過去の成功をいつまでも自慢する「うっとうしい人」になっていませんか?“前向きなシニア”になるための心得【精神科医の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月3日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
何歳になっても悩まされるのが「人間関係」です。例えば、相手に嫌われているかもしれないと思ったときに、相手は変えられないから自分が変わるというのも確かに1つの方法でしょう。しかし、精神科医の保坂隆氏は、それとは別の方法で自分を守るのも一案だといいます。今回は保坂氏の著書『精神科医が教える60歳からの人生を楽しむ忘れる力』(大和書房)から、人間関係で疲弊しないための心の持ちようをご紹介します。
昔の成功を忘れられず、引きずって生きてしまう人
自分の失敗を忘れられないこともありますが、自分の成功を忘れられず、引きずって生きていることはありませんか。
80代、90代の方が「オレは駆けっこでいつも1位だった」と自慢しているぶんには、まわりも「はいはい、おじいちゃんはすごいよね」とやり過ごしてくれますが、中高年ぐらいの自慢は、ときに人から引かれることがあります。
たしかに、「営業で売上1位だった」「仕事でよく海外へ行っていた」「大学で最優秀賞をとった」「小学生のとき、足が速かった」。それぞれが申し分のない思い出です。自分の成功体験をもっていることは、自己肯定感を保つために重要なこと。しかし、自分の成功体験は他人の役には立たないことが多いのです。うっとうしがられるだけです。
ときどき自分のお子さんにこう言ってしまう人がいます。「お母さんは英語なんかいつも一番だったのに、あなたはなんで、こんな問題ができないの」。親は子どもには自慢しやすいのです。ただ、お子さんには「親の話は半分に聞いておきなさい」とアドバイスしたいと思います。人間は自分の記憶を、都合よく脚色して記憶している場合が多いからです。
営業成績が一番だったとき、たまたま友人の伝手で大量に買ってくれる人がいたのが理由だったのですが、なんだか自分がすごく努力して才能を発揮したという記憶になっていたりします。成功体験には少し怪しいところがあります。
「過去のなかに生きる人」にならないために
人に自慢話をすることは控えているという方でも、自分のなかで成功体験を大事にしすぎていることはあります。そういう方によくある憂うつ状態は、「昔の自分と比べてしまう」ことからきます。
以前なら難なくできたことができない。大学で首席だった自分がデジタル化に追いつけない。あんなに山に登っていたのに、最近はすぐに息が切れる。輝いていたころの自分と比べては、気分が落ち込んでしまうのです。それをうつ状態だと思って病院へ行った人もいました。
「先生、なんだか最近、元気がないのです。昔はがんばれたのですが」
「昔っていつですか?」
「20代のころです」
「いま、お幾つですか?」
「65歳です」
「ふむ、年のせいですね」
年のせいにされたと少々怒って私に話してくれました。20代の自分と比べて、同じような体力も胸のときめきもない。あのエネルギーはどこへ行ったのだろうと悩んでも、仕方のないことです。今の自分は、足腰が弱り、異性にも関心が薄くなり、盛り上がりについていけない、老いた人です。
ここでも健全思考で自分をとらえなおしていきましょう。よく考えれば、そこには年相応な自分がいます。この自分でこの先をどう楽しんでいくかを考えていきたいものです。
80代の後半になる横尾忠則さんは『老いと創造』のなかで、「耳は聞こえないし、目はかすむし、手は腱鞘炎だし、五感はほぼ全滅です」と言います。でも、老化に反逆するのではなく、認めるところからスタートするしかないと言い、「過去のいちばん健康で快適だった状態を、持続するのは不可能です。“Be Here Now”「この瞬間を生きる」という、今をもっとも大事にする生き方が必要なのではないでしょうか」と書いていました。
爆発的なエネルギーをもっているイメージの横尾さんが、今の自分を認めるという言葉には説得力があると思いました。高齢になると「過去のなかに生きる人」と「前を向いて生きる人」というタイプに、分かれます。人と話していると、どちらのタイプかわかってきます。
あなたは、「あのときはよかった」ということばかり言っていませんか。私たちは、80代でも90代でも創造的な活動ができます。そのための準備期間が50代から60代だといってよいでしょう。過去のいい時代はさっさと忘れて、いつの時代もこれからのあなたを磨くことを忘れないでください。
保坂 隆 保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
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