事業承継で後継者が「親族」の場合、〈相続税〉〈贈与税〉の納税が必須だが…負担軽減のために、必ず知っておきたい〈生命保険〉の活用方法【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月16日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
事業承継において、株式会社の場合は、後継者に株式の全部、または大部分を引き継がせることになります。後継者が血縁者であっても、従業員等であっても、事業の引継ぎに伴う混乱やダメージを最大限抑え、スムーズに承継できるような対策が必要です。今回は、ファイナンシャルプランナーの中山国秀氏が、「生命保険」の活用方法について解説します。
後継者が「親族=法定相続人」の場合に起こりうるトラブル
民法によれば、「法定相続人」は、下記のように定められています。
①配偶者+子 ……子が死亡の場合は孫、孫が死亡の場合はひ孫
②配偶者+両親
③配偶者+兄弟姉妹 ……兄弟姉妹が死亡の場合は甥・姪
では、先代であるご自身が、後継者の経済的負担を軽くするために生命保険を活用する場合、どのようにトラブルを解決することができるのでしょうか。
後継者が「血縁者=法定相続人」の場合、起こりうるトラブルは下記の4点です。
■相続での株式承継を行う場合
……相続税を納税する資金が必要
■生前贈与での株式承継を行う場合
……贈与税を納税する資金が必要
■株式以外の相続財産が少ない場合 ……後継者が他の法定相続人から「相続分」または「遺留分」を主張され、「代償交付金」の支払いが発生する
■後継者の社会的信用がまだない(少ない)場合 ……運転資金の融資が難しくなるケースがある
こちらを、生命保険を活用した場合には、それぞれ下記のように解決することが可能です。
①後継者のために必要な資金の準備
……経営者個人が「生命保険」に加入する
②株式(相続財産)の価値引き下げ
……「逓増定期保険」「長期平準定期保険」の活用で可能
③会社として後継者から自社株を買い取り資金を準備する
……「終身保険」「長期平準定期保険」(法人保険)の活用で可能
それぞれ、下記で詳しく確認していきましょう。
生命保険の個人加入…後継者のための資金を準備する
先代であるご自身が個人契約で生命保険に加入し、受取人を後継者にしておくことで、後継者個人のために必要な資金を準備することができます。
ただし、こちらは後継者が「配偶者・2親等内の血族」の場合です。配偶者or2親等内の血族~どちらもいない場合には、例外として「3親等内の血族」でも可能です。
配偶者or2親等内の血族の範囲は、下記図表をご参照ください。
とはいえ、両親や祖父母を後継者とすることはあまり考えにくいでしょう。後継者を血縁者にしたい場合、配偶者・子ども・孫・兄弟姉妹が対象になると認識いただければと思います。
子どもの配偶者(娘婿など・1親等の「姻族」)、兄弟姉妹の配偶者(2親等の「姻族」)、甥・姪(3親等の血族)を後継者としたいような場合、生命保険の受取人は2親等内の「血族」までですから、これらの人々は含まれません。
もし、養子をどうしても生命保険の受取人としたい場合には、養子縁組をして法定血族になってもらう必要があります。
生命保険金は、後継者だけが“独り占め”できる
また、後継者が受け取る生命保険金は、民法上は相続財産に該当しません。つまり、他の法定相続人の法定相続分や遺留分の対象にならず、後継者だけが独り占めできるといえます。
さらに、生命保険金は相続税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象ですが、「500万円×法定相続人の人数」の額について控除が受けられ、その分は相続税がかかりません。
後継者が先代(あなた)から相続した株式について、他の法定相続人が法定相続分や遺留分を主張してきた場合、後継者は生命保険金を利用して「代償交付金」を支払うことが可能です。
このように、生命保険金は相続した株式にかかる相続税の納税資金としても、たいへん有効です。
自社株の価値引き下げに役立つ「2つ」の保険
生命保険は、生前に後継者に株式をすべて贈与しておきたい場合にも有効です。
後継者が負担する税金を抑えるためには、株式の価値(評価額)を引き下げることが重要ですが、この引き下げに役立つのが、「逓増[ていぞう]定期保険」「長期平準定期保険」です。
これらは、一般的な保険に比べ保険料が高額となるものの、「損金算入」できる金額・割合が大きく、経費として大きな損金を計上できます。その結果、利益が圧縮され、株式の評価額が抑えられるのです。
「逓増定期保険」…5~10年後の事業承継対策に有効
「逓増定期保険」とは、加入時から短期間のうちに、死亡保険金額が当初の5倍程度まで増えていく定期保険のことをいいます。
・加入後に事業が発展するとともに、経営者も歳をとる
・経営者の死亡によるリスクが大きい
といった考え方からこのような保険が設けられています。
解約した場合、「解約返戻金」を受け取ることが可能です。なお、解約返戻金にはピークがあり、一般的には加入後5~15年目くらいに設定されています。ピーク時の解約返戻金の額としては、それまでに支払われた保険料総額の90%~100%程度であることが多いです。なお、保険料の一部を損金に算入することも認められています。
逓増定期保険の利用条件とメリット・デメリットは下記のとおりです。
〈逓増定期保険の利用条件〉
1.高額な保険料を支払える見通しが可能
2.引退時期(=退職金を受け取る時期)が5~10年後に決まっている
3.引退時期と解約返戻金の受取時期(ピーク)が同じ年度になるように契約できる
〈メリット〉
・5~15年で保険料の一定割合を損金に算入しながら退職金を準備できる
・保険料が高額となるため、利益圧縮の効果が大きい
・退職金支給時に大きな赤字を計上するリスクを減らすことが可能
・退職金の支給により多額の損金が出る
・解約返戻金の受け取りにより益金を計上することで、大赤字になってしまうのを避けられる
〈デメリット〉
・高額な保険料が会社のキャッシュフローを 圧迫するリスクが大きくなる
・解約返戻金の受取と退職金支給のタイミングがずれた場合、大幅な黒字を計上してしまうリスクがある
株価を下げようとしたせいで、キャッシュフローが悪化して経営を圧迫するという事態は避けたいものです。
逓増定期保険は計画通りの利用ができればメリットが大きいですが、 保険料の負担が大きく、また、解約するタイミングがずれてしまうと会社が高額な税金を納めなければならなくなってしまうリスクがあります。
したがって、高額な保険料を5~10年間支払い続けられる目処が立っていないようであれば、他の方法で利益を圧縮することを検討しましょう。
「長期平準定期保険」…20年~30年後の事業承継対策に有効
「長期平準定期保険」…20年~30年後の事業承継対策に有効
「長期平準定期保険」は、保険期間が大変長く、そのあいだの死亡保険金額が変わらない(=平準である)定期保険のことをいいます。解約返戻金のピークは20~30年後と、かなり遅い時期に設定されています。
保険料は、逓増定期保険と同様、一定割合が損金に算入されます。
長期平準定期保険の利用条件とメリット・デメリットは下記のとおりです。
〈長期平準定期保険の利用条件〉
1.高額な保険料を支払える見通しが可能
2.引退時期が(=退職金を受け取る時期)が20~30年後と、大まかに定まっている
3.引退時期と解約返戻金の受取時期(ピーク期間)が大まかに同じタイミングになるように契約できる
〈メリット〉
・20~30年かけて保険料の一定割合を損金に算入しながら退職金を準備できる
・保険料が高額となるため、利益圧縮の効果が大きい
・退職金支給時に大きな赤字を計上するリスクを減らすことが可能
〈デメリット〉
・保険料が高額であるため、会社のキャッシュフローを圧迫するリスクが大きい
・解約返戻金の受け取りと退職金支給のタイミングがずれた場合、大幅な黒字を計上してしまう可能性がある
長期平準定期保険は、解約返戻金のピークが加入から20~30年後となり、かつ解約返戻金のピーク期間が長いことから、引退の年度を“ぴたり”と定める必要はなく、“おおよそ”で決めておけばいいのが特徴です。
型通りでは退職金の支給によって多額の損金が出てしまいますが、解約返戻金の受け取りにより益金を計上し、会社が大赤字になるのを避けることができます。
一方、逓増定期保険ほどではありませんが、長期平準定期保険も保険料は高額です。そのため、十分な資金がない場合、キャッシュフローを悪化させる可能性があります。
株式を相続させたい場合に活用できる「2つ」の保険
会社が後継者から自社株を買い取り、後継者が代金を受け取ることで、相続税の納税資金に充てることができるという方法です。この際、会社側が自社株を買い取る資金を準備するために、生命保険に法人契約で加入しておくという方法があります。
自身が死亡した場合に、死亡保険金を会社が受け取るようにしておくことで、後継者から自己株式を購入する資金に充てることが可能です。「終身保険」「長期平準定期保険」、2種類の生命保険を活用する方法が考えられます。
自社株式の購入資金として利用する場合、注目すべきは、自身(あなた)が死亡した場合に会社が受け取る「死亡保険金」です。
「終身保険」
「終身保険」は、文字通り一生涯の死亡保障が続く保険です。そのため、なにがあっても確実に会社が保険金を受け取れるようにしたいのであれば、終身保険の加入・保有が最善といえます。
終身保険の特徴は、掛け捨てでなく、解約返戻金が増え続け、貯蓄性が高い点にあります。ただし、保険料は比較的高額に設定されていることから、キャッシュフローが悪化するリスクが大きいともいえます。
また、保険料は全額資産に計上されます。そのため、保険料で利益を圧縮するようなことは一切できません。
「長期平準定期保険」
「長期平準定期保険」は、保険期間が大変長く、その間の死亡保険金額が変わりません。ただし、「定期保険」のため期間が限られ、最長でも100歳までとなっています。
したがって、自身(あなた)が保険期間終了以降も長生きした場合、会社は保険金を1円も受け取れないというリスクがあります。自己株式の買い取りのための資金を準備する手段としては、終身保険ほど確実ではないといえます。
ただし、保険料は終身保険と比べれば低額なので、キャッシュフローが悪化するリスクは比較的低いでしょう。
また、保険料は一定割合が損金に算入されるため、利益を圧縮することも可能です。
中山 国秀
生活設計本舗 秀ちゃん
ファイナンシャルプランナー
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