こんなの庶民イジメじゃないか…年収550万円の49歳サラリーマン、税務調査で「年収を超える追徴税」を課されたワケ【税理士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月6日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
毎年110万円までの贈与には税金がかかりません。また控除を受けるための手続き等も不要なことから、広く活用されています。しかし、実際には「年110万円以内」でも課税対象とされるケースが少なくないとか……いったいなぜなのでしょうか。具体的な事例をもとに、生前贈与が否認されないためのポイントをみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。
仲睦まじいA家のもとに“なぜか”税務調査が…
こんなのただの“庶民イジメ”ですよ――
苦い顔でこう話してくれたAさん(49歳)は、地方都市の中小企業に勤めるサラリーマンです。パート勤めの妻Bさん(48歳)と、17歳の息子と3人で暮らしています。Aさんの年収は約550万円で、パート勤めのBさんの収入をあわせると世帯年収は650万円ほど。
Aさんの両親は3年前に母が、その翌年に父が亡くなっており、Aさんが実家を相続しました。Aさんには兄がいるものの、その兄は仕事で海外に住んでおり、「親の面倒を看てもらう代わりに相続は放棄するから」と、両親の遺産はすべてAさんが相続していました。
A一家は住居費用の負担がなく、またAさんの両親の遺産もあることから、金銭的な不自由を感じたことはありませんでした。また、年に1度はA夫妻共通の知り合いが営む沖縄のゲストハウスへ旅行に行くなど、家族仲もよかったそうです。
そんなある日、Aさんのもとへ税務署から電話がかかってきました。聞くと、「2年前に亡くなったお父さまの相続税の調査に伺いたい」とのこと。
相続税の申告はとっくに済ませていたのに、なぜいまになって税務署から……? 不審に思いながらも断ってなにか指摘されても面倒だと、税務調査を承諾することに。
そして調査当日、2人の税務調査官が来訪しました。和やかな雑談からはじまり、徐々に警戒心もほぐれてきたところ、ひとりの調査官から質問が。
調査官「お父さまの口座から毎年決まった日に110万円の出金がありますね。このお金が入金されていた通帳をみせてもらえますか?」
Aさん「あぁ、これはですね……父が生前『孫の教育費に使え』といって生前贈与をしてくれていたものです。といっても、遺言書で知ったんですけどね(笑) 不器用な父が孫のためにこっそりと貯めておいてくれていたみたいです。塾代やら習いごとやら子どもはなにかとお金がかかりますから。父には感謝ですよ」
Aさんが調査官に説明したところ、調査官からまさかのひと言が返ってきました。
調査官から告げられた「衝撃の事実」
税務調査官「なるほど、そうでしたか。それは素晴らしい。……うーん、ただ非常に申し上げにくいのですが、それでは生前贈与と認められないですね」
Aさん「えっ? 年間110万円以内ですよ?」
相続税調査の結果、Aさんは年収(550万円)を超える600万円の追徴税を課されてしまったのです。
Aさんは思わず「あんまりだ! ウチのような一般家庭を調査する暇があったら政治家や金持ちを調査しろよ! こんなのただの庶民イジメじゃないか!」と激昂。しかし、結果は覆りません。Aさんは泣く泣く納税するしかありませんでした。
そもそも「贈与」とは?
贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、はじめて成り立ちます。簡単に言えば、「タダであげます」「もらいます」というお互いの意思表示が必要となります。
これは口頭と書面のどちらでもかまいませんが、民法では、書面の契約書による贈与でない場合は、実際にそれを実行しなければ、あとで取り消すことができるとされています。よって、後日税務調査があったときのことを考慮すると、書面による贈与契約書を作成しておいたほうがよいでしょう。
Aさんのケースの問題点
今回のAさんのように、子や孫などに生前贈与を行ったつもりが、贈与とは認められずに追徴税を課されてしまうケースは少なくありません。
今回の問題点は「名義預金」です。名義預金とは、本人とは異なる名義の預金ではあるものの、実質的には本人の預金であると認定されてしまうこと。子や孫の口座を作成し、そこに振り込んでおいたとしても、それを子や孫に知らせていない場合、贈与ではなく名義預金とみなされて相続税の課税対象になってしまいます。
このため、贈与を有効に成立させるには贈与の合意があった事実を客観的に証明しなくてはいけません。受贈者が口座を自由に使えなかったり、口座の存在を知らなかったりした場合、贈与ではなく名義預金とみなされてしまいます。
生前贈与を「否認」されないポイント
では、どのようにすれば、生前贈与であることが客観的に証明できるのでしょうか?
1.贈与契約書を作成する
贈与について合意があったことを示すためにも作成しておきましょう。また公証人役場に行って確定日付をとっておくと、より客観性が高まります。
確定日付とは、その日付に書類が存在していたことを証明するもので契約書の証拠能力を高める役割があります。1部700円の手数料が発生しますが、公証人役場や法務局に契約書を持参すればその場で取得できます。
2.口座振り込みとする
お金を渡す場合は、現金を直接渡すのではなく、銀行口座に送金するとよいでしょう。日付や金額、贈与者・受贈者の情報が記録されるため、客観的な証拠が残りやすくなるためです。
3.定期贈与と見なされないようにする
毎年決まった時期に同じ額を贈与している場合、定期贈与とみなされることがあります。たとえば「1,000万円の財産を100万円ずつ贈与する」と約束し実行していった場合、毎年100万円の贈与ではなく1,000万円の贈与を受けたとされる恐れがありますので、毎年贈与の時期や金額は変えたほうがよいでしょう。
“親心”がむしろ逆効果に…贈与は「証拠」が必須
今回のAさんのように、生前贈与で受け取っていると認識していたものが、後日税務調査により名義預金であると指摘され追徴税を支払うケ-スはめずらしくありません。
よくあるのが、祖父母が孫名義で預金を積み立てており、通帳や印鑑の管理も祖父母がしていた、というようなケースです。これは典型的な名義預金のケ-スとなります。
また、相続税調査では、家族名義の口座残高も入念に調べられます。働いていない子や孫の口座に多額の預金がある場合、名義預金ではないかと思われて調査されるため、贈与を行う際には「客観的な贈与の証拠を残すこと」を心がけてください。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士/CFP
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