資産3,000万円超の65歳元会社員、妻と悠々自適の老後を迎えるはずが…家賃5万円のアパートで1人お弁当を食べて暮らす日々に「後悔しかない」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月27日 12時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
離婚した夫婦のうち4組に1組が「熟年離婚」という事実をご存じでしょうか? 子どもが独立し、夫が定年を迎えて退職したあとに妻から離婚を切り出されるといったことはめずらしいことではありません。一緒に老後を過ごすことができない夫婦が増えている背景には、どのような事情があるのでしょうか。本コラムでは、佐藤史郎さん(仮名・65歳)の事例とともに、熟年離婚に至る原因や資産形成の観点から事前に講じておくべき対策について小川洋平FPが解説します。
妻から告げられた一言で崩れ去った、理想の老後
佐藤史郎さん(仮名・65歳)は長年勤務した会社を退職しました。現役時代は大手ハウスメーカーに勤務し、セールスマンとしての業績はまずまずで、年収は1,000万円。退職金も2,000万円程度を受け取っていました。
個人年金保険を合わせると3,000万円もの資産があり、公的年金は、同じ年の妻の分と合わせて月30万円程度。客観的に見てもかなり恵まれた資産状況で、佐藤さん自身も「老後資金の心配はない」と思っていました。
悠々自適の老後を楽しみにしていた佐藤さんでしたが、想像もしなかったことが起きてしまいます。退職から数日して、突然妻の晴美さんから離婚を切り出されたのです。
「ずっと考えていたことです。知らなかったのはあなただけ。じゃ、さよなら」
おとなしい性格の晴美さんが内心離婚を考えていたことにまったく気づいていなかった佐藤さんは、驚いて言葉も出ません。しかし、晴美さんは子どもたちが独立した頃から着々と準備を進め、退職を迎えたときに離婚しようと決めていました。
というのも、佐藤さんは典型的な「昭和の男」で、家事は一切自分ではできず、晴美さんがいないとご飯を炊くことすらできません。そのうえ、家事や子育てを一手に引き受けていた晴美さんに対して家政婦のような扱いを続け、感謝の言葉ひとつありませんでした。
そんな毎日では嫌になるのも当然といえるでしょう。晴美さんは佐藤さんに内緒でエアコンクリーニングの仕事を始めていました。ほとんどコストのかからない仕事で、離婚する頃には年間で300万円近くの収入を確保することができていました。
晴美さんは子どもたちに以前から離婚の意思を伝えていましたが、反対どころか応援してくれています。佐藤さんの知らぬところで、晴美さんは自立して生活していける基盤を手に入れていたのでした。
こうして晴美さんが家を出て行ってから数日後、佐藤さんのもとに晴美さんの弁護士から離婚協議についての文書が届きました。これを見た佐藤さんは、さらに驚愕することになるのです。
余裕の老後のはずが一転、家賃5万円のアパート暮らしに
佐藤さんが全額受け取ることができるはずだった厚生年金部分の約150万円のうち、結婚してからの期間に相当する年間約70万円分を受け取ることと、預金資産のうち2,500万円を渡してもらうこと。これが晴美さんの要求でした。
離婚時の財産分割は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産が対象となります。夫の厚生年金は、離婚時に年金分割の制度があり、婚姻期間中に夫婦が納めた厚生年金の記録を案分することができます。そのため一般的には婚姻期間中に相当する金額の50%まで分割可能になります。
退職金も婚姻期間中に形成された財産に含まれるため、預貯金など、婚姻期間中に増えた財産も多くの場合は半分までが分割の対象になっています。
晴美さんは自宅マンションを夫に渡す代わりに、相応の金額として合計2,500万円を要求してきたのでした。
「そんなに払えるわけないだろう!」
憤った佐藤さんでしたが、マンションの価値は3,000万円程度が見込まれるもので、本来晴美さんが受け取ることができる資産額は預金と合わせて3,000万円程度です。結局2,500万円の預金を晴美さんに渡すことを渋々飲み、離婚が成立しました。
とはいえ、預金は残り500万円、年金も晴美さんに年間70万円も渡すことになり、毎月の公的年金は手取りで月12万円程度です。佐藤さんは「このままでは暮らしていけない」と考え、マンションを売却することにしました。住む場所が必要ですが、これからの生活資金のことを考えると小さな中古マンションを買うといったことも難しいのが実情です。
その結果、佐藤さんは家賃5万円の安いアパートで節約生活を送ることになりました。自炊もできないので、スーパーで安いお弁当を買って1人で食べる日々。悠々自適の老後が待っていると思っていたのに、離婚と共に状況は一変しました。こうなって初めて、佐藤さんは妻と向き合ってこなかってこなかったことを後悔したのでした。
熟年離婚を回避するために、どう備えればいい?
熟年離婚の原因はさまざまですが、佐藤さんの事例のように、子育てや仕事が一段落したときに離婚に至ることはめずらしくありません。子どもが独立したり夫が定年退職したりして、夫婦だけの時間が増えることに、妻が耐えられなくなるパターンです。
親しき仲にも礼儀ありという言葉の通り、日ごろから妻に感謝の気持ちを表したり、コミュニケーションを取ったりするべきなのはいうまでもありません。「まさか我が家に限って」と思っていると、このような熟年離婚になることも多いものです。
また、 退職して収入が減ったにも関わらず現役時代と同じように支出を続けるなど、夫婦間での金銭的な不満が熟年離婚の原因になることも多くあります。日々の収入と支出の管理はもちろんのこと、どのような生活を望むのか、イメージする将来像をお互いに共有したり、可能な範囲で将来的なお金周りの予測を立ててみたりするなど、老後に対する認識をすり合わせていく必要があるといえます。
ある程度まで将来の方向性が定まってからは、理想の将来の実現に向けて協力していくことも欠かせません。そのための人生設計がライフプランであり、それを最大限実現できる資金計画を立てることが重要です。
年金生活に入ってから離婚となると、厚生年金や資産の分割などで大きく資金計画が崩れ、佐藤さんのようにゆとりの生活のはずが節約生活を強いられてしまうことがあります。離婚だけでなく、配偶者のどちらか片方が死別した場合に、公的年金の受給額が減ることによるリスクもあります。そういった場合でも資産が十分に確保できているのかなど、チェックしておくとよいでしょう。
そういった保障の必要性も含め、自分達の目指すこれからの理想とする生活のイメージや人生設計をしっかり二人で共有し、人生の共同経営者としてしっかり話合ってみることが大切です。
小川 洋平 FP相談ねっと
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