【中小企業M&A】仲介サービスでは得られない…FAならではの「理想の売却」を実現する支援とは【専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月15日 13時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日本のM&A業界において、大企業向けにはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)サービスが提供されてきた一方で、中小企業向けにはM&A仲介サービスが提供されてきました。しかし作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)は、特に中小企業M&Aの売り手側においては、利益相反のないFAを起用することが有効な選択肢になるといいます。本稿では「FAサービスの支援内容」を中心に、FAと仲介の違いを見ていきましょう。
“真のFA”がオーナー経営者に提供する価値とは?
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)はどのような支援を提供するのでしょう。具体的に、M&Aにおいて「売り手の利益を守り、追求する」とはどのような取り組みを指すのでしょうか。今回はFAがオーナー経営者に提供する価値について解説したいと思います。
売り手の事業オーナーの立場からすると、M&Aにおける利益追求とは主に、(a)理想のマッチング、(b)理想の売却額、(c)理想の取引条件の追求に整理することができます。
(a)理想のマッチング
理想のマッチングの追求とは、事業を継続的に成長させてくれる買い手に託したいとか、屋号や従業員の待遇を維持してくれる買い手にお願いしたいといった、条件を満たす譲渡先を追求することです。
ここで、一般的なM&A仲介とFAのマッチング手法の違いについて解説したいと思います。
<M&A仲介のマッチング>
M&A仲介サービスにおけるマッチングは、主に「ニーズのマッチング」です。つまり、実際に買い手から聞いた買いニーズと売りニーズをマッチングさせるというものです。実際に聞いてきたニーズですから、案件を持ち込んだとき、実際に買い手が関心を示す可能性が高い点がメリットといえます。
<FAのマッチング>
FAサービスにおいても実際に把握している買いニーズとのマッチングは行いますが、M&A戦略の一環として、親和性の高い事業を営む買い手候補を特定し、提案することが特徴です。実際に買いニーズを把握している会社は限られるため、潜在的に関心を示す可能性のある企業をリストアップしていくアプローチです。
なお、FAサービスは買い手から手数料を徴収しないビジネスモデルであるがゆえに、独自の買い手のネットワークの観点で仲介会社に劣るのが一般的です。他方、買い手から手数料を徴収しないため、金融機関や大手仲介会社をはじめとした他業者と買い手探索で連携できるメリットもあります。FAを起用する場合には、外部連携も含めて十分な買い手探索が可能な体制を持っている業者であるか、精査が必要です。
前回記事のとおり、M&A仲介サービスでは紹介してもらえる買い手候補企業に制約が生じるケースがありますが、FAは買い手から手数料を受け取りません。そのため、利益相反リスクや高額な仲介手数料がネックで買い手候補が離脱することはありません。買い手から受け取る手数料を気にする必要がないので、売り手にとって理想の相手をとことん追求することができます。
(b)理想の売却額
理想の売却額の追求とは、売却対価の手取り額を最大化する利益追求のことです。M&Aの取引において手取り金額を最大化するということは、具体的には、
①買い手からの評価額を高めること
②手取りを最大化できる取引スキームを選択すること
です。
①買い手からの評価額を高める
買い手からの価値評価を高めるためにできることには、何があるのでしょうか。色々とアイディアが挙がりそうなところではありますが、ここでは、1)競争環境を作ること、2)対象事業をより魅力的に見せる情報提供についてお話ししたいと思います。
1)競争環境を作る:
モノの価格の決定には、一般的に需要と供給のバランスが大きく影響します。需要が多ければそれだけモノの価格は高くなりますが、これはM&Aにおいても同じです。売り手は、買い手候補企業の間に競争環境を作ることで、より有利に交渉を進めることが可能となり、希望する条件での売却も実現しやすくなります。
一方で、広く買い手を募る場合には、当然、それだけ情報漏洩のリスクが高まります。
売り手としては、競争環境を醸成しつつ、情報漏洩リスクとのバランスも配慮しながら、売却プロセスを構築していかなければなりません。その点、優先度の高い買い手候補企業数社に限定して情報を開示する、限定オークションの形式が有力な選択肢となります。
仲介会社にとっては、買い手候補企業も手数料を支払ってくれる大切なお客様です。お客様に十分な検討機会を与える必要があるため、買い手が1社検討して、ダメならまた別の1社が検討するといった進行となるケースが散見されますが、これでは売り手にとって必要な競争環境が作られません。買い手も1対1で交渉していることを知っている環境ですから、そこで出てくる買い手の提案は、「ギリギリ、売り手が応諾するかどうか」といった水準を狙ったものになります。これでは到底、売り手にとって魅力的な提案は勝ち取れません。1社ずつ買い手を連れてくるアプローチでは、仮に交渉の結果成約に至らない場合にまた別の買い手候補企業と1から交渉することになり、売却プロセスが長期化するリスクもあります。これも、両手で手数料を取るビジネスモデルゆえに生じうる弊害と言えます。
2)対象事業をより魅力的に見せる情報提供:
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、著書『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』の中でこう指摘しています。
「人間は、最初に与えられた限られた情報に基づき早い段階で印象を形成し、その後は予断の正しさを裏付けようとしがちだ。」
M&Aにおいても、情報を整理整頓して魅力的なストーリーに沿ってレポートに取りまとめたほうが、乱雑に情報開示を行うよりも投資家の印象が良くなるというのは当たり前にあることです。
意図的に好ましくない情報を隠すというのはもってのほかですが、誠実な情報開示の範囲において、対象事業に関する情報をどのように開示していくかを戦略的に検討することは、買い手からの評価額を高めるために非常に重要なポイントです。
②手取りを最大化できる取引スキームを選択する
もう1つ、理想の売却額を追求するには、手取りを最大化できる取引スキームを選択する必要があると述べました。これには、余剰資金を会社分割で対象会社から切り出して売却対象から除外するなどの工夫が含まれます。しかしM&A仲介会社が関与するケースでは、成約のスピードや、手数料を増やすために余剰資産であっても売却対象に含めて取引金額を減らさないことが重視され、売り手にとって有利な取引スキームが選択されていないケースが散見されます。これは仲介会社が悪いというわけではなく、当事者としては、そもそも仲介サービスが中立の立場で支援を提供するサービスであることを前提に、自分の利益が優先されない可能性があることを常に理解しておく必要があるのです。
(c)理想の取引条件
M&Aにおいては、手取り金額のほか、取引時期、引継ぎ期間、表明保証、屋号の維持、従業員の待遇など、多岐にわたる取引条件を自らにとって有利に設定することも、重要な利益追求です。買い手から提示された取引条件が売り手にとって不利な条件であるのはよくあることです。ここでも、自分の利益は自分で守る、が鉄則です。仲介会社を起用する場合には、中立の立場で支援を提供するサービスであることを忘れてはいけません。
オーナー経営者が取引条件に不利益やリスクとなる条項が存在しないかをチェックするためには、やはり売り手専属で助言をしてくれるFAに支援を求めたいところです。
最近はオーナー経営者も仲介サービスのリスクを懸念するケースも増えてきているようで、仲介会社が代案として(仲介サービスではなく)FAサービスによる支援を提案するケースも増えているように思います。しかし、その多くは仲介サービスの範疇において片手を支援することをFAと呼んでいるに過ぎず、本来FAに求められる「顧客の利益を守り、追求する」役割を果たせているFAサービスは少ないのが中小M&A業界の実態です。
この点、顧客を守る真のFAの役割を果たせるかどうかは、その業者が「M&A仲介サービスも提供する会社であるかどうか」によって、ある程度見分けがつくと思います。M&A仲介サービスもFAサービスも提供している場合、仲介サービスの範疇において片手で支援することをFAと呼んでいると考えてよいでしょう。M&A仲介サービスにおいては、顧客であるM&A当事者の利益を守り、追求する経験を積むことができません。片手支援であることで利益相反構造は回避できるものの、その業者の標榜するFAサービスが「当事者を守る機能を十分に果たせるかどうか」については、いっそう慎重な判断が必要です。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社 代表取締役社長
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