海外にある美術品…マネーロンダリング対策としてのファミリーオフィス、保税倉庫ビジネスが脚光
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月29日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相続税対策としての王道といえば土地対策といわれてきました。ですが相続財産のうち土地をもつ割合が年々減りつつあるようです。その分、現預金や有価証券だけでなく、美術品や宝飾品などを持つ人々も増えてきた印象があります。美術品などは輸入消費税の関税分類のなかでもっとも加工度が高いとされ、関税率がゼロであることから、節税策に利用する富裕層もいるようです。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。
多様化する相続財産、土地の割合が大幅減
国税庁によると相続税の申告実績において令和4年の相続財産の構成比は、現預金34.9%、土地32.3%、有価証券16.3%、家屋5.1%、その他11.4%です。
土地の割合は平成23年は49.2%でした。この十数年で約15%も減少しています。そのかわりに現預金や有価証券などを持つ人の割合が増えてきています。
そして相続財産には、美術品等(絵画や彫刻等の美術品のほか工芸品などが該当)、宝飾品、アンティークコイン、切手等も含まれます。これらについては、被相続人の趣味趣向と重なるものと、相続税の節税対策としての購入、相続財産から隠ぺいする目的のものが想定されます。
このうち、被相続人の趣味趣向の部分は除いて、相続税の節税対策としての美術品等の購入と相続財産から隠ぺいする目的として購入した場合の財産の管理方法ということになります。美術品等を鑑定するテレビ番組で真贋(しんがん)を判定していますが、絵画ではフェルメールの贋作(がんさく)事件が新聞、テレビなどで報道されました。美術館が贋作を購入して、後にそのことが判明したのです。このように、美術品等の分野では、真贋というリスクが常にあります。
収集した美術品等を公益財団法人の美術館に寄付
公益財団法人制度が2006(平成18)年に成立しました。その骨子は①準則主義による非営利法人の設立、②主務官庁による許可性の廃止、③民間有識者の合議制機関による公益認定等に移行、となっています。
公益財団法人は、法人税法上、「公益法人等」として、収益事業に係る部分を除いて課税されません。
相続税の課税では、相続した財産を相続税の申告期限までに公益法人等に寄付した場合は、寄付した財産等が相続税の対象とならない特例があります(措置法70条1項:国などに対して相続財産を贈与した場合、相続税が非課税)。
富裕層である被相続人が生前収集していた美術品等を公益財団法人である美術館に寄付して相続税の課税を免れることは可能です。また美術品等に限らず、自社株を多数所有する被相続人が、その株式を公益財団法人に寄付して相続財産を減らすということも可能です。
次に、この相続税の特例を受けた者が、その公益財団法人を実質的に支配することは可能かどうかという問題があります。仮にそうであるならば、相続税の課税免除の特例と美術品等の実質支配の双方を得ることが可能になります。
しかし、寄付をした者が公益財団法人を親族で支配することはできません。すなわち、公益財団法人の理事の3分の1以上を三等身以内の親族関係者で占めることはできないことになっているからです。結果として、相続税の課税の特例を利用し、かつ、間接的に寄付した公益財団法人の支配をするということはできないようになっています。
美術品等を公益財団法人に寄付して相続税の特例を利用するメリットは、被相続人がその名前を美術館に残すことから、美術品コレクターとしての名声を得ることです。
美術品にかかる輸入関税ゼロ
では、海外に目を向けてみます。国内取引とは異なり、外国貨物については輸入消費税が課税となります。この場合、消費税の納税義務者は事業者に限定されず、その外国貨物を引き取る者が納税義務者となります。
関税定率法では、関税分類は1類から97類まであります。1から加工度が上がって97まであり、加工度の高いものに向かって関税率は低減していきます。書画の税番分類は97類に分類されています。美術品はもっとも加工度が高いとされる97類の「書画」と規定され、関税率はゼロです。節税目的として美術品に着目する人がいるのもうなずけます。
マネーロンダリングと美術品
ファミリーオフィスは、富裕層の投資および資産の管理を行う非公開会社のことで、一般の資産管理会社よりも無形資産等の管理も含みます。日本では、任天堂創業家の資産管理・運用などを行うファミリーオフィス「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」が有名です。海外でも多くのファミリーオフィスが存在しています。
ジェトロ(日本貿易振興機構)の報告書では、スイスのジュネーブにおける保税倉庫ビジネスが紹介されています。それによれば、保管されている美術品等の総額は1,000億ドルともいわれ、マネーロンダリング対策として保管品を電子データで管理して透明性を高めています。また、この保税倉庫の優位性は保税期間が無期限ということで、他国の保税倉庫は一定期間で制限されています。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員
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