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「なけなしの貯金ですが…」自分が孤独死したあとの遺産は妹ではなく「推し」に託したい…指定難病におかされた52歳派遣社員男性のささやかな望み【行政書士の助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月20日 6時15分

「なけなしの貯金ですが…」自分が孤独死したあとの遺産は妹ではなく「推し」に託したい…指定難病におかされた52歳派遣社員男性のささやかな望み【行政書士の助言】

※写真はイメージです/PIXTA

連絡を取る家族もいない、独身だから自分が築いた家庭もない。そんな52歳独身男性がある日難病を宣告されたら? 「おひとりさまこそ、手遅れになる前に早いうちから財産の相続人について考え、対策を講じなければならない」と話すのは露木行政書士事務所の行政書士である露木幸彦氏。本記事では、露木氏が「本来相続人ではない人に財産を譲渡する方法」について解説します。

「おひとり様」の終活準備

2021年度の生涯未婚率は、男性で23.4%、女性で14.1%まで上昇しました。さらに内閣府の「少子化社会対策白書」では、2040年には男性29.5%、女性18.7%になると予測されています。つまり、20年後、3人に1人は一度も結婚せず、独身のまま、孤独に人生を終えることを意味します。

ところで「おひとりさま」という言葉が世の中に浸透してから約20年。もともとは同居人のいない人を指す言葉で2005年の新語・流行語大賞にノミネートされたことがきっかけで広まりました。当初はフレンチのコース、日帰りのバスツアー、人気のテーマパーク……これらを「ひとり」で行けるかどうかで大変、盛り上がりました。実際のところ、出生動向基本調査(2021年、国立社会保障・人口問題研究所)によると、独身男性は独身の利点の内容として「行動や生き方が自由(71.0%)」、「金銭的に裕福 (10.5%)」、「家族を養う責任がなく、気楽(8.3%)」を挙げていますが、これはあくまで若者の話。

一方、中年のおひとりさまにとって最も関心があるのは「孤独死への不安」という人も多いです。そこで今回、取り上げたいのは孤独の相続。家族の有無でその意味合いは全く変わってきます。どのように「終活」の準備をすれば良いでしょうか?

まず既婚男性の場合、遺産を相続するのは妻子です。家族のため、なるべく多く残してあげたいという気持ちが働きますが、未婚男性の場合は違います。なぜなら、相続する家族が誰もいないからです。そのため、「自分のため」という気持ちしかありません。例えば、国に持っていかれるくらいならパーッと使い切るか、慈善団体にでも寄付するか、いや老後のことが心配だから残しておくか……。

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして相続の相談を受けていますが、今回の相談者・清野康成さん(52歳。仮名)も自分のことしか考える余裕がなかった一人です。彼は突然、難病に侵され、いつ合併症を併発するか分からず、不安な日々を送っていましたが、何があったのでしょうか?

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また本人の年齢や家族の構成、未婚の経緯や財産の金額などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

未婚男性に突然の難病宣告。財産相続先は?

康成さんが社会に出たのはバブル崩壊後。残念ながら、新卒で正社員として就職する先がなく、派遣社員として30年間、汗を流してきました。実際のところ、出世する可能性はなく、昇給する見込みもなく、2~3年で勤務先が変わる不安定な生活。「日々、生きているだけで精一杯でした」と振り返ります。

前述の出生動向基本調査によると独身男性のうち、37%は恋人として交際した経験がなく、44%は性交渉の経験がなく、92%は同棲の経験がありませんが、康成さんも同じくです。

この歳になっても、ほとんどお金は貯まらず、自分の貯金はコロナ禍で支給された定額給付金しかありませんでした。財産といえる財産は親から相続した遺産のみ。「実家の土地、建物を売ってもらった400万だけですよ」と自嘲気味に言います。

そんななか康成さんは急な下痢や腹痛に悩まされていました。そこで意を決し、病院に駆け込んだのですが、検査の結果、「クローン病」と診断されたそうです。これは大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症、潰瘍を引き起こす原因不明の疾患。厚生労働省は難病に指定しており、高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症を引き起こす可能性のある病です。男性と女性の比は、約2:1。男性がかかりやすい病気です。

筆者のホームページにはLINEのIDを掲載していますが、康成さんが筆者のLINEに友達申請をしてきたのは、そんなタイミングでした。筆者は「手遅れにならないよう、何かあった場合のことを考えなければなりませんよ」と励ましました。

一度も結婚したことのない康成さんに妻子はおらず、両親はすでに他界。妹とは15年来、音沙汰なし。このように誰一人として頼れる人がいないので、このまま孤独死した場合、400万少々の貯金を誰に託せば良いのでしょうか? 康成さんは「できれば『推し』にあげたいんですが…」と明かしました。思わず、筆者が「それは誰のことですか?」と尋ねると、康成さんは恥ずかしそうに語り始めました。

なけなしの貯金を遺したい相手は「推し」だった

康成さんは43歳のとき、うつ病にかかり、働けず、寝込んでいた時期がありました。そんなときに励まされたのが「彼女」です。「彼女」というのははいわゆる地下アイドル。まだ有名ではないけれど、距離化の近さでファンを獲得しているグループです。康成さんは「彼女の夢を持って頑張っている姿に惹かれました」と嬉しそうに話します。

特に夢はなく、働くことも楽しいと思ったことはなく、生きていくために最低限の努力しかしてこなかったという康成さん。そんな康成さんにとって彼女は生き方も働き方もまったく正反対の存在でした。「だからこそ、応援したいと思いました」と声を弾ませる康成さん。もし若い頃に出会っていたら本気で恋愛をすることを考えたかもしれません。

とはいえ齢50を超えた今、それは現実的ではありません。彼女を応援すること……なけなしの小遣いでCDやグッズを購入したり、握手会や販売会などのイベントに参加したりすることが生きがいになりました。最近、推しの誕生会で病気のことを打ち明けたところ、「頑張ってください!」と気にかけてくれたそう。希望がない不安な生活のなか、彼女の存在が一時の清涼剤となり、何とかやり過ごせたのです。

康成さんに伝えたアドバイスの内容は?

しかし、康成さんの希望を叶えるには二つの問題がありました。まず1つ目の問題は康成さんにとって第一の相続人は妹さんだということです。もちろん、妹さんに「彼女に貯金を渡して欲しい」と頼むことも可能といえば可能でしょう。しかし、15年もの長きにわたり、連絡をとっていないので、妹さんがどう動くのかは分かりません。そこで筆者は遺言を残すことを提案。

兄弟姉妹には遺留分(どんな遺言を書いても残る相続分)が認められていません。(民法1042条)そのため、「彼女にすべて」という遺言を残せば、妹さんの相続分はゼロになります。妹さんは結婚しており、2人の子どもがいます。幸せな結婚生活を送ってきた妹さんは、康成さんの苦労など露ほども知らないでしょう。

もちろん、妹さんからすれば、兄が自分ではなく、どこの馬の骨かも分からない女性に財産を渡すのだから気分を害するでしょう。それでも康成さんは「妹には家族がいるし、僕の少々の貯金なんていらないでしょう」と言い、逝去後、妹さんにどう思われてもいいと開き直ったのです。

そして二つ目の問題は推しの彼女の名前、住所を知らないことです。まず彼女は本名で活動しているか分かりません。さらに住所を調べる方法もありません。本人に向かって「これって実名なんですか? どこに住んでいるんですか?」と尋ねたら、出入り禁止になるでしょう。「遺言で全財産を譲りたいんです!」と言えば、なおさら怪しまれます。

そこで筆者が考えたのがアイドルを運営している会社に託す方法です。ホームページには会社名、所在地が書かれていました。実際のところ、法務局で登記簿謄本(全部事項証明書)を手に入れたところ、確かにこの所在地にこの法人が存在していました。遺贈(財産を渡すこと)の相手は個人だけでなく法人も可能です。いったん会社に受け取ってもらい、会社の担当者に彼女へ渡すように頼むのです。

もちろん、それは確実ではありませんが、少なくとも妹さんに任せるよりは可能性が高いでしょう。康成さんは「それでいいです」と言い、筆者が文面を用意し、康成さんがその通りに手書きした上で署名捺印をしました。こうして康成さんは悩みの種の一つを解消し、病気と闘うことに集中できたのです。

ここまで康成さんが「推し活」相手に財産を残すまでの手続について見てきましたが、法律上、相続の優先順位は愛情より血縁です。何もしなければ一番、愛している人より一番、血筋が濃い人に財産が渡ってしまいます。愛情の深さと財産の多さを一致させるには遺言を残すなどの工夫が必要です。

露木 幸彦 露木行政書士事務所 行政書士・ファイナンシャルプランナー

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