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「起業して大金持ちになろう!」…実業家の演説を、大学の進路指導担当教員が苦々しい思いで聞いたワケ

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月28日 9時15分

「起業して大金持ちになろう!」…実業家の演説を、大学の進路指導担当教員が苦々しい思いで聞いたワケ

(※写真はイメージです/PIXTA)

物事には「見える部分・見えない部分」があり、それについて「聞こえる声・聞こえない声」があります。ビジネスや人生設計などの重要な局面で、一部の見え方や一部の意見だけを判断材料にすると、ときに大きな後悔につながりかねません。元メガバンカーで大学教授の経歴も持つ、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

キラキラした成功者の背後にかすむ、大勢の敗退者たち

パチンコ屋やカジノに行くと、店にいる客の多くが満面の笑みを浮かべています。さぞかし勝っているのでしょう。しかし、それを見て「この店は客に優しい。自分でも勝てそうだ」と考えて遊び始めるのは危険です。

朝から1,000人の客が来て、990人は負けて帰宅し、偶然勝っている10人だけが店に残っている、ということだから店内の客が皆笑顔なのです。したがって、自分が遊びはじめれば、11人目の勝ち客になる確率よりも、991人目の負け客になる可能性のほうがはるかに高いわけです。

パチンコやカジノで負けるくらいなら構いませんが、人生で同じ失敗をするのは悲惨です。学生に向かって「サラリーマンなんかつまらない。私のように起業して大金持ちになろうよ!」と演説をする実業家がいますが、教員として学生の進路指導を担当していた筆者にとって、あれは迷惑でした。

演説をしている実業家は大金持ちでしょうが、同じように起業して失敗して破産した人も大勢いるわけです。しかし、そうした人は学生の前で「起業は危険だからサラリーマンになりなさい」といった演説をすることがありません。

そこで学生は「起業すれば大金持ちになれる」と考え、就職活動をやめてしまいかねません。進路指導担当としてはそうしたことがないように、学生に「起業して失敗して破産した人も大勢いるのだ」ということを、しっかり認識させなければならないのです。

夢を追うのは悪いことではないので、「それがわかったうえで、なおかつ起業して夢を追いたいというのであれば応援するけどね」と付け加えることも要検討ですが、このあたりはむずかしいところです。自分の能力を過大評価して無謀な挑戦をしかねない学生も多いでしょうし、反対に「就職活動をサボりたいから進路指導担当には起業するといっておこう」という学生もいるでしょうから。

満足している人は黙っている

講義の最中に「暑いから冷房を強くしてほしい」という学生がいたとします。すぐに冷房を強くする教員もいるでしょうが、そうすると「寒すぎる」という不満が教室に充満するかもしれません。現在の室温に満足している学生はわざわざ手をあげて「冷暖房のスイッチに触れないでください」などといったりしませんから。

教室の空調であれば、その場で学生たちの意見を聞くことができますが、その場にいない人にまで思いを至らせることは容易ではありません。かつて、それで失敗した政治家がいたので、ご紹介しましょう。

選挙区の高齢者から「金利が低すぎて、われわれ金利生活者は困っている」と陳情されたので、記者会見を開き「金利を上げなければならない」と演説したのです。そもそも金利を決めるのは政治家ではなく日銀総裁なのですが、それはさておき、翌日選挙区の中小企業が怒鳴り込んできたのです。金利が低いことに満足している中小企業は黙っています。しかし、政治家が金利を上げたら自分達は大変困ることになるので、「ふざけるな」といいにきたわけです。

政治家としては「金利が低くて困っている人がいるのは理解した。では、陳情に来ていない人々はなにを考えているのだろうか」ということに思いが至らなかったために失敗したことになります。「黙っている人のことを考える」というのは「言うは易く行うは難し」ですが、常に頭の片隅に置いておきたいですね。

お客様のクレームを「聞きすぎる」こともリスクに…

企業のなかには、お客様からのクレームを商品改良の参考にしているところも多いでしょう。実はこれも、注意深く行動しないと失敗するかもしれません。

「おたくの製品を買ったが、すぐ壊れた!」というクレームを聞けば、頑丈な製品を作りたくなるでしょう。しかし、それによって重たくデザインも悪い製品になってしまうかもしれません。

そうなると、黙って他社の製品を買う人が増えるかもしれません。そういう人は、わざわざ「おたくの製品は重くてデザインが悪いから買わなかった」とクレームしてくるわけではありませんから、会社としてはなぜ売上が落ちたのか理解できないかもしれません。

本来であれば、他社製品を買った客に「なぜわが社の製品を買わなかったのですか?」と聞きたいところですが、それはむずかしいので、せめて「他社製品を買った人は何を考えているのだろう?」といったことに思いを馳せることが望まれます。

海外からの観光客についても、日本に来た外国人に「日本のよいところ、悪いところはどこですか」と聞くだけでなく、ほかの国に行った人に「なぜ日本ではなく、ほかの国を選んだのですか?」と聞きたいところですね。容易ではないかも知れませんが、さらにインバウンドを増やすために、観光庁がアンケートをとってくれることを期待しましょう。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

塚崎 公義 経済評論家

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