世帯年収900万円・40代夫婦、戸建て購入から10年後“地獄のマイホーム生活”へ…誠実そうな営業マンの「家賃並みの返済額で買えますよ」を信じた末路
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月15日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
人生で最大の買い物と呼ばれることもある「住宅の購入」。ほとんどの人が住宅ローンを利用することになりますが、ローンの組み方以外にも多くの落とし穴が潜んでいます。営業マンから「現在の家賃はおいくら程度ですか?」と訊かれ、家賃を答えると「今の家賃並みの返済月額で購入できますよ」と嬉しい返答。しかし、ここで安易に購入を決めてしまうと、後々自らの選択を悔いることに……。本稿では、営業マンが口にする「家賃並みの返済月額で購入できる」という言葉の真実について、FPの矢島大資氏が解説します。
営業マンの「今の家賃並みの返済金額で買えますよ」という甘い言葉
介護関係のお仕事をされているAさん夫妻。ご主人と奥様は同い年で現在48歳、共働きで世帯年収は900万円ほどです。10年前、夫妻は比較的都市部にある家賃月15万円の賃貸マンションに長女と3人で暮らしていました。常々「いつかは家がほしいね」と話していた夫妻でしたが、次女が生まれて賃貸マンションが手狭になったのを機に、一戸建ての物件を探すことに。
いくつか物件を閲覧するなかで、少し郊外にはなるものの、ついに欲しいと思える新築の建売物件が出てきました。ただ、その新築物件の金額は5,500万円。大きな金額であるため、購入できるのかどうか悩んでいたところ、誠実そうで笑顔が印象的な営業マンから「持ち家は一生の財産になる」「今の家賃並みの返済金額で購入できますよ」といった言葉を聞き、心が躍りました。
加えて、(購入された当時は)「住宅ローン減税で10年間は毎年数十万円が還付される」とも言われ、「ひとまず住宅ローンの仮審査をしてみませんか」と同営業マンに提案されます。Aさん夫妻は「借入ができることがわかってから購入をしっかり考えればいいかな」という思いで銀行に審査を申し込みました。すると、変動金利であれば家賃並みの支払いで購入することができそうでした。
当時30代後半での住宅購入だったため、35年フルローンということに多少の不安はあったものの、元利均等返済方式、0.75%の金利だと毎月約14.8万円のローン支払額です。「今の家賃並みの返済金額で購入できる」ということもあり、将来のライフプランを詳しく検討しないまま、念願のマイホームを手に入れたのでした。
賃貸・持ち家にはそれぞれメリット・デメリットが。戸建ては「資産性」に注意
住宅を購入したAさん夫妻ですが、持ち家は資産としてよい選択だったのでしょうか。賃貸と持ち家にはそれぞれ、大きく分けると以下のようなメリット・デメリットがあります。
●賃貸のメリット
・住み替えが容易
●賃貸のデメリット
・いつまでも家賃を払い続けなくてはならない ・インフレになれば家賃が上昇する可能性がある
●持ち家のメリット
・住宅ローン完済後は自分の物(資産)になる ・(固定金利の場合は特に)毎月の支払額が固定されるためインフレヘッジになる ・入居後もリフォームなどは自由にできる
●持ち家のデメリット
・住み替えが簡単にできない ・毎月の返済額以外にも費用が必要
Aさん夫妻にとって、部屋が広く騒音の心配が少ない一戸建ては、周囲に気を遣うことも少なく快適そのものだったといいます。しかし一方で、資産性としてはどうでしょうか。自宅を担保とした将来の老後の資金調達手段として、リバースモーゲージやリースバックといった手段もありますが、主に評価されるのは土地価格です。
土地価格は一部の地域を除き、郊外型の一戸建ては将来的には供給過剰になる可能性があるといわれていますので、よほどの立地でない限り資産性として大きな期待をすることは難しいと考えられます(少子高齢化のなかで政府も空き家問題を取り上げているほど)。そうしたことからも資産性が低い場合のリスクについても考えなくてはいけません。つまり、「持ち家は一生の財産になる」という営業マンの言葉は、必ずしも正しいとはいえないわけです。
さらに、住み始めてから10年たった今、Aさん夫妻は想定外の費用に悩まされているといいます。
Aさん夫妻が想定していなかった「インフレ」や「金利上昇」などの影響
Aさん夫妻の話によると、今後お給料が大きく増えることはないとのこと。しかし、昨今のインフレで生活費が想定していた以上に上がり、変動金利で組んだ住宅ローンも今後上昇する可能性が高くなってきました(すでに一部の金融機関では変動金利の引き上げの公算が大きくなっています)。
加えて、住宅ローン減税期間中は実質的に負担感のなかった年15万円程の固定資産税も、優遇がなくなった今では負担になってきました。また、賃貸では必要なかった外壁塗装などの修繕費も必要です。さらに将来子どもが通うであろう大学の学費も、この10年で1割以上値上がりしています。
結局のところ、営業マンが言った「家賃並みの返済額で住める」ということはなかったわけです。マイホームを購入した時点で元々ゆとりがあるわけではないライフプランだったところにインフレなども重なり、Aさん夫妻は経済的に大変厳しい状況となりました。
「家を売って小さな家に買い替えるべきか。でも、小さい家ですら昔よりもずっと高くなっている。いったいどうしたらいいのか……」と途方に暮れているといいます。
住宅ローン以外にかかる関連費用として、固定資産税が年間約15万円、築後10数年程度(一般的には築後10年といわれていますが、実際には築後10数年後であることが大半です)が経過してから行う修繕関係費が約150万円。それだけで毎月に換算すると賃貸よりも約2万円ほど支払う費用が増加します。さらに住宅ローン金利が0.5%上昇すると毎月約1万円の返済増加となります。
先々を見通すと、その時点で「家賃並みの返済額」で持ち家を購入することは難しかったのです。なにより、インフレによって光熱費や食費、車、子どもの習い事など、すべての物やサービスの価格があがっています。加えて、10年以上前には普及してなかった米国テック系サービスのサブスク費用、通信費など、当時はなかった支出も相当増加しています。
当時は想定すらできなかったサブスク費用などはある程度仕方がないとしても、インフレの予測や住宅ローンの組み方、住宅購入金額、その他にかかる費用を把握し、しっかりとしたライフプランニングをすべきだったと思います。
「賃貸と同じ金額で買える」の誤算…ライフプランは入念に検討を
前述の通り、住宅ローン以外にかかる関連費用や金利上昇分を考慮すると、賃貸よりも3万円ほど余計にお金が必要です(このケースの例)。同じ変動金利0.75%でも物件価格が4,500万円の場合、毎月約12万円の返済額になります。それではじめて、「今の家賃並みの返済金額で購入できる」ことが実現できたということになります。
固定金利が1.8%だと毎月約14万円になることから、すべて固定金利にしなくても変動金利とミックスにすることでリスク分散が可能です。また実際に変動金利があがったとしても、繰り上げ返済の方法のひとつに「返済額軽減型」がありますので、ある程度余裕資金があれば金利上昇分を相殺することも可能です。
Aさん夫妻の事例でもわかるとおり、住宅を購入する際にはライフプランをしっかりと検討することが欠かせません。自身でライフプランのシミュレーションを作ることが難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
矢島 大資 矢島FPオフィス 代表 株式会社REAM 代表取締役
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