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「岐阜」でタワマンバブルも…父は大手自動車メーカー勤務、世帯収入1,000万円の「パワーカップル」29歳・公務員夫が絶望したワケ【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月28日 10時45分

「岐阜」でタワマンバブルも…父は大手自動車メーカー勤務、世帯収入1,000万円の「パワーカップル」29歳・公務員夫が絶望したワケ【FPが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

近年、タワーマンションが全国に続々と建設されています。タワーマンションが激増する地方都市として、いま、岐阜市が話題になっていることをご存じでしょうか。本記事ではFさんの事例とともに、地方のタワーマンションについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

人口は減少も、続々建設されるタワーマンション

近年「タワーマンション」が全国に建設され続けています。不動産調査会社の東京カンテイによると、全国のタワーマンションの棟数は2023年12月末時点で1,515棟とされています。タワーマンションがない都道府県は、青森県、石川県、三重県、奈良県、鳥取県、島根県、徳島県、大分県、宮崎県の9県のみ。このうち青森県、大分県、宮崎県にはすでに建設計画があります。いずれすべての都道府県にタワーマンションが存在するようになるのかもしれません。

タワーマンションとは一般的に、「地上20階以上、高さ60m以上」の高層マンションの通称です。東京都心であれば50階建て、総戸数が1,000戸を超えるものまであります。このような大規模なタワーマンションが一棟建つことで、本来は狭いはずの土地に数千人の人口が増えるということになります。たとえば富山県新川郡にある舟橋村は人口3,304人です。この人口が標準的なタワーマンションのわずか3棟分に匹敵すると考えると、タワーマンション建設による経済効果がいかに大きなものか想像できると思います。

地方都市においてタワーマンションは駅前に建てられていることが多く、購入者は「資産価値」「リセールバリュー」を期待しているようです。さらにはタワーマンション=富裕層、というステイタス性も期待しています。

しかしそれらは、人口が増え続けることが前提の理屈です。2024年現在、人口が前年よりも増えた都道府県は、東京都、千葉県、沖縄県のみ。その他はすべて人口減社会となっています。団塊世代は相続のときを迎えつつあり、またその子供の団塊ジュニア世代もまた30年ほどで相続のときを迎えます。この先30年で人口ボリュームの多い世代がふたつ消滅してしまうのです。人口が激減していくことが予想されている地域において、タワーマンションは「ひとときの儚い夢」となるかもしれません。人口減少社会でのタワーマンションは、将来「廃墟」「スラム」と化していく危険があり、都市計画としても冷静に考えていく必要があります。

タワーマンション激増の岐阜駅前

タワーマンションが激増する地方都市として、いま、岐阜市が話題になっています。

2007年に43階建ての「岐阜シティ・タワー43」が建設され、2012年には37階建ての「岐阜スカイウイング37」、2019年には24階建ての「岐阜イーストライジング24」と増えていきました。さらに岐阜駅北口方面の旧繊維問屋街の再開発として、「岐阜駅北中央東地区・中央西地区市街地再開発事業(仮称)」が進行中です。2028年に完成すれば駅前に34階建てのタワーマンションが二棟、ツインタワーとしてそびえ立つことになります。県庁所在地のメインの駅前が住宅地になってしまう状態です。

なぜ岐阜駅前にタワーマンションが増えているのでしょうか。

岐阜市の人口は2024年9月時点で39万9,235人です。これは全国の県庁所在地の人口ランキングで24位であり、長崎市とほぼ同じ規模。決して小さな自治体ではありませんが、人口は減少しています。1985年の約41万1,743人をピークに減少しつづけ40万人を切っています。岐阜県全体では今後、全国のペースをはるかに超えるスピードで減少し続け、30年後には50万人減ると予想されています。現在の岐阜市以上の人口が消滅するのです。

このような日本の人口減少を象徴するような地方都市でタワーマンションが増える理由は、主にその立地だとされています。JR岐阜駅はJR名古屋駅まで東海道本線の快速であれば23分(480円)という距離感です。駅前に住んでいれば名古屋までは比較的ストレスがなく電車で通勤ができるでしょう。また、名鉄岐阜駅も近くにあり、非常に移動には便利な場所といえます。そのため岐阜駅前のタワーマンションは、名古屋までの通勤者を想定しているものと考えられます。

岐阜駅前のタワーマンションは名古屋市のそれと比べて、新築時も価格が安いことも魅力です。2,000万円台から存在し、3LDKでも6,000万円程度と、タワーマンションという名前から想像する価格とはかけ離れています。名古屋市都心にある新築タワーマンションで3LDKであれば、1億円以上であることから、岐阜市の場合は一般的な会社員世帯でも十分手が届くはずです。

名古屋市への通勤に便利で、価格も手ごろ、駅前の再開発にも役に立っている、そのような理由から岐阜駅前のタワーマンションが盛り上がっているものと思われます。しかしこれを手放しで喜べるものでしょうか。

タワーマンションが地方の駅前再生の起爆剤になるのは最初だけで、いずれ街を荒廃させる原因になりかねません。同時に区分所有者の資産価値も決して上がることはなく、負の遺産となってしまうかもしれません。岐阜駅前のタワーマンションの増加にはいくつかのリスクがあると思われます。

・将来の岐阜駅前が荒廃する ・マンションが廃墟・スラムと化す ・区分所有者の資産価値が下がっていく ・子供、孫世代への負の遺産を相続することになる

これらのリスクは、タワーマンションに本来求められる機能・あり方と乖離していることが原因です。

タワーマンションの将来

タワーマンションは「地上20階以上、高さ60m以上」であれば成立するかというと、そう簡単な話ではありません。タワーマンションに期待する資産性とリセールバリュー、ステイタス性、利便性をすべて叶えるためには次のようなポイントが備わっていることが必要です。

・人口が増え続けている大都市のど真ん中にある ・将来にわたって生産年齢人口が分厚い都市にある ・職場に極めて近接している ・区分所有者は高所得者が大半で、高額な修繕費の負担ができる ・管理組合が機能している ・区分物件が投機対象にされていない

東京都港区にある1971年竣工のタワーマンションはこれらの条件が備わっていて、築50年を過ぎた今も驚くほど高額な価格を維持しています。また外国の例ですが、ニューヨークにある1884年竣工のダコタ・ハウスはいまも超高級集合住宅として成立しています。これは厳しい入居審査があることによって適切に維持されているからです。これと同じことを東京都以外に期待しても実現は困難です。人口が急速に減少していく社会では、「街全体がタワーマンションを維持していく力」が弱いからです。

地方都市の駅前タワーマンションは個人の家計だけでなく、都市計画にとって大きなリスクです。「タワーマンションができる→人口増→税収増」という流れは最初こそありますが、いずれその駅前でも人口が減り税収は下がります。その郊外ではかつて開発したニュータウンが高齢化によって空き家化が進行します。限界集落と化したニュータウンには学校や病院などのインフラが消滅し、より人口が減るでしょう。

駅前のタワーマンションは人口減とともに資産価値が下がることが想像できます。修繕積立金が不足していると管理組合が機能せず、さらに資産価値は低下。相続とともに賃貸に出されることが増えますが、資産価値が低いため家賃を高くすることができません。新築時に住んでいたような高所得者はいなくなり、高齢者と低所得者が住まう「スラム」と化していくかもしれません。

駅前を住宅地にすると、商業機能は大きくなりません。あくまでも住宅地としてのサイズに収斂されるのです。その住宅地が荒廃し出すと駅前は目も当てられない事態になってしまいます。

このような危機感を強く持っているのが神戸市です。

タワーマンション建設を規制した神戸市

2022年7月から、神戸市はJR三ノ宮駅周辺でマンション建設を規制しています。

・JR三ノ宮駅周辺においてマンションが建設できなくなる ・その周辺部分も、住宅部分の容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)が最大400%までに制限される(敷地面積1,000m2以上の場合)

実質的な「タワマン規制」とされる内容です。これは神戸市が三ノ宮駅前の将来の荒廃を危惧していることを理由として挙げています。JR三ノ宮駅から中央区全体は神戸でもっとも華やかな商業地、観光地です。買い物やグルメを楽しめる、神戸らしさを誇るお洒落な繁華街であることに異論はないでしょう。しかし神戸市もまた人口が減り続けている都市です。

その場所にタワーマンションが建ち過ぎると、短期的には人口が増えますがやはり減少に転じていき、高齢化が進みます。修繕積立金が不足し、適切に維持できなくなった建物が「廃棄物」として神戸市のど真ん中に放置されるのではないかと神戸市長が説明しています。また、これからの時代は「新しく作り続ける時代」ではなく、「いまあるもの(住宅ストック)を活用する時代」ではないかということも、神戸市が提言しているのです。人口約149万人の大都市であるはずの神戸市が、都市計画上の危機感を強く表明していることに、多くの人が驚きました。

地方においてタワーマンション購入を検討している個人は、もう少し視野を大きくとってリスクを精査する必要があるでしょう。滅びゆく街と運命をともにする必要はないのです。

「僕たちパワーカップルだよね?」流行りの言葉に踊らされるアラサー夫

夫Fさん 29歳 地方公務員 年収420万円

妻Kさん 29歳 地方公務員(看護師) 年収550万円

子供なし

預貯金 550万円

FさんとKさんは、岐阜市内に住む公務員夫婦です。世帯年収は970万円。今後の昇給を考えると来年にも世帯年収は1,000万円を超えるでしょう。

夫Fさんは岐阜市内から名古屋市まで通勤しています。電車に乗るのはあまり好きではないことと、岐阜駅まで行くのが億劫な場所に住んでいるため自家用車での通勤です。妻Kさんは岐阜市郊外の出身です。看護師として勤める病院が岐阜市内にあるため新卒時に引っ越しました。愛知県豊田市生まれの夫Fさんは結婚を機に岐阜市に転居。2人は現在、岐阜市内の賃貸物件に住んでいます。

最近の関心ごとはマイホームです。妻Kさんは岐阜市内に戸建ての注文住宅が欲しいと思っています。80坪くらいの土地、延床面積40坪くらいの二階建ての建物をイメージしているようです。妻Kさんが考える予算は、土地、諸経費込みで5,500万円程度。ペアローンであれば借り入れは可能と考えています。

一方、夫Fさんの要望はまったく違います。駅前に建設が予定されているタワーマンションが欲しいと思っているのです。Fさんは父親が大手自動車メーカーの社員であったことから、幼少期から社宅で育ちました。そのため、土地付きの戸建てにはこだわりがありません。それに、夫Fさんは妻が呆れるほどの見栄っ張りなのです。

「僕たち、パワーカップルだよね? 戸建てよりタワーマンションがいいよ」と夫Fさんが言います。

妻Kさんはそれを聞くたびにため息が出ます。流行り言葉をすぐに使いたがり、Instagramを見ては洋服や靴を欲しがり、他人からの目線をとにかく気にする夫Fさんは日ごろから無計画な浪費が止まりません。父親が大手自動車メーカーに勤務しているにもかかわらず、乗っているのは7年ローン・頭金なしで購入した高級ドイツ車です。腕時計は妻Kさんですら知っているブランド「ロレックス」。

「そんな時計と車で通勤して、職場の人はどう思っているの? 公務員でしょ……?」と妻Kさんは心配しますが、夫Fさんは気にしていない様子。同級生はどの企業に勤めて年収はいくらだとか、同僚がなんの車を買ったとか、そういう話ばかりをするのが、妻Kさんにとっては苦痛です。夫の分不相応な浪費のせいで、家の貯蓄は550万円しかありません。それも妻が貯めたものであって、夫は貯蓄ゼロ、借金は総額800万円近くもあります。そんな夫Fさんですから、タワーマンションが欲しいと話すのを聞くと妻Kさんは鳥肌が立つほどの嫌悪感を覚えることもあります。

「なぜタワマンなの? またいつもの見栄でしょ?」そう妻Kさんが言うと、夫Fさんは反論します。

「タワーマンションは資産価値があるの知らないの? 将来は買った値段よりも高く売れるんだよ。買えるのは富裕層とパワーカップルだけだから治安もいいよ」と夫。

「まるで岐阜の治安が悪いかのように言うけど、いつ危ない目に遭ったの。それに我が家は富裕層でもパワーカップルでもなく公務員です。資産価値で家を買うつもりもないし。一度買ったら老後まで住みたい」そう妻が反論します。

雲を掴むかのような実体のない話を繰り返す夫と議論をすると、妻Kさんはストレスでめまいがします。そこでファイナンシャルプランナーに相談して判断を仰ぐことにしました。

「終の棲家なら戸建て、タワーマンションなら名古屋市の物件」

夫FさんはFPに持論をまくしたてます。

「僕は、買い物はリセールにこだわるんです。浪費しているつもりはなくて、将来高く売れるものを選んで買っているんですよ」そう言って自分がいま所有している高級ドイツ車を例に出します。「5年落ちの車もこの値段で売っているほど人気車種、人気カラーなんですよ」と、FPに見せたのは中古車情報サイト。それを見てFPは怪訝そうな顔で答えます。

「それ、売価ですよね。その値段でFさんが売却できるわけではありません。売却価格と中古車販売価格とはかなりの乖離があります。中古車の卸売りの相場は自動車販売業界の人だけが閲覧できるイエローブックというものがあるので、業者にそちらを見てもらったほうがいいですよ。お言葉ですが、一般的に輸入車の売却はFさんの想像以上に安いです。名古屋まで通勤で走行距離が多いのもマイナスになります」

ため息をつく妻Kさん。「タワーマンションはわたしたちの家計にとって、FPとして勧めますか?」と妻Kさんが質問します。

「タワーマンションとはいえ、安いので買うことはできるでしょう。返済も問題ありません。しかし、家計の流れを計算すると、老後にもう一度住宅を買うのは不可能です。資産価値が低く売却が難しいうえに終の棲家にするには、タワーマンションは高齢者に不向きです」とFP。「もしこれが東京都心だったら、タワーマンションはライフプラン上、有利に働くことがあります。でもここは岐阜市ですから……」

納得する妻KさんにFPが続けます「終の棲家なら戸建て、タワーマンションなら名古屋市の都心の物件を買ったほうがいいかもしれません」。

しかし1億円を超える名古屋市のタワーマンションを買うには、2人の世帯年収では極めて難しいのが現実です。キャッシュフロー上も老後資金が不足するため、実現は不可能です。FPの話を聴いて、妻Kさんは戸建ての検討で間違いないと思ったものの、夫Fさんは納得いかない様子。

「タワーマンションじゃなきゃ家は欲しくない……」と絶望します。

論理的に冷静に損得を考えられない状態では、この夫婦に住宅購入は早いのかもしれません。住宅購入は自動車と異なり、家計に後戻りができない影響をおよぼします。失敗は人生を狂わせてしまうのです。地方都市でタワーマンションを購入するときには、ライフプランニングを緻密に行うと同時に、街自体の将来像を想像していくことが重要です。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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