パパ、実は相談があって…年金月24万円・69歳仲良し夫婦の“穏やかな老後”を奪い去った、愛する娘からの「まさかのひと言」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月16日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「愛しい娘と孫のためならなんでもしてあげたい」と、娘夫婦と仲睦まじい関係を続けてきた69歳のA夫婦。しかし、ひとり娘からの「とんでもないお願い」に仰天。牧野FP事務所の牧野寿和CFPは、A夫婦にどのような助言を行ったのでしょうか。みていきましょう。
娘と孫を溺愛するA夫婦…幸せな日々が一転、娘からの「不穏な電話」
69歳のAさんと同い年の妻Bさんは、とある地方都市の戸建て住宅に住んでいます。ふたりは、月24万円(Aさんが月17.5万円、Bさんが月6.5万円)の年金で、つつましく穏やかな老後を過ごしていました。
A夫婦には、ひとり娘のCさん(35歳)がいます。Cさんは5年前に結婚し、現在は専業主婦です。Cさんは夫と4歳の息子Dくんと3人で、都内の賃貸マンションに暮らしています。
Cさんの自宅からA夫婦の家までは、車で1時間ほどの距離にあります。そのためCさんは家族を連れて、毎週のようにA夫婦のもとに遊びに来ていました。娘のCさんも孫のDくんも溺愛していたA夫婦は、大喜びで一家を迎え入れていました。
そんなある日のことです。妻Bさんのところに、Cさんから連絡がありました。
C「もしもし、ママ? 今度の土曜日、Dと2人で行くから一晩泊めてね」
B「いいけど、Eさん(Cさんの夫)は来ないの?」
C「う~ん、ちょっと……。実は、Dの小学校受験のことでケンカしてて。今度行ったときに詳しく相談するけど、今回は2人だけで」
仲がいいはずのCとEさんのあいだになにがあったのかしら……Bさんは一抹の不安を抱えながら、「わかった。詳しくは来たときに聞くから、気をつけて来るんだよ」と言って、電話を切りました。
その週末、Cさんは連絡したとおり、Dくんと2人で実家を訪れました。Eさんがいない以外には、Cさんに特に変わった様子はありません。
Dくんを寝かせたあと、A夫婦は、リビングでCさんから詳しく話を聞きました。
A夫婦が驚愕した、ひとり娘の“夢物語”
現在4歳のDくんは、Cさんの自宅にほど近い私立幼稚園に通っています。「近いし枠が空いているから」とよく調べることなく入園させたのですが、仲良くなったママ友に話を聞くと、「卒園児の大半は、私立小学校に入学する」といいます。
他のママ友たちからも話を聞くにつれ、すっかり感化されたCさんは、Dくんも私立に通わせたいと思うようになったそうです。
C「パパ、私立ってすごくいいらしいのよ。いまの幼稚園の環境も素晴らしいし、できればDをエスカレーター式で小学校から大学まで通わせて、質のいい教育を受けさせたいの。でも、Eの稼ぎだけじゃどうにも無理そうで……お願いパパ、Dのためにお金を出してくれない?」
A「うーん……Eくんはなんて言ってるのかな?」
C「それが、『私立は魅力的だけど、身の丈にあった教育を受けさせるべきだと思う』って言うの! Eは地頭がいいからずっと公立でなんとかなったのかもしれないけど……。Dの将来の可能性が狭まるかもしれないって説得してるんだけど、聞き入れてくれないのよ」
A「……お金はどのくらいかかるんだ?」
C「受験にかかる費用はもちろん私たちで用意するんだけど、『お受験』まであと2年でしょ。塾に通うと1年間で100万円くらいかかるみたいだから、2年で200万円。それと、小学校からの学費もできたら半分くらいはサポートしてほしいかな。
あとね、お受験がうまくいくには親の人間関係がカギで、ママ友のランチ会や子どもの誕生日会に参加するのも重要みたいで。いいとこのレストランだし普段着では行けないから、毎月数万円はかかると思うの。パートに出ることも考えたけど、けっこう頻繁に集まりがあるから、時間が制限されちゃうしあんまり意味ないと思ってて」
Bさんがつい「待って。お洋服代も私たちに出せっていうの?」と口を挟むと、Cさんは「だって、なんとかしてお受験に受かってくれないと意味がないじゃない!」と語気を強めます。
A夫婦は、娘の突然の相談に驚愕。これまで、愛する娘の願いは可能な限り叶えてきたつもりでしたが、ここまでの大金を援助して欲しいと言われたことはありません。
翌日2人を送ったあと、夫婦で夜中までどうすべきか話し合いましたが、なかなか結論を導くことができませんでした。そこで、第三者の意見が聞きたいと、夫婦は知り合いのファイナンシャルプランナーである筆者のもとを訪れました。
幼稚園から大学まで「私立」に通わせる場合の教育費
文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、幼稚園3歳から高校3年生までの15年間、子ども1人当たりの学習費総額(保護者が子どもの学校教育および学校外活動のために支出した経費の総額)は次のようになっています。
また、文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果」によると、私立大学へ進んだ場合にかかる学費の平均は、次のようになっています。
・私立大学(学部)の授業料:93万0,943円
・入学料:24万5,951円
・初年度学生納付金(授業料、入学料、施設設備費の合計):135万7,080円
・実験実習料等を含めた初年度に納める総計:148万2,964円
■私立大学に4年間通った場合の学費総額……519万4,003円
つまり、Dくんが幼稚園からすべて私学に通うと、約2,357万円が必要となります。
別途、習い事や学習塾の月謝や、Cさんのいう“お付き合い”の費用も含めると、さらに毎年120万円以上かかりそうです。仮にこれらの半分を負担するとなると、出費はばかになりません。
A夫婦の援助は“非現実的”
A夫婦の資産は、自宅の土地と建物のみです。すでに住宅ローンは完済しており、Cさんが大学在学中に融資を受けた「国の教育ローン」も65歳までに完済していますが、退職金などでローン返済を賄ったこともあり、貯蓄は現在180万円ほどです。
65歳以降、年金収入の24万円のうち、毎月約22万円の支出で生活していることから、年間約30万円は貯蓄額が増えているそうですが、その額は微々たるものです。
よってA夫婦に、孫のDくんに援助する資金は到底ありません。無理に援助しようものなら、自分たちの生活が切迫してしまいます。
「Aさんたちにも、おそらくCさん夫婦にも、残念ながらお孫さんを私立に通わせる資金力はありません。幸いにもまだ受験準備を始めていないようですので、ここは娘さんに、率直に現状を話したほうがいいでしょう」と、筆者は心を鬼にして助言しました。
後日談
数週間後、再びA夫婦が筆者のもとを訪れ、その後について話をしてくれました。
筆者の助言どおり、A夫婦はCさんに事情を話したところ、Cさんはショックを受けながらもしぶしぶ納得。その後しばらくして、Cさん一家が、今度は夫を連れた3人で、A夫婦のところに遊びに来ました。そして、次のような会話があったそうです。
Eさん「このたびは大変ご迷惑をおかけしました。Dは公立の小学校に進学させます。僕も妻の熱気に押され、両親に援助してほしい旨を話しに行ったのですが、『そこまでの持ち合わせはない。現実を見ろ』と、あっさり断られてしまいまして」
Cさん「Eの大学の同級生がね、小さい子を対象にした理科実験教室を開いていて。月謝はそこまで高くないんだけど、Dと見学に行ったら、すごくよくて。Dも気に入ったみたいだから、お受験の代わりとまではいかないけど、そこに通わせることにしたの。そのお金は私がパートで稼ぐから、ママとパパは心配しないで。あとね、Dが小学校に上がったら、フルタイムで働こうと思ってる」
A夫婦は、愛する娘とケンカになるかもしれないと不安でしたが、心底ほっとしたそうです。
Aさんは筆者に、一連の話をしたあと、「今回はなんとかなりましたが、中学受験をさせたいと言い出したらどうしたらいいですかね? そのときまでには300万円くらいは貯まっているとは思うけれど……」と尋ねます。
筆者は、「小学校受験までは親の意思の影響が大きいですが、中学校以降の受験については、お孫さん本人の意思をまず尊重すべきでしょう」と答えました。
孫の教育費用を祖父母が援助する場合、あくまでもA夫婦自身の生活が成り立つ程度が限度額です。いくら子どもや孫が可愛くても、自分たちの生活を犠牲にすることなく、「余裕があれば援助する」という気持ちでいたほうが、のちのち子どもや孫に迷惑をかけることなく暮らすことができるでしょう。
牧野 寿和 牧野FP事務所合同会社 代表社員
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