動は、回復の兆しを見せました。欧州は最近、その成長にいくらかの改善が見られますが、地域としては出遅れているという事実は否めません。APACでは、上半期のM&A額が減少し、他の地域に遅れをとっています。
M&Aを促進していると、どのような進展があるでしょうか。また、ディールメーキングを抑制している要因は何でしょうか。
米国:勢いを増し、北東アメリカがM&Aの中心地に
第1四半期に大幅な減速を経験した後、米国は例外だという論調が再燃しています。第2四半期のGDPは年率で2.8%増加し、ディスインフレは軌道に戻りました。ディール総額は9,760億米ドルに達し、2023年上半期の7,350億米ドルを32.7%上回りました。
米国北東部が、南北アメリカにおける今後のM&A活動の中心地であることに変わりありません。790件のディール報告があり、この地域は、南北アメリカにおける潜在的なディール活動全体の約30%を占めています。
将来予測のデータによると、米国南部は強力なプレイヤーであり、609件の潜在的なディールを記録しています。この増加傾向は、税金が低いことや、緩和的な規制環境など、この地域の有利なビジネス条件と見合うものです。
エネルギー・鉱業・公益事業(EMU)ディールでは、豊富な天然資源を有するカナダとブラジルが目立つ存在です。
オイルサンドや天然ガスを含む、さまざまな再生可能エネルギー資源があり、多様なエネルギーを利用できる環境にあるカナダでは、EMUが引き続きM&Aを牽引しています。ブラジルでは、伝統的なエネルギー資源の分野で、このセクターの強みが表れており、水力発電も中心的な役割を果たしています。
南北アメリカ全体では、通信・メディア・テクノロジー(TMT)が常に最も活発なセクターとなっており、潜在的ディール件数は716件で、全体の27%を占めています。米国政府は最近、人工知能(AI)開発と半導体生産の国内回帰を推進しており、ディール活動が活発化する可能性が高まっています。
しかし、大型取引が行われているにもかかわらず、M&A件数は依然として低調です。この件数の低迷は、最も業績が良い3つのセクターすべてに見られます。TMTは18.7%減で、ビジネスサービスは26.3%減とさらに急減しており、製薬・医療・バイオ(PMB)業界も24%減となりました。
EMEA:先端技術への需要受け復調、転換期の可能性
EMEAのM&A市場は複雑な様相を呈しています。
資本投下はまずまずのペースで行われており、転換期を迎える可能性があります。ブロックバスターディールの顕著な増加という特徴も見られています。上半期には、ディール件数は減少しましたが、ディール総額は増加しました。ディール件数は前年同期比で13.9%減少しましたが、ディール総額は30.6%急増しました。
たとえ、経済がエネルギー危機の影から抜け出しても、欧州の産業の中心地は、逆風に直面しています。コスト高という継続的な圧力は、ドイツのエネルギー多消費産業に影響を及ぼしています。
それでも、DACH市場は大きな可能性を秘めており、工業および化学(I&C)セクターがこのサブリージョンを牽引しています。
トルコ、中東・アフリカ、中央および東欧州と南東欧州のサブリージョンは、今後予定されているディールやセクター全体の広がりと多様性において、DACHをわずかに上回っています。これらの地域では、TMTとI&Cがほぼ拮抗してディールフローを牽引しています。
EMEA全体でも、TMTは、人工知能(AI)、サイバーセキュリティ、クラウドサービスなどの先端技術に対する需要の高まりに伴い、引き続き多額の投資を集めています。
AIは、EMEAにおけるディールメーキング全体において、金額と件数ともに引き続き、米国がトップ入札国であることから、欧州と米国で重要な投資争奪戦の場として浮上しています。
EMEAにおけるプライベート・エクイティ・バイアウトは、金額ベースで急回復し、上半期には、前年同期比93.9%増の1,236億ユーロに達しました。バイアウト件数も13%増の1,531件となりました。
APAC:M&A額の落ち込みが逆転へ
広範なAPAC地域は、あらゆるディール市場のなかでも、最も強力な経済ファンダメンタルズを備えていますが、この点は最近のM&Aトレンドには反映されていません。APACにおける最近のM&Aデータの内容は、悲観的です。取引件数は、前年比で11.5%減少しました。
総額の減少はさらに顕著で、2023年上半期と比較して24.6%減少しました。メガディールはほぼ皆無で、今年上半期までに記録されたのは、3件のみでした。
セクター別では、上半期のAPAC M&A全体の54%をTMT、I&C、ビジネスサービスの各セクターが占めました。
TMTは1,287件のディールを発表し、トップでした。I&Cが717件でこれに続き、ビジネスサービスは483件で、比較的安定していました。ディール金額では、上位3セクターは取引件数ランキングとは若干の違いが見られました。不動産が、TMT、I&Cに続き、金額ベースで第3位のセクターとなりました。
中国、インド、日本は、APACにおけるM&Aの金額、件数ともに引き続き上位の入札国となっています。
オーストラリアとニュージーランドのM&A市場は、回復の兆しを見せています。重要な鉱物は、オーストラリアがこの分野での対外投資政策を微調整するなかで、EMUの焦点となります。
インドでは、米国と欧州の企業買収者が、経済の成長ストーリーに参入したいと考えているため、着実な資金流入が続いています。
清水 洋一郎 Datasite 日本責任者
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