今年から相続税や贈与税の計算方法が変更に…改正のポイントは?
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月3日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
今年80歳になったマサシさん。以前から相続対策を考えており、どのように行えばいいか相続に関する本を読みながら自分なりに準備をしてきました。そんな中、今年から相続税や贈与税の計算方法が変わったと聞き、また考えなおさなければならないのかとあせっています。CFPなどの資格を持つトータルマネーコンサルタントの新井智美さんが、2024年に改正となった相続税や贈与税の内容や、今後相続対策を考えるうえでの注意点について解説します。
相続時精算課税制度とは?
マサシさんには妻と子ども2人がおり、所有財産には家と預貯金そして株式などの有価証券があります。特に株式は大きく値上がりしたものもあり、まとまった金額になっているとのこと。
もし自分が亡くなったときには、家と預貯金は妻に、そして有価証券は2人の子どもたちに均等に残そうと考えています。
そこで考えたのが相続時精算課税制度の利用です。相続時精算課税制度とは、通常年110万円以上の贈与を行った場合に、110万円を超えた部分が贈与税の課税となる暦年贈与と異なり、申告することで、その年からの贈与が2,500万円まで非課税になる制度です。そのため、年間110万円以上の贈与を行ったとしても、受け取った人に贈与税は発生しません。
そして、相続が発生したときには、相続財産に加算して相続税を計算する仕組みです。つまり贈与税の支払を先延ばしにする効果が得られるのです。
相続税精算課税を利用するメリットは、贈与を行った時点でその評価額が決まることです。そのため、これから値上がりする可能性のある株や投資信託などの運用商品を所有しているマサシさんは、まだ株価が低いうちに贈与することにより、相続時の評価額を下げられるメリットを享受できます。
相続時精算課税制度を利用するにあたって、贈与の回数や期間に制限はなく、基礎控除である2,500万円までなら何回も利用できます。ただし、2,500万円を超えてしまった場合は、超えた部分について20%の贈与税がかかる点に注意が必要です。
また、相続時精算課税制度の利用には以下の要件を満たさなければなりません。
・贈与者が贈与を行った年の1月1日の時点で60歳を超えている父母もしくは祖父母であること・贈与を受ける人が、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳を超えている、推定相続人もしくは孫である
ただし、相続時精算課税制度を利用する際には税務署への届け出が必要であり、またいったん相続時精算課税制度を利用すると暦年贈与に戻せない点にも注意してください。
相続時精算課税制度、改正前と改正後の違い
今回の改正では、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が創設されました。これまでは基礎控除が無かったため、2,500万円を超えた時点で贈与税が発生していましたが、基礎控除が設けられたことで、最終的な贈与税額を抑えられる可能性があります。
改正前および改正後の相続時精算課税制度を利用した相続税および贈与税の計算方法の違いは以下のとおりです。
(改正前)
贈与税の計算方法:(贈与額-2,500万円)×20%相続税の課税価格への加算方法:全ての贈与額合計
(改正後)
贈与税の計算方法:((贈与額-110万円※)-2,500万円)×20%
※は年間のため、最終的には2024年から相続時精算課税制度を利用して贈与した年分を乗じる
相続税の課税価格への加算方法:贈与額から2024年から贈与した額について年間110万年を引いた額
仮に、これまでの制度だと3,000万円の贈与を行った場合、基礎控除の2,500万円を差し引いた残りの500万円に対して20%の贈与税がかかることになります。
しかし、今後は年間110万円の控除が適用されるため。5年かけて合計3,000万円贈与した場合、基礎控除後の550万円が差し引かれるため2,450円となり贈与税は発生しません。
そして、その後相続が発生した場合の相続財産を加えた額が相続税の基礎控除(3000万円+(法定相続人の数×600万円))を下回るなら、相続税も発生しないことになります。
もう一つの変更点は暦年課税における生前贈与の加算対象となる期間が見直されたことです。
これは、相続時精算課税制度ではなく暦年課税を選択していた場合、相続が始まる7年前に贈与された部分については贈与ではなく相続として取り扱われるというものです。改正前は3年でしたが、この度の改正で7年に延長されました。
ただし、注意したいのはこの改正が適用されるのは2024年から行った生前贈与に課税されることです。2023年中に行われた生前贈与については3年ルールが適用されます。
つまり、2024年以降に贈与者の相続開始があった場合、生前贈与の加算対象期間は以下のようになります。
このように、暦年贈与の非課税内で計画的に生前贈与を行っていても、今後は相続財産と見なされる期間が長い点に注意しなければなりません。ただ、2024年1月1日以降に相続が開始された場合、生前贈与の合計金額から100万円までが非課税になります。
マサシさんのように生前贈与や相続時精算課税制度を利用した相続税対策を考えている人もおられると思いますが、今回の改正を受け、現在考えている対策の効果に影響がでないよう、考え直す必要が出てくるかもしれません。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP
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