人事部門の知らぬところで現場が暴走→まさかのトラブルに発展するケースも…多様化する「採用活動」の裏に潜むリスク【転職のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月1日 7時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
中途採用を行う場合、多くの企業は人事のプロフェッショナルである「人事部門」に採用全般の段取りを任せます。しかし、近ごろは人事部門を通さず、現場が採用に関する裁量権を持つケースも増えているようです。そこで今回は、東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)の代表取締役社長・福留拓人氏が、「現場からの直接採用」に潜むリスクについて解説します。
時代の流れとともに多様化する「採用活動」
多くの企業において、中途採用は人事のプロフェッショナルである人事部門が段取り全般を担当することが一般的です。人を雇用するにあたっては、労務的な手続きもさることながら、労働法や職業安定法に照らし合わせた法の遵守やリスク管理のようなディフェンス面も大事になります。これはアグレッシブに採用活動を展開するのとはまた違った点で重要で、その領域に知識や専門性を持つ人事部門が担当することになります。
ところが、外資系金融の一部などが昔からそうだったように、最近は採用の方法も多彩になってきて、人事を通さない案件というのも増えてきています。これにはいろいろな背景があるのですが、その1つとして、事業を進めるための予算が責任も含め現場の部門ごとに運用され始めているというのがあります。すなわち、予算執行の権限が現場に委譲されるトレンドになってきたということです。
その場合、もちろん会社は基本的に一元管理をしているわけですが、日常的な予算の執行は該当する現場に責任を持たせることになります。そして、それにひもづくように、ある程度の意思決定・投資判断がそれぞれの部門でできるようになります。
採用の主体が人事から現場に移ることの問題点
現在、売手市場の過熱に伴う採用スケジュールの短縮化もあり、じっくり回数を重ねる選考は候補者の辞退につながりやすいことから、採用決定までのスピードを上げなければいけないという事情があります。また、高度な専門性を持つ人材を見極める必要がある場合、浅く広く見ていた人事部門のやり方では面接に強い影響力を発揮するのが難しくなるという課題もあります。
そうしたことを改善しようとすると、意思決定の大部分が人事から現場に移ることになります。その際にガバナンスが効いていればよいのですが、現場のトップが行き過ぎてしまって独断で競合他社の人物に会ってしまうとか、人事部門を通さずにエージェントと接触するとか、引き抜きに近いような動きをしてしまうことがあります。
これはよくいえばアグレッシブなのですが、やはり問題になることもあります。冒頭にディフェンス面について書きましたが、現場が細かい法的な問題などを熟知しているとは限らないので、リスクが高いまま採用活動が行われていることがあり、そういう点には注意を払わなければならないでしょう。
人事部門のあずかり知らぬところで「現場」が暴走するケースも
最近は、経営陣や人事部門が知らないうちに現場が暴走するケースも増えているようですので、ある程度の警戒感を持つようにしたいものです。
具体的にいうと、ライバル企業の営業妨害行為に認定されるようなきわどい幹部人材を引き抜いたり、チームごとまとめて引き抜きを行うなどです。こうしたことは人事部門が関与することなく現場が強権的に話をまとめる寸前まで進めてしまうことで起きますが、やはり企業間で問題になる可能性があります。
ほかには、人材の経歴と実績が自己申告の評価に偏り過ぎているなど、よく見なければいけないところがおざなりになっていて、採用決定後に人事部門が初めて見ると、経歴詐称の問題など実はいろいろな懸念点が隠れていたというようなこともあり得るのです。
その一方で、オファーを受ける側も逆の立場として注意が必要です。人事部門がほとんど介入していない採用では現場が暴走している可能性があるので、全社がきちんとした段取りで準備できていない可能性もあるでしょう。現場は声かけや引き抜きに一生懸命ですから、聞こえのよい条件が飛び交いがちです。しかし、あとでフタを開けてみると詳細の詰められていない問題が出てきて「こんなはずではなかった」というギャップに苦しむようなこともあります。
採用決定までに「人事部門」の責任者が現れない場合は要注意
私の考えでは、現場主導で人事部門を通していないような採用であったとしても、採用決定の山場を迎える前には必ず人事部門の責任者が面接等に入って手続き、段取り、説明等の機会を設けて最終的なステップに進むのが一般的です。
いかに業界で名を馳せている経営幹部からのダイレクト・リクルーティングのようなものだったとしても、会社の適切な管理部門が山場にまで姿を見せない場合には何らかのリスクがあると思えるので、乗せられる一方ではなく注意を払って慎重に判断していただきたいと思います。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長
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