取引相手と長期的な関係を築く…「メインバンク制」と「下請け制」の想像以上に大きなメリット【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月15日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
多様な働き方が実現される現代においても、日本企業の正社員終身雇用制度は、根強く主流であり続けています。それと同じく、日本では銀行取引も仕入れ取引も、同じ相手と長期的に取引するケースが多いでしょう。取引相手と長期的な関係を築くことで生まれる双方のメリットについて、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
日本企業、従業員のみならず「銀行との付き合い」も長期的
日本企業は、従業員を終身雇用で雇います。最近は非正規労働者が増えていますが、正社員については相変わらず原則として終身雇用です。従業員との長期的な関係を重視しているわけです。
同様に、銀行取引も仕入れ取引も、同じ相手と長期的に取引する場合が多くなっています。米国的に考えれば「その都度、最も条件のよい相手を探すべき」ということになりますが、日本的な発想は異なるのです。
銀行については「メインバンク」、仕入れ先については「下請け」という制度があります。いずれも、当事者双方にメリットがあるからいまでも続いているわけです。
企業・銀行間の「暗黙の了解」のもと成立するメインバンク制
日本企業の多くは、特定の銀行ととくに親しく付き合っています。これを「メインバンク」と呼びます。預金も借入も為替取引も主にメインバンクと行って、メインバンクに手数料等々を支払っているわけです。その代わりメインバンクは、借り手が苦境に陥ったときに温かく見守るという「義務」を負います。
銀行は、借り手が苦境に陥ったときには他行に先駆けて返済要請をすることが合理的です。借り手が財産を全部売っても借金を返せないようになるとすると、先に返済を受けた銀行が有利だからです。しかし、それだと借り手は困ります。
そこで、メインバンクが「御社が苦境に陥っても温かく見守ります」といってくれることは大変ありがたいわけです。実際に口に出したり、契約書を交わしたりすることはまれですが、両者間に「暗黙の了解」が存在するのです。
暗黙の了解ですから、メインバンクがそれを破ったとしても法的な問題は生じません。しかし、借り手が「あの銀行は冷たい。メインバンクなのに率先して返済要請をしてきた」「そのせいでわが社は倒産した」などといえば、ほかの借り手が、「あの銀行をメインバンクにするのは不安だ。他行にメインバンクを頼もう」などと考え、結果、銀行は多くの取引先を失ってしまうかもしれません。それが怖いので、メインバンクは「暗黙の了解」を大切にするのです。
余談ですが、筆者は日本が攻められたときに米国が守ってくれると考えています。それは、米国が親切だからではなく、米国が日米安保条約に反して日本を守らなかったら、ほかの同盟国が米国との同盟関係を見直すことになり、米国はそれを恐れるはずだからです。メインバンクが考えることと同じですね。
もちろん、メインバンクも必ず見守ってくれるわけではありません。借り手の経営状態があまりに酷ければ、見放さざるを得ないでしょう。その基準は「この借り手を見放したら、世間はどう思うだろうか? ほかの借り手は逃げてしまうだろうか?」という他者目線です。
バブル崩壊後の金融危機時は、各銀行とも余裕がなかったので、基準が下がっていたようですが、その後、銀行が元気になるにつれて戻ったと筆者は理解しています。
銀行員は、一定の年齢になると銀行を退職し、取引先の経理部長になる場合もあります。銀行としては、全員を役員にすることはできませんから、銀行員の再就職先が確保できるのは大いに助かります。
借り手としては、銀行から経理部長が来ていると粉飾決算ができませんが、むしろそれが銀行を安心させる材料となり、融資を受けやすくするわけです。もうひとつ、銀行としては経理部長を送り込んでいる借り手が苦境に陥った場合、簡単に見放すことができないでしょうから、それも借り手の安心感につながっているわけですね。
下請け制度のメリット…意思疎通が容易、設備投資も決断しやすい
大企業が部品を仕入れる際に、いつも同じ会社(下請けと呼びます)から仕入れる場合が多いのですが、この制度にも合理性があります。部品メーカーの技術力や納期の正確性等に関するリスクが小さいこと、打ち合わせが「前回通りで」で終わる…などのメリットがありますが、ほかにもメリットは多数あります。
毎回同じ企業から仕入れることがわかっていれば、下請企業は思い切って設備投資をすることができます。それによって生産効率が上がり、安く部品を納入することができるようになれば、親会社にとってもメリットとなるでしょう。
親会社が下請けに技術指導をすることもできますし、場合によっては新製品の開発段階で下請企業と共同作業ができるかもしれません。そうなれば、新製品の開発を終えてから「このスペックで部品を作れる企業を探しています」と広告するよりも、生産開始時期が大幅に早まるでしょう。
「真面目に働かなくても将来の受注が確実なら、サボる下請けが出てくる」という懸念はありますが、あまりに酷い場合には下請けを切られる可能性もありますから、それを考えれば下請けがサボるインセンティブは大きくないでしょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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