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息子の笑顔がツラいです…年収500万円も貯金は“ほぼゼロ”の現実。44歳シングルファザーがこぼしたSOS【FPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月2日 11時15分

息子の笑顔がツラいです…年収500万円も貯金は“ほぼゼロ”の現実。44歳シングルファザーがこぼしたSOS【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

令和3(2021)年の厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」によると、全国のひとり親世帯は母子世帯が119.5万世帯、父子世帯が14.9万世帯となっています。こうしたなか、昨今取りざたされる「ひとり親世帯の貧困問題」について、実はシングルファザーの“隠れ貧困”が増えているのです。FP Office株式会社の石井悠己也FPが、具体的な事例をもとに解説します。

需要はあるのに人がいない・賃金が上がらない「深刻な業界」

近年、Amazonや楽天をはじめとしたECサイトの普及により、物流業界における「人手不足」が深刻化している。

厚生労働省のデータをみても、2023年時点で日本の物流業界の有効求人倍率は2倍を超えており、多くの企業が担い手不足というのが現状だ。

一方、ドライバーの労働条件や賃金の改善は進んでおらず、業界全体として労働環境は厳しいままだ。地域や企業によって異なるが、具体的には、20代ドライバーの平均年収が約300万円、40代でも450~500万円といった水準となっている。

さらに、ドライバーは雇用形態が業務委託の場合も多い。そうなると、月々5万円~10万円の車両リース代やガソリン代などの経費も自己負担となり、実際の手取りはさらに大きく減る。

このように、多くのドライバーが経済的に追い込まれている現状がある。

業務委託の宅配ドライバーAさんの悩み

ある日、筆者のFP事務所を訪れたAさん(44歳)。妻を3年前に病気で亡くしたAさんは、それ以来、ひとり息子を男手一つで育ててきた。

だが、妻が亡くなってしばらくすると、家計は徐々に悪化。もともとは会社員だったが、生活のために配送ドライバーの仕事を始めた。Aさんの現在の年収は約500万円だが、貯金はほぼゼロ。月々の出費がかさみ、どうしても余裕がないという。

「最初は、なんとかなるだろうと思っていました。配送業は仕事が安定しているように見えたし、働いた分だけ稼げるというところに惹かれて、業務委託を選んだんです。だけど、現実は全然違いました……」

もう、限界です…Aさんを取り巻くシビアな現実

Aさんの現状はかなり深刻だった。まず、配送に使う車両はリース。初期費用はかからなかったものの、毎月5万円のリース代が固定でかかる。さらに、ガソリン代は毎月3万円ほど。長距離の配達が重なると、ガソリン代はさらに跳ね上がる。

また、誤配送や荷物の破損など配送中になんらかのミスやトラブルが起きた場合、1件につき数万円の高額な罰金が科せられるという。複数回ミスを重ねると罰金は5万円、10万円と一気に跳ね上がり、その月の収入がほぼ吹き飛んでしまうことになる。

ある日、Aさんは配送中に車をガードレールにこすってしまい、修理代として10万円を請求された。

「また事故なんか起こしたら、もう終わりです。配送中は常に神経を張り詰めて運転しています。狭い道や交通量の多いエリアでの配達が多いので、事故やトラブルのリスクが高くて……。こすった月は正直、家賃出すだけでギリギリでしたね」

1日中車を運転して、重い荷物を運ぶドライバーの仕事は、身体にも負担がかかる。

「最近は腰や膝にも痛みが出はじめているのですが、もちろん仕事を休むわけにはいきません。毎朝体が重くて、起き上がるのもつらいです。でも、息子のためには俺が頑張らないといけないですから。なんとか体を動かしているんです」

ドライバーとしての日々の業務は、肉体的にも精神的にもAさんを追い詰めていた。

Aさんは1度、業務委託契約を見直そうと考えたこともあった。だが、正社員として働ける他の職種はほとんど見つからず、いまさら未経験の業種に飛び込む勇気もなかった。

「正直もう、限界です。でも、それでも仕事を続けているのは子どものためです。息子は頭がよくて、本当は塾に通わせてやりたかったんですが、それも叶わなかった。中学のとき、息子は学校の成績もよくて、塾に通えばもっと上を目指せたはずなんです。私立の進学校にも行けたかもしれない。でも私の収入じゃ、塾代どころか、日々の生活費さえやっとで……」

Aさんはしだいにうつむき、声は震えているように聞こえる。

「結局、公立高校に進学しましたが、息子は『家から近いし、通いやすいからいいよ』って笑ってくれるんです。その笑顔を見るたびに、なんともいえない気持ちになります。私がもっと稼いでいれば、息子にはもっといろんな世界を見せてやれたのに……息子の笑顔がツラいです」

シングルファザーが活用できる4つの「公的支援制度」

Aさんのようなシングルファザーは、下記のような公的支援制度を活用することができる。

1.児童扶養手当【ひとり親世帯対象】

所得制限があることから、所得水準によっては不支給となる場合もあるが、子ども1人あたり「全部支給」の場合は月額4万5,500円、「一部支給」の場合は1万740円~4万5,490円が支給される。

なお、全部支給の場合は所得制限に引っかかってしまう場合でも、一部支給であれば所得制限にかからないというケースもある。たとえば、扶養する児童が1人の場合、一部支給の所得制限は、年収385万円、所得230万円(令和6年11月~)となっている。 

Aさんは児童扶養手当についてすでに知っており、申請を行っていたが、市役所の職員からは「所得制限を超えているため、残念ながら現状では手当を受けることができません」と言われてしまったそうだ。

たしかに年収は約500万円で制限を超えているが、Aさんは毎年の確定申告をかなりざっくり行っていたことから、経費や控除にできるものを申告に含めておらず、所得金額にズレがあった。そのため、正確に計算し直せば所得制限以下になる可能性がある。

さらに、「小規模企業共済」や「確定拠出年金(iDeCo)」などを活用すれば所得を減らすことができる。

2.住宅手当【ひとり親世帯対象】

「住宅手当」は、ひとり親世帯で20歳未満の子どもを養育し、かつ、家族で居住するための住居を借り、月額1万円を超える家賃を支払っている家庭を対象に、家賃の一部を補助する制度だ。

市区町村独自の制度であるため、制度自体の有無や支給要件などは居住地に確認する必要があるが、Aさんの住む自治体では6,000円~1万円の補助が受けられることがわかった。

また、もし条件が許せば、Aさんの実家に住むという選択肢も検討すべきだろう。実家の援助を受けることで、家賃や生活費の負担が大幅に軽減され、貯金を増やす余裕が生まれる。たとえば、実家で生活することで月々の家賃10万円が削減できれば、年間で120万円の節約が可能となる。

3.「児童育成手当」

「児童育成手当」は、「児童扶養手当」と似ているが、これも市区町村独自の制度だ。18歳までの児童を扶養するひとり親世帯が対象で、Aさんの居住地では児童1人につき月額1万3,500円が支給される。

ただし、支給要件や所得制限等の基準は各市区町村によって異なるため、注意が必要だ。

4.「給付型奨学金制度」の活用

奨学金には、返済不要の「給付型奨学金」と返済義務のある「貸与型奨学金」の2種類がある。奨学金の種類によって、主に以下のような応募資格が設定されている。

・ひとり親家庭

・一定以上の成績を有していること

・世帯年収

・世帯資産

ただし、貸与型奨学金よりも審査が厳しいため、学校や各団体に問い合わせる必要がある。また、他団体との併用が可能な奨学金もあり、複数の制度に応募が可能だ。Aさんの子のように成績優秀であれば、給付型を受給できる可能性も十分考えられる。

支出を1つひとつ見直せば、「年数十万円」の節約が可能

次に、出費を減らし生活に余裕を持たせるために、家計の見直しを行った。

まずは大きな出費となっている月5万円のリース代について見直す必要があるだろう。リース契約をより安価な会社に変更する、もしくはリースをやめ、中古車を購入するなどの選択肢を検討することで、月2~3万円削減できる可能性がある。この固定費を仮に月3万円に抑えることができれば、年間で24万円の節約となる。

ガソリン代も大きな負担になっているため、より燃費のいい車両への切り替えや、ガソリン代のキャッシュバックがあるクレジットカードの使用を検討するのもひとつの手だ。これにより、月々のガソリン代を1万円程度削減できる可能性がある。

また、通信費や電気代などの固定費について、それぞれプランの見直しや契約会社の変更を行うことで、月々数千円の節約ができるだろう。具体的には、通信費を格安SIMに切り替えれば、月々5,000円程度の削減が期待できる。

個々の節約効果は限定的ではあるものの、年間でみると数十万円も支出を抑えることが可能だ。

食費などの流動的な出費に関しては削減は容易ではないが、固定費は一度削減してしまえば継続して効果が出るため、優先的に見直すことをおすすめする。

目に光が…息子のため、新たな1歩を踏み出したAさん

筆者がひととおり説明を終えると、Aさんの表情はいくらか明るくなったように見えた。最初に相談室に入ってきたときの疲れ切った様子から一転、少し希望が湧いたのか、目に光が入ったのが印象的だった。

「まずは、児童扶養手当や就学援助制度を申請することを考えましょう」と伝えると、Aさんは静かにうなずき、次のように話した。

「正直、自分だけではどうしていいかわからなかったんです。毎月のリース代5万円が、どれだけ家計に負担をかけているかは自覚していたものの、車を変えることや、契約を見直すといった発想が浮かびませんでした」。

日々の生活に追われ、漠然とプレッシャーや経済的な不安を抱えるなかで、具体的な助言や支援策が見えたことが精神的な救いになったのだろう。面談の最後に、「これだけ悩んで息子のために生活を立て直そうとしている。それだけでもAさんは、素晴らしいお父さんです」と筆者が声をかけると、「そうですかね……、ありがとうございます」と、Aさんは照れくさそうに微笑んだ。「これから、少しずつやっていきます」。彼はしっかりとした声でこう言い、相談室をあとにした。

Aさんの歩みはまだ始まったばかりだ。今後も困難な局面に直面するかもしれないが、具体的な支援策や家計改善の道筋が見えたことで、彼は1歩前に進む力を得たはずだ。そしてその背中には、彼を信じ、笑顔を見せてくれる息子がいる。そのことが、なによりもAさんを支えてくれる最大の力になるだろう。

石井 悠己也

FP Office株式会社

ファイナンシャルプランナー

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