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単なる「資金調達」の手段ではない…事業承継×企業成長を叶える可能性を秘めた“IPO(新規株式公開)”という選択肢【経営コンサルタントが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月18日 19時0分

単なる「資金調達」の手段ではない…事業承継×企業成長を叶える可能性を秘めた“IPO(新規株式公開)”という選択肢【経営コンサルタントが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

大西靖彦氏(株式会社タナベコンサルティング)は、事業承継の方法の1つである「IPO(新規株式公開)」は単なる資金調達の手段ではなく、企業の未来を大きく変える可能性のある選択肢だといいます。本記事では、大西氏が「IPO」が持つ可能性について解説します。

”事業承継”が企業の未来を大きく変える

事業承継という言葉を耳にするたびに、私たちはその背後にある複雑な感情と挑戦を思い浮かべる。

家族経営の企業が次の世代にバトンを渡す瞬間、それは単なる経営の移行ではなく、企業の魂を次の世代に託す重要な儀式となる。特に中小企業においては、創業者や現経営者が引退する際に、次世代へのスムーズなバトンタッチが求められる。

事業承継の方法には、親族内承継、従業員承継、M&A(合併・買収)など多くの選択肢があるが、今回はIPO(Initial Public Offering、新規株式公開)について解説する。

事業承継の手段としての“IPO(新規株式公開)”

事業承継の手段が多くあるなかで、IPO(新規株式公開)という選択肢が検討されることがある。IPOは単なる資金調達の手段としてだけではなく、企業の未来を大きく変える可能性を秘めた選択肢である。

IPOを選択する意義を理解するためには、まずその背景にある企業の成長と変革の物語を紐解く必要がある。多くの企業は創業者の情熱と努力によって築かれ、その後、家族や近しい仲間たちによって支えられて成長する。

しかし、時代が進むにつれて、企業は経営環境の変化と新たな挑戦に直面する。市場の変化、技術の進化、そしてグローバルな競争環境のなかで、企業は成長と持続可能性を追求し続けなければならない。

IPOは事業承継または企業が新たなステージに進むための1つの手段である。株式市場に上場することで、企業は大規模な資金調達を実現し、成長戦略を加速させることができる。

IPOで得た資金を新たな事業展開や技術開発、さらにはグローバル市場への進出などに投資することで、次の世代が持続可能な成長を実現するための原動力を得ることができる。

また、IPOは企業の透明性と信頼性を高める重要なステップでもある。株式市場に上場するためには厳格な情報開示とガバナンスの強化が求められるが、これによって、企業は外部の投資家やステークホルダーからの信頼を獲得しやすくなる。

透明性の向上は企業のブランド価値を高め、顧客やパートナーとの関係を強化することにもつながる。

IPOによる見直しと改善→持続可能な成長

さらに、IPOは企業の文化と組織の変革を促進する力を持っている。上場企業としての責任と期待に応えるためには、企業は内部のプロセスやガバナンスを見直し、改善する必要があるためだ。IPOをきっかけに、企業はより効率的で効果的な経営を実現し、持続可能な成長を追求することができるのである。

事業承継における選択肢としてIPOを実現できれば、次世代への大きな贈り物となる。つまり、IPOは創業者や現経営者が築き上げた企業の価値を最大化し、次の世代に引き継ぐための重要なステップとして捉えることができる。

IPOを通じて得られる資金と信頼性は、次の世代が新たな挑戦に立ち向かい、企業をさらに成長させるための強力な武器となるだろう。

しかし、IPOを選択することは簡単な決断ではない。上場には多くの準備と努力が必要である。具体的には、企業は内部のプロセスを見直し、情報開示の体制を整え、外部の専門家と協力して上場準備を進める必要がある。

また、上場後も継続的なガバナンスと情報開示が求められる。これらの努力は企業の成長と持続可能性を追求するための重要なステップであり、次の世代に対する責任でもある。

IPOのメリット・デメリットとは?

IPOは企業が新規に株式を公開して証券取引所に上場することを指すため、「ファミリーカンパニー」から「パブリックカンパニー」へ進化すると言い換えることができるが、「パブリックカンパニー」になるためのハードルは決して低くない。

それゆえに得られるものも多く、事業承継×企業成長の1つの手段になりえる。以下にIPOのメリット・デメリットを整理する。

<メリット>

①資金調達手段の多様化 IPOにより企業は株式市場から広範な資金を調達することができる。これにより、銀行借入や社債発行に依存しない資金調達が可能となる。

②経営の透明性と信頼性の向上 上場企業は定期的な情報開示が義務付けられており、経営の透明性が高まる。これにより、投資家や取引先からの信頼が向上し、ビジネスチャンスが拡がっていく可能性が高い。

③株式の流動性向上 上場により株式の流動性が高まり、株主が株式を売買しやすくなる。これにより、創業者や現経営者が保有する株式の一部を売却し、資産を現金化することが可能となる(創業者利益の確保)。

<デメリット>

①コストの増加 IPOには多額のコスト(上場準備費用、監査費用、法務費用、IR活動費用など)が必要となり、上場後も維持コストなどが継続的にかかるため、企業の負担となる。

②経営の自由度の低下 上場企業は非上場企業に比べ、株主や投資家の利益を考慮した経営が求められることから、経営の自由度が低下し、短期的な利益を優先する圧力がかかる傾向にある。

③情報開示の負担 上場企業には定期的な情報開示が義務付けられており、これに伴う負担が増加する。特に中小企業にとっては、情報開示のためのリソース確保が課題となることが多くある。

事業承継におけるIPOの2つのハードル

さらに、事業承継においてIPOを検討するにあたり、大きく2つのハードルが存在する。1つ目は「株式」の問題である。事業承継と一言で表現しても、後継者がいるケースと後継者がいないケースがある。

後継者がいないケースでは、今保有している株式を承継しないといけないが、IPOの際に全部の株式を売り出すことは難しい場合もある。だからこそ、事前に資本政策を考えることが非常に重要である。

2つ目は「株価」、つまり「企業価値」である。IPOしたいと思っていても、株価に思うような値段が付かない場合はIPOが難しくなる。多くの株主に株式を保有してもらったとしても、市場から魅力的な会社と思われなければ、思うような株価がつかない。

この2点は事業承継におけるIPOを検討するなかで重要なことであり、超えなければならないハードルである。この2つのハードルによって上場を諦める会社も多く存在するが、しっかりとした準備を行い、企業成長に本気で向き合うことでクリアしていくのが理想的である。

IPOには大きなメリットがあるものの…

事業承継におけるIPOは、企業の成長と持続可能性を確保するための有力な手段といえる。IPOを通じて得られる資金や経営の透明性向上は、次世代経営者にとって大きなメリットとなる。

しかし、IPOには多額のコストや経営の自由度の低下といったデメリットも存在する。事業承継においてIPOを選択する際には、これらのメリット・デメリットを十分に理解し、慎重に検討することが重要である。

成功するためには綿密な計画と準備が不可欠であり、専門家のサポートを受けることも有効である。なにより、上場するという「志」が最も必要であると筆者は考える。事業承継は企業にとって大きな転換期である。

事業承継におけるIPOを通じて、何世代にもわたり持続的成長を続ける企業が1社でも多く増えることを期待する。

大西靖彦

株式会社タナベコンサルティング

コーポレートファイナンスコンサルティング事業部

ゼネラルマネジャー

金融機関にて法人営業に従事し、多数の企業の事業承継を支援。その後、事業会社にて株式上場準備を担い、組織再編や事業戦略構築、ガバナンス強化などの経験を経て、タナベコンサルティングへ入社。「誠実に顧客の経営課題と向き合う」をモットーに、中期経営計画の策定、ガバナンス体制構築、事業承継(親族内承継からM&Aまで)、IPO支援、PMIコンサルティングなど、幅広く案件を手掛ける。

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