「借金を返せないときは、私の家や工場を売り払っていただいて結構です。」経営者に一筆書かせて…銀行のビジネスのキホン
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月21日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
企業へ融資することで収益を得ている銀行も、貸倒れリスク回避のためにさまざまな対策を立てています。元メガバンカーの経済評論家の塚崎公義氏が、銀行のビジネスの基本について平易に解説します。
銀行の姿勢「貸出金利は低いが、確実な回収が見込める先に」
他人に金を貸すときには、返してもらうことが前提です。しかし、時として借り手が返せないことがあります。したがって、貸す前に「この借り手は返済する意思と能力があるか否か」を調べるわけです。その際の姿勢が消費者金融等と銀行では異なります。
消費者金融等のビジネスは、「返済の意思と能力がそれほど高くない相手にも気楽に貸すが、貸倒が多いことを前提として高い金利を要求する」ビジネスです。100人に貸して、10人が踏み倒しても90人から15%の金利をとれば利益が出る、というわけです。
一方で、銀行は「貸出金利は低いけれど、確実な回収が見込める先にしか貸さない」というビジネスです。100人に貸して金利が2%でも踏み倒す借り手が1人しかいなければ利益が出る、というわけです。
銀行は、貸す前に借り手のことを真剣に調べます。しかし、どれほど真剣に調べても、貸倒を完全に防ぐことはできません。一流企業の正社員に住宅ローンを貸したとしても、借り手が体調を崩して働けなくなるかもしれませんし、黒字の会社に金を貸しても倒産する可能性はゼロではないでしょう。
そこで、貸出に際し、銀行は担保や保証を要求する場合があります。担保というのは、借り手から「私が借金を踏み倒したら、私の家や工場を銀行が勝手に売り払って結構です」という約束をもらうことで、保証というのは、借り手の関係者から「借り手が借金を踏み倒したら私が代わりに借金を肩代わりします」という約束をもらうことです。
会社が倒産しそうになっても、担保を持っていれば…
会社が倒産するということは、会社の財産を全部売っても借金を返し切ることができないということです。そうなったときに担保を持っていれば、借り手の家や工場を売った代金を自分が受け取れるので、〈パイの奪い合い合戦〉で多くのものが受け取れることになります。ほかの銀行等は残った財産を処分して代金を分け合うことになりますが、担保を処分した銀行が財産の多くを持って行ってしまうので、パイの奪い合い合戦に負けてしまうわけです。
担保の対象は、土地や建物が主です。「倉庫にある材料や製品を担保にする」ことも可能ですが、倒産寸前では材料を仕入れる金がなく、製品をすべて売り払って代金を銀行への返済に使う可能性があり、「銀行が担保を売ろうと思っても残っていなかった」といったことになりかねないからです。
不動産担保には、登記ができるという大きな利点もあります。借り手がAとBという2つの銀行から借金をしているとします。A銀行が金を貸すときに不動産を担保にとりますが、A銀行は不安です。借り手が悪者でB銀行にも「私が借金を踏み倒したら、私の家や工場を銀行が勝手に売り払って結構です」という同じ約束をしているかもしれないからです。
そこで、A銀行は担保を登記します。登記というのは、役所が「登記簿」という書類を作っていて、そこに不動産の所有者や担保契約の内容等を記載しているものです。A銀行が先に登記簿に担保の内容を記載してもらうと、あとからB銀行が同様に担保の内容を記載してもらっても、不動産を売って代金を回収する権利はA銀行が優先的に持てるので安心なのです。
銀行「社長が保証しないなら貸さない!」 社長「ぐぬぬ…」
担保が「借り手の財産を売った資金を銀行間でどう分配するか」という問題だったのに対し、保証は「借り手の財産で足りない分を他人に払わせる」ということです。
保証するのはだれでもイヤですが、親が子の借金の保証人になる、親会社が子会社の借金の保証人になる、といったことは広く行われています。
もうひとつ、オーナー企業の社長が会社の借金の保証人になる、ということも広く行われています。その理由を理解するためには、「株主有限責任」を知る必要があります。株式会社は、儲かったときは株主に配当するのですが、大損をして借金が返せなくなったときには、株主は会社の借金を肩代わりする必要がないのです。この制度については拙稿 『「株式会社」のしくみ…会社運営に必要な「資本・負債」それぞれの目的と違いとは?』をあわせてご参照いただければ幸いです。
そこで銀行としては、会社が倒産したときにオーナー社長に借金を肩代わりしてもらえるよう、借金の保証を頼みたいわけです。オーナー社長としては、当然断りたいわけですが、「社長が保証してくれないなら貸さない」と銀行にいわれると、大いに悩むわけです。
会社が銀行から金を借りて、大きなビジネスをして大いに儲け、オーナー社長が大金持ちになるチャンスがあるのに、そのチャンスを逃すのはもったいないですね。しかし一方で、会社が倒産したときに自分が借金を肩代わりすれば自分まで破産してしまうかもしれません。悩んだ末に、前者を選ぶ社長も多い…ということですね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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