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このままじゃ親子共倒れだ…。65歳元会社員、“年金増額計画”で余裕の老後を確信も、状況を一変させた「老母からの電話」【FPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月22日 7時15分

このままじゃ親子共倒れだ…。65歳元会社員、“年金増額計画”で余裕の老後を確信も、状況を一変させた「老母からの電話」【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもが巣立ち、あとは夫婦2人で長い老後をどう生きていくか考えるだけ。そう思って老後資金の計画を立てたものの、想定外の事態が発生しその計画が崩れてしまった……。こんなケースは少なくありません。長寿化が進む日本では、自分の年金生活と親の介護生活が同時に訪れることも想定しておかなければなりません。今回は、年金繰下げを決めて「老後は安泰」と安心していた佐藤さん夫婦に訪れた危機を例に、南真理FPがアドバイスを交えて解説します。

老後の資金計画が固まった矢先、母の介護が必要という事態に

佐藤博さん(仮名・65歳)は、高校卒業から勤めてきた会社を数ヵ月前に退職しました。同じ年の妻・典子さんと2人暮らしで、子ども2人はすでに独立しています。

65歳からの年金は、佐藤さんが年170万円、妻が年81万円で世帯合計250万円。手取りにすると230万円、月19万円を受け取れる予定だと通知を受けていました。夫婦2人とも、通常であればすでに年金受給はスタートしています。しかし、佐藤さん夫婦は年金をまだ受け取っていません。

話は1年ほど前にさかのぼります。会社員時代の年収は決して高くなく、子どもの教育費や住宅ローンにお金が必要だったため、貯蓄も多くはありません。老後に不安を感じた佐藤さん夫婦は、ファイナンシャルプランナー(以下、FP)に相談することにしました。そして、年金の繰下げをすれば年金を増やすことができるという話を聞いたのです。

人当たりがいい佐藤さんには友人が多く、高い収入を求めなければ65歳を過ぎても雇ってくれるパート先は見つけられそうでした。妻のパート先も70歳まで働くことを歓迎してくれる状況だったといいます。そこで、元気なうちは夫婦で働き、年金を繰下げて長い老後に備えようと決めました。そのため65歳になっても年金を受給していない状況だったわけです。

しかし、近所に住む佐藤さんの母からの1本の電話で状況は一変しました。88歳になる母は足腰もしっかりしており、父亡き後も一人暮らしをしていました。しかし、玄関でうっかり転んでしまい、やっとのことで電話をしたというのです。病院で状況を確認したところ足や背中を骨折しており、寝たきりまではいかないものの、今後は介護が必要になると告げられました。

佐藤さんは一人っ子なので、母の面倒を見るのは自分たち夫婦しかいません。さらに母はいいづらそうに、「実はお金にあまり余裕がなくて…。介護になったらたくさんお金がかかるだろうか。どうしたらいいんだろう」と告げました。実は、年金だけでは足りないお金を貯蓄でカバーするという生活が長年続いた結果、母の家計には余裕がなくなっていたというのです。

5年間の年金繰下げは自分たちが働く前提だったので、介護をするとなればその計画にも影響が出ます。当然、介護費用も必要です。こうして、「年金繰下げで老後は安泰」と思っていた佐藤さんは、ライフプランの見直しを迫られることになったのです。

年金の繰下げをした場合のライフプランは…

年金の繰下げは、65歳で年金を受け取らずに、66歳以後75歳までの間で繰り下げて増額した年金を受け取ることができます。1ヵ月繰下げるごとに0.7%増額されるという仕組みです。

佐藤さん夫婦が年金を繰り下げて70歳から年金を受け取った場合、家計収支は以下のようになります。

【相談者プロフィール】 佐藤博さん(65歳):無職(元会社員) 佐藤典子さん(65歳):無職(夫の扶養内でパート勤務のみ) ---------------------------------------- 〈収入〉 70歳までの世帯収入合計:200万円(手取り年約180万円、月15万円) 佐藤さんパート収入:年100万円 妻典子さんパート収入:年100万円

70歳からの世帯の年金合計:334万円(手取り年約300万円、月25万円) 佐藤さん年金:218万円(年金170万円の42%増) 妻典子さん年金:116万円(年金81万円の42%増) ---------------------------------------- 〈支出〉 世帯の支出合計額:208万円 生活費(食費、日用品費、光熱費、通信費):年156万円 住居費:年8万円 保険料:年12万円 車両費:年22万円 娯楽費等:年10万円 ---------------------------------------- 〈貯蓄〉 普通預金:500万円

年金を70歳まで繰り下げると、年金を受け取らない5年間(65歳から69歳)の総額で約150万円の赤字(※1)となりますが、貯蓄でまかなえる金額です。70歳からの年金受給額が繰下げにより42%(0.7%×60ヵ月)増額されるため、車の買い替え等を除いては、年約100万円(※2)の黒字家計となります。

このように「年金の繰下げ計画」を立てていた佐藤さん夫婦でしたが、前述の通り状況が変わってしまいました。

「介護で働けないなら年金繰下げをしてる場合じゃないし、介護費用もかかる。このままじゃ俺たちと母で共倒れになるぞ」

そう危機感を募らせながら、夫婦は今後の相談のため再びFPのもとを訪れました。

(※1)65歳から69歳のトータル収支 29万円×5年≒150万円 (※2) 70歳以降のトータル収支

年金の繰下げは取り消せる?

佐藤さんは、まずFPに年金の繰下げの取り消しはできるのか尋ねました。

年金は受給開始年齢である65歳に到達する3ヵ月前に、日本年金機構から年金を受け取るのに必要な年金請求書が届きます。この請求書を提出して初めて年金受給がスタートしますが、佐藤さん夫婦は、年金の繰下げをすることにしたので提出をしていません。つまり「繰下げ待機」のような状態です。今から請求すれば、さかのぼって受給することができます。

66歳以降に受給請求書を提出した場合、繰下げの取り消しや修正は一切できず、一度決まった増額率で年金を受け取ることになります。

つまり、佐藤さんは繰下げの影響は受けずに今から年金を受け取ることもできますし、計画通り繰下げを実行することもできる状態といえます。

親の介護費用はどうしたらいい?

では、親の介護費用についてはどう考えればいいのでしょうか。これは佐藤さんのケースに限りませんが、介護費用は親自身が払うことが基本です。そのためには事前に親の資産を子どもが把握しておく必要があります。把握しておきたい親の資産は以下の通りです。

・保有しているすべての銀行口座 ・株式や投資信託などの有価証券 ・生命保険の有無 ・不動産 ・負債

親が元気で意思もしっかりしている間に、資産状況を共有し、どのような介護を望むのか話し合っておく必要があります。また親の年齢にもよりますが、介護保険なども有効です。仮に認知症などを患うと、意思確認ができなくなり、資産の把握どころか資産を動かすこともできなくなる可能性もあるからです。

生命保険文化センターが行った調査(※3)によると、介護に要した費用は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用は平均74万円、月々の費用が平均8.3万円となっています。また、介護期間は平均約5年となっており、約600万円もの費用が必要になります。あくまで平均的な数値であり、受けられる介護サービスや介護期間によってかかる費用は異なります。

費用の支払いが難しい時には、補助制度を活用するのも一つです。例えば、1ヵ月に自己負担する介護サービス利用料は、所得に応じて限度額が決まっています。限度額を超えれば申請することで払い戻し(高額サービス費)を受けることができます。

(※3) 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」

家族同士のコミュニケーションが不安解消のカギ

佐藤さん夫婦は、今まで後回しにしていた今後のことを母親と話し合い、介護について具体的な計画を立てることができました。

「年齢の割にはしっかりしていたとはいえ、もっと早く母と話し合うべきだったんですよね……。今回話し合って、母の介護は私の自宅ですることにして、母の家を売却することにしました。長年父と暮らした家なので寂しそうでしたが、現実問題としてお金が必要なので了承してくれましたよ。立地も悪くないので売却資金が2,000万円くらいになって、母の年金と合わせれば介護資金も工面できそうです。それと介護は夫婦交代で、介護サービスも使って、無理のない範囲で仕事もすることにしました。お金のためだけじゃなくて気分転換したいですしね。自分たちの老後資金はやっぱり心配なので、節約も頑張りつつ、当初計画していた通り年金の繰り下げも70歳までしようと思っています」とのこと。

長い人生の中で、親の介護と自身の老後生活といったように、複数のライフイベントが重なることはよくあります。そのとき大切なことは、「優先順位」をつけることです。佐藤さん夫婦にとって、第一優先は自分たちの生活を守ることでした。次が母の介護という考えに至ったため、母の自宅を売却するという選択をされました。

今回の佐藤さんのケースでは、幸いにも介護費用と老後資金ともに準備できそうですが、もっと早い段階で、親と介護について話し合っておけば、急いで自宅を売却する必要はなかったかもしれません。親とお金の話はしづらいかもしれませんが、家族で話し合い、お互いの状況を共有することが、不安を解消する上で重要です。

年金の繰下げは、老後資金を増やす有効な手段の1つですが、親の介護など予期せぬ出来事が起こる可能性も考慮して柔軟に対応できるように早めに計画を立てておくことが大切です。

南 真理 ファイナンシャルプランナー

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