3,640万円の新築マンション、手付金だけ払って“音信不通”の買主に違約金728万円を請求→買主「高すぎる!」と支払い拒否…裁判所が違約金の“大幅減額”を認めた衝撃理由【弁護士が判例解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月3日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
3,640万円の新築マンションを契約したものの、手付金200万円を払ったあと音信不通になった買主。あらかじめ契約書で定めていた金額で違約金を請求したものの、「高すぎる」としてトラブルに発展。しかし裁判の結果、買主に対して「違約金の減額」が認められました。いったいどうしてなのでしょうか。弁護士の北村亮典氏が、実際の判例をもとに解説します。
手付金だけ払って音信不通→違約金も「高すぎ」と拒否する買主
【マンション売主からの質問】
弊社が建築した新築のマンションを3,640万円で売買契約をし、手付金200万円を受領しました。しかし、買主からは代金決済期日までに残金が支払われず、連絡も取れなくなってしまいました。
そこで、契約の解除通知をし、契約書で規定していた違約金(売買代金の2割)として728万円を請求しました。なお、契約解除後すぐに別の買主が見つかり、物件の売却はできています。
これに対して、買主側からは、「違約金が代金の2割というのは不当に高く信義則違反だ」、「すぐに売却できたのだからそんなに損害はないはずだ」などと反論を受けており、違約金の支払いを拒まれています。
買主の言い分は正しいのでしょうか。
損害賠償や違約金の額は、売買代金の「10分の2」まで
【弁護士の解説】
宅地建物取引業者が売主となる宅地建物の売買契約では、契約の解除に伴う損害賠償額の予定や違約金を定めるときは、その合計が売買代金の額の10分の2を超えてはならないという制限があります(宅地建物取引業法第38条)。
逆にいえば、売買代金の2割までであれば、違約金として契約で定めてもいい、ということになります。
上記事例は、福岡高等裁判所平成20年3月28日判決の事例をモチーフにしたものですが、この事例では、宅地建物取引業者が売主としてマンションの売買を行い、違約金も売買代金の2割と定めていました。
そこで、売主は、買主の代金不払いを理由として契約解除後に、違約金として契約書通り売買代金の2割相当額を請求した、という事例になります。
これに対して、裁判所は、売買代金の2割という違約金額は不当に過大であるとして、手付金と同額の200万円に減額するという判断をしました。
裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか。
裁判所が「違約金の減額」を認めた驚きの理由
まず、裁判所は、違約金特約について
「本件違約金特約は、損害賠償額の予定と推定される(民法420条3項)ところ、売主は、買主に対し、損害発生、損害額を証明することなく、約定の違約金の支払を請求することができ、裁判所は違約金の額(損害賠償の額)を増減することができない(同条1項)ものとされる」と原則論を述べます。しかし、他方で、例外として、
「約定の内容が当事者にとって著しく苛酷(かこく)であったり、約定の損害賠償の額が不当に過大であるなどの事情のあるときは、公序良俗に反するものとして、その効力が否定されることがあり、また、公序良俗に反するとまではいえないとしても、約定の内容、約定がされるに至った経緯等の具体的な事情に照らし、約定の効力をそのまま認めることが不当であるときは、信義誠実の原則により、その約定の一部を無効とし、その額を減額することができるものと解するのが相当である」として、約定の違約金額が不当に過大である場合には、信義則により無効となる場合があることを述べました。そして、宅建業法の制限内である売買代金の2割という違約金額については、
「本件建物は、解除の効力が生じて1ヵ月も経たないうちに売却され、しかも、本件マンションの他の物件と比較しても早期に売却されたものということができる」
「そうすると、買主の違約により、売主に損害が生じたとしても、その程度は比較的軽微なものと推認すべきところ、本件違約金特約が全面的に有効であるとすれば、違約金の額は728万円にものぼることになる」
「このような結果をそのまま容認することは、たとえ、買主がいったん本件契約を締結したものの、夫の理解が得られず、本件マンションの耐震性の問題等を口実に契約の解消を求めたという本件の経緯を十分に考慮に入れても、信義則に照らし許されないというべきである」
と述べたうえで、違約金額については、
「売主が買主に対し違約金として請求できるのは、信義則上、すでに授受されている手付金200万円およびこれに加え200万円と認めるのが相当である」と判断しました。
宅建業法38条が規定する違約金の制限(売買代金の額の10分の2)はあくまで上限の制限であり、具体的な態様や損害の程度を考慮して、裁判所により減額される可能性がある、ということに留意する必要があります。
※この記事は、2018年3月30日時点の情報に基づいて書かれています(2024年9月27日再監修済)。
北村 亮典 大江・田中・大宅法律事務所 弁護士
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