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「政府の景気回復宣言」と「国民の景況感」が嚙み合わないトホホな理由【経済評論家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月8日 9時15分

「政府の景気回復宣言」と「国民の景況感」が嚙み合わないトホホな理由【経済評論家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

投資家のみならず、サラリーマンにとっても主婦にとっても気がかりな、わが国の景気動向。しかし、国が景気回復を宣言しても、実感との乖離を訴える人も多く、疑問が残るようです。なぜでしょうか? 「景気」の概念とその性質の基本から、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

最近では「在庫循環」による景気変動は滅多にない

経済学の教科書には「景気がよくなったり悪くなったりするのは在庫循環等が原因だ」と書いてあります。

景気がよくなると企業は増産する

  ↓

増産しすぎると在庫がたまる

  ↓

溜まった在庫を減らすために減産すると景気が悪化する

  ↓

減産がいきすぎて在庫が不足する

  ↓

企業が増産を始めるので景気がよくなる

というわけです。

昔は、経済に占める製造業の比率が高かったですし、在庫管理技術も未熟でしたから、そうしたことが重要だったのでしょうが、いまではサービス業の比率が高くなり、製造業の在庫管理技術も進歩しているので、在庫循環が景気を動かすことは滅多にありません。好況期に作りすぎて在庫がたまり、在庫削減のための減産が次の不況を深刻化させる…といったことは、いまでも起こりますが。

設備投資循環についても、過去は「景気拡大期に各社が一斉に設備投資をし、10年経つと各社の設備が古くなるので一斉に更新投資をする」といったことで、周期的に設備投資が盛り上がって景気を押し上げるといった現象が見られたようですが、最近ではコンピュータ関係など買い替え周期が短いものも増えてきているので、各社一斉に…というわけではないでしょう。

建設投資循環に関しても、建造物の耐用年数はそれぞれ大きく違っています。「コンドラチェフの波」については、筆者は学生時代からまったく理解できていませんでした(笑)。

※ 景気循環(サイクル)に関する学説のひとつ。

そもそも、リーマン・ショックのような出来事があると、それまでの在庫循環等々は振り出しに戻るわけで、「小さなリーマン・ショック」ならどうなるか、といったことを考えると、いまの経済には教科書の理論はあまり当てはまらないと考えておいたほうがよいでしょう。

景気は自分では方向を変えない

在庫循環等を考えないなら、景気の基本は「景気は自分では方向を変えない」ということになります。

景気が回復しているときは、物(財およびサービス、以下同様)が売れるので企業が増産し、そのために労働者を雇います。雇われた労働者は給料をもらうので消費します。だから、物が一層売れるのです。

物が売れているときは、企業が工場を新設するかもしれません。設備投資は鉄やセメントや設備機械の需要を増やし、それらの生産が増えるでしょう。設備投資資金も、銀行が喜んで貸してくれるでしょう。景気がよいときは企業が儲かっているので、銀行も安心だからです。

企業が儲かっていると、従業員たちも勤務先の倒産や自身のリストラを心配しなくなりますから、財布の紐が緩むかもしれません。

地方公共団体は、景気がよくなって税収が増えると「これまで待ってもらっていた公園を作る予算が捻出できました」ということで公園を作るかもしれません。

こうして、景気は上を向いているときはさらに上へいき、反対に下を向いているときはさらに下へいく、という性格を持っているのです。

景気回復宣言が出るのは「景気が2番目に悪い日」

景気が自分で方向を変えないということは、景気の方向が重要だということになります。いまの景気が悪くても、上を向いているならば時間とともに景気がよくなってくると期待できるからです。そこで、専門家たちは景気の方向を気にします。景気が回復している・拡大している・後退している、といったことのほうが、景気がよい・悪いよりも重視されるのです。

しかし、一般の人にとっては、景気がよいか悪いかが問題です。政府が景気回復宣言を出すと、かえって問題が起きることも珍しくありません。政府の景気回復宣言は、「景気の方向が下向きから上向きに変わった」という宣言であって、景気がよくなったという宣言ではないのですが、それを誤解する一般人が多いからです。

景気回復宣言が出るのは、景気が2番目に悪い日です。「昨日の景気は最悪でしたが、今日はそれより少しだけマシでした」というのが景気回復宣言ですから。しかし、〈景気回復宣言〉という言葉から「政府は景気がよくなったといっているが、実際には景気は全然よくなっていない。政府はなにをいっているのだ!」と立腹する人が多いのです。

重病人が一命を取り留めて病院で寝ていると、お医者様が「よかったですね。もう死ぬことはありませんよ。無理をしなければいつかは退院できますよ」といってくれたとします。そこで「私は全然元気じゃありません」と怒る人はいないでしょう。それと同じことなのですが(笑)。

景気の方向を変えるのは「外部要因」と「財政金融政策」

景気は自分では方向を変えませんが、実際には頻繁に方向が変わっています。それは、外から景気を動かす力が働くからです。米国発のリーマン・ショックで日本の景気が劇的に悪化したように、海外の景気変動が輸出等を通じて国内経済に影響する場合が多いですが、新型コロナ等の影響でも景気は変動します。

外部要因と呼ぶべきか否かは難しいところですが、バブルの崩壊とその後の金融危機も景気を悪化させます。バブルは滅多に起きないことだと思われがちですが、日本の平成バブル、米国のITバブル、米国の住宅バブル(リーマン・ショックの源)と立て続けに起きており、今後も起きると考えておいたほうがよいでしょう。

政府日銀が景気を変動させる場合もあります。政府は減税や公共投資で景気を回復させようとします。これを財政政策と呼びます。日銀は金利の上げ下げ等で景気を調節しようとします。これを金融政策と呼びます。景気が悪いときに景気を回復させようという場合が多いですが、景気が過熱してインフレが心配なときには景気をわざと悪化させてインフレを抑える場合もあります。

財政政策と金融政策については、別の機会に詳述することとしましょう。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

塚崎 公義 経済評論家

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