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岸田首相の「酷暑乗り切り緊急支援」、東京都区部CPIへの効果が判明【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月28日 8時15分

岸田首相の「酷暑乗り切り緊急支援」、東京都区部CPIへの効果が判明【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

(※画像はイメージです/PIXTA)

“景気の予告信号灯となる身近なデータ”として、総務省や内閣府が公表している「統計データ」が挙げられます。本稿では、エコノミスト・宅森昭吉氏が、9月末時点での物価の推移と消費者の生活の変化について、9月27日に公表された「東京都区部消費者物価指数・9月中旬速報値」などの統計データから紐解いていきます。

総務省公表の、身近な物価動向を早期に把握できる統計

消費者物価の動向を早期に把握できる便利な統計が、総務省が公表している「東京都区部消費者物価指数・中旬速報値」です。「全国消費者物価指数」に先立ち1ヵ月弱早く、先行指標として東京都区部(中旬時点)のみの結果を速報として公表するものです。9月分が9月27日に発表されました。

9月の東京都区部消費者物価指数・総合・前年同月比は8月の+2.6%から+2.2%に0.4ポイント伸び率が高まりました。なお、東京都では24年度から高校の授業料助成の所得制限を撤廃し実質無償化した影響で、東京都区部の前年同月比の方が、全国に比べ低い状況にあります。教育授業料等は前年同月比▲15.3%で、内訳の高等学校授業料(私立)は同▲61.7%となっています。

9月の生鮮食品は前年同月比+6.7%と8月の+7.9%から上昇率が1.2ポイント鈍化し、前年同月比寄与度差は▲0.03%の低下要因になりました。トマトは前年同月比+12.7%と高めでしたが、生鮮食品全体では8月から上昇率はやや鈍化しました。

9月のエネルギーの前年同月比は+9.5%と8月の+17.4%から上昇率が鈍化し、寄与度差は▲0.39%の低下要因になりました。総務省によれば「酷暑乗り切り緊急支援」による押し下げ効果(寄与度)は▲0.51%[試算値](内訳:電気代は▲0.35%[試算値]、都市ガス代は▲0.16%[試算値]ということです。

9月では、生鮮食品を除く食料の前年同月比+2.8%の上昇要因になりました。9月はうるち米(コシヒカリを除く)の前年同月比+42.0%と8月の+28.2%から大幅に上昇しました。9月の牛肉(輸入品)は同+14.7%、チョコレートは同+11.5%と2ケタの上昇率になりました。

9月の宿泊料は前年同月比+6.8%、外国パック旅行費は前年同月比+65.3%でした。

9月生鮮食品を除く総合・前年同月比は+2.0%上昇と8月の+2.4%から0.4ポイント伸び率が鈍化しました。9月の生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数・総合・前年同月比は+1.6%と、8月+1.6%と同じ伸び率になりました。

なお、卸売価格の上昇の影響が報道されることが多い鶏卵ですが、9月東京都区部消費者物価指数での鶏卵は2020年を100とした指数で122.8、前月比▲1.0%、前年同月比▲11.2%となっています。

エネルギー価格の高騰がようやく沈静化?

9月上旬貿易統計で入着原油価格(原粗油)は77,604円/klと8月下旬までの8万円台から24年4月上旬79,968円/kl(当初発表値)以来の7万円台に低下しました。ドル建ての原油価格がWTIでみて9月は1バレル=70ドル前後で安定推移し、ドル円レートが一時期から見て円高方向に進んだことが背景です。入着原油価格の前年同月比は4月から8月までは2ケタの上昇率でしたが、9月上旬前年比は+0.5%に鈍化しました。

23年は9月中旬から12月下旬まで、1klあたり8万円台だったので、9月上旬の価格水準を考慮すると、24年中は9月中旬以降年末まで入着原油価格が前年比マイナスで推移する可能性が大きいと思われます。エネルギー価格の高騰が長らく日本経済に影響をおよぼしてきましたが、ようやく沈静化してきたように思われます。

8月・9月の「実質賃金」は?

7月の毎月勤労統計では、ボーナスなど特別に支払われた給与の伸び率が前年同月比は+6.6%と6月の同+7.8%に続き高く、7月の実質賃金(現金給与総額)は前年同月比+0.3%と2ヵ月連続プラスとなった。しかし、きまって支給する給与の実質賃金は前年同月比▲1.0%と30ヵ月連続前年同月比マイナスです。

特別に支払われた給与プラス効果が小さくなり、デフレーターの消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合の前年同月比が+3.5%に上昇することがわかっている8月分では、一旦、実質賃金(現金給与総額)は前年同月比マイナスに転じそうです。しかし、東京都区部消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合の前年同月比は+2.5%で8月の+3.1%から0.6ポイント鈍化しています。

「酷暑乗り切り緊急支援」による押し下げ効果が出てデフレーターの全国消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合の前年同月比も鈍化が見込まれる9月では、実質賃金(きまって支給する給与)が32ヵ月ぶりにプラスに転じ、全体ベースの実質賃金(現金給与総額)もプラスに転じる可能性があると思われ、要注目です。

8月と比較し、9月の「物価見通し」は落ち着きをみせる

9月の「消費者マインドアンケート調査」は、8月から大きく変化しました。

内閣府の「消費者マインドアンケート調査」は16年9月から実施されている、誰でも自ら参加し回答できるユニークな調査です。毎月20日締め切りで、結果の公表時期が当該月の22日~25日頃と早く、消費者マインドの基調変化を的確に把握できます。9月調査は3連休の影響で、9月25日と遅めの日程で公表されました。

質問は「暮らし向き(半年後)」と「物価上昇(1年後)」の2問です。「良」「上昇」から「悪」「低下」の5つの選択肢から回答します。「景気ウォッチャー調査」と同じ5段階評価なので、1から0まで、0.25刻みで点数を割り振り、加重平均してDIを算出することができます。50が判断の分岐点です。

物価上昇判断DIは、調査開始から22年1月までは60台・70台で安定推移していましたが、ロシアがウクライナ侵攻した月の22年2月調査以降80台・90台と物価が上昇するという見通しが強まっていました。24年は高水準ながらも落ち着き傾向で、2月以降は7月82.6まで80台前半でしたが、8月は88.3と5.7ポイント上昇と大きく変化しました。

政府の電気代・ガス代への補助金が一旦終了したことや、新米が出回る前に不足気味の状況が生じコメの価格が上昇したなどの身近なものの価格上昇が影響したと思います。

9月の物価上昇判断DIは80.3とまだ80台ながら、8ポイントも低下しました。円高が進んだことや、9月支払い分から「酷暑乗り切り緊急支援」として政府の電気代・ガス代への補助金が復活したことなどが影響したと思われます。ロシアのウクライナ侵攻前の22年1月の79.5以来の低い水準になりました。

暮らし向き判断DIの16年9月から24年9月の全調査期間平均は36.8、最高は17年1月48.9、最低はコロナ禍の20年4月20.7です。24年8月は33.8と平均的水準を下回っていましたが、9月は41.0で8月から7.2ポイント上昇し、平均的水準を上回りました。

暮らし向き判断DIと物価上昇判断DIの相関係数は16年9月から21年8月までの5年間では相関係数が0.01と無相関でしたが、その後の3年1ヵ月間(21年9月~24年9月)では、相関係数は▲0.75と逆相関の関係です。24年8月では、高めの物価見通しが暮らし向き判断の足枷になり、逆に9月は物価見通しの安定化が暮らし向き判断の改善をもたらしました。

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

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