現金が少ない、預金が凍結されたまま…「相続税が払えない場合」の対処法【税理士が裏技も解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月29日 9時15分
※画像はイメージです/PIXTA
相続財産が不動産ばかりで現預金が少ない、もしくは遺産分割がまとまらず預金が凍結されたままである。そういった理由で相続税の申告期限までに相続税が払えないというとき、どうすればいいのでしょうか。税理士が解説します。
どのようなときに相続税が払えなくなるか
いくら相続税の税率が高いとはいえ、遺産を相続したのであればその遺産から納税できるではないかと考える方は多いかと思います。しかし、実際には相続税が払えないというケースは多数みられます。
どのようなときに相続税が払えなくなるかといえば、以下の二つのケースが多いです。
●相続財産の中に相続税を支払うだけの現預金がない
●遺産分割がまとまらず預金が凍結されたままである
それぞれのケースについて解説しましょう。
●相続財産の中に相続税を支払うだけの現預金がない
遺産の大半がすぐには換金できない不動産で、現預金の占める割合が少ない場合です。相続税は、金銭で一括払いすることが定められています。相続税の税額が大きい場合であっても、原則として納期限までに一括払いしなければなりません。遺産のうち現預金の占める割合が少ない場合は、納税するための資金を相続税の納期限までに用意できず、相続税が払えなくなる可能性が高くなります。
●遺産分割がまとまらず預金が凍結されたままである
相続財産の中に現預金があるものの、被相続人の遺言書がなく、また相続人間でも分割方法がなかなか決まらないという場合です。被相続人の預金口座は死亡がわかった時点で凍結され、遺産分割がまとまるまでは原則として相続人であってもその口座から現金を引き出すことはできません。遺産分割がまとまらないということは被相続人の預金凍結を解除できないということです。この場合、いくら相続税を払えるだけの現預金が被相続人の相続財産にあったとしても、相続税分の現金を引き出し、納付することができなくなってしまう可能性は高いでしょう。
ではこれらの場合にどういった対処を取りうるのでしょうか。
相続財産の中に相続税を支払うだけの現預金がない
相続財産の中に相続税を支払うだけの現預金や、すぐに換金できる金融商品がない場合の対処方法を以下で3つ紹介します。
相続税を分割で支払う「延納」
延納は、相続税を一括で払うことができない場合に、最大約20年に渡って分割払いできる制度です。相続した財産を手放したくない場合に利用を検討すると良いでしょう。
ただし、延納が認められるためには次のような要件があります。
1.相続税額が10万円を超えていること
2.金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
3.「延納申請書」及び「担保提供関係書類」を期限までに提出すること
4.延納税額に相当する担保を提供すること
2については、例えば、相続人が個人的に金融資産を所持しておりそれを使えば納税が完了できるようなケースでは要件を充たすことにはなりません。また、延納をするときには、4にあるように担保を提供する必要があります(ただし、延納した税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合は不要です)。延納が認められれば、延納した税額を延納期間で割った金額を、毎年1回支払います。延納した税額には利子税が課税されます。
相続税を土地等のモノで納める「物納」
物納は、現預金ではなく、相続した不動産などを直接相続税として納めることができるという制度です。延納で分割しても相続税を納めることが困難な場合に利用されることがあります。物納できる財産は被相続人から相続したものに限られ、相続人がもともと保有していた財産を物納することはできません。また、被相続人から相続したものであれば何でもよいわけではなく、物納できる財産には一定の範囲が定められています。
物納するときに注意すべき点は、物納で納める財産は相続税評価額で評価されるという点です。不動産であれば、時価より低い金額で評価されます。また、小規模宅地等の評価減の特例を適用した宅地は、評価額を減額した後の金額で評価されます。小規模宅地等の評価減の特例を適用した宅地は、物納するより、宅地を時価で売却して現金で納税するほうが得策です。
上記のように物納は認められるためのハードルも高く、相続財産を売却して現金で納税する方が税額的には抑えられるケースも多いため、利用する際には慎重な検討が必要です。
相続財産を売却し現金化して相続税を納める
相続財産の中に相続税を納めるだけの現預金がない場合、相続財産自体を売却して納税に充てるという方法があります。相続税の申告期限までに売却手続きを行い換金すれば、この方法をとることは可能です。まだ相続税を納めていない段階でその相続財産を売却してしまっても良いのかと思われる方もいるかもしれませんが、まったく問題ありません。ただし、売却を検討している相続財産について、相続人の間で遺産分割が完了している必要はあります。
一般的にこのような場合に売却されるのは、相続した家や土地などの不動産であることが多いです。以下に、納税資金捻出のために相続不動産を売却する場合の注意点について解説します。
●不動産を売却する前に
不動産を売却するには、まず、不動産を売却できる状態にしなければなりません。物件を手入れすることはもちろんですが、手続きとしては、不動産の名義を相続人のものに変更することが必要です。相続による不動産の名義の変更は相続登記といい、その不動産がある場所を管轄する法務局で手続きをすることができます。もし、不動産に抵当権などの権利が付けられているのであれば、それらを抹消する手続きも必要になります。
●不動産を売却する
売却の準備が整ったら、相続税の納税期限に間に合わせるためにもできるだけ早く不動産業者に売却を持ち掛けましょう。不動産は、立地条件によっては、なかなか買い手がつかないこともあります。売却を急ぐと、不利な条件で売却することになります。有利な条件で売却するためには、できるだけ早く売却を始めることが大切です。
ただし不動産の売却によって譲渡所得税という相続税とは違う税金がかかる場合もあります。売却時にかかる税金も考慮し、手取りを計算して納税資金を検討する必要があります。相続税の取得費加算の特例という譲渡税を低くするための特例も設けられていますので、併せて利用を検討するとよいでしょう。
遺産分割がまとまらず預金が凍結されたままで相続税が払えない
相続財産の中に現預金はあるものの、相続人の間で遺産分割が難航していたり、分割で揉めていたりする場合です。この場合、被相続人の預金口座は凍結され、通常の手続きで現金を引き出すことができません。こういった場合の対処方法を紹介します。
相続人間で話し合って納税資金分だけ一部遺産分割協議を行う
一番簡単な方法は、相続人間で話し合いを行い、とりあえず納税資金の分だけ分割協議を一部行い預金口座の凍結を解除するというものです。たとえば、すべての相続財産が1億円あり、相続人が二人で、それぞれ納税が1,000万円ずつ必要だったとします。このような場合、とりあえず1億円の中の2,000万円の現預金だけ1,000万円ずつ取得するような一部遺産分割協議を行うことが可能です。ただし、連絡をとることも難しい状況ではこの方法をとることは困難です。そのような場合には次に紹介する方法があります。
金融機関に対して法定相続分の預金の払い出し請求を行う
相続が発生した時点で、被相続人の所有する預金口座は金融機関によって原則凍結されます。一旦凍結されると、遺言書がある場合を除き、相続人間で分割協議が整うまでは通常の手続で預金を引き出すことができなくなります。相続人間で争っており、他の相続人の協力が得られなければなおさら困難となります。このような場合でも適切な方法をとれば、凍結された預金口座から自らの法定相続分の払い出しを受けることが実は可能です。過去の最高裁判所の判例でこのようなことができる旨の判決が出ています。
ただ、相続人が法律や相続に詳しくない場合、単独で金融機関と交渉しても払い出しに応じてもらうことは困難です。ではどうすれば良いのかというと、相続事案に慣れた弁護士に依頼すると簡単に手続きをしてもらうことができます。ただし、金融機関によって対応は異なる可能性があります。また、弁護士に依頼するためには報酬もかかりますので注意が必要です。
金融機関から借りるという「裏技」も
最後に、金融機関から資金を借りるケースを紹介します。相続税の納税資金を借りるには、主に次の二つのパターンがあります。
●財産を手放さないために納税資金を借りる
●財産の売却を前提に、売却するまでの間、納税資金を借りる
昨今は金利が低い状態が続いているので、金融機関から資金を借りることは、場合によっては有効な選択肢となります。金利や返済期間などの条件や、そもそも資金を借りられるのかどうかについて、一度金融機関に相談してみると良いでしょう。
相続税を払わないままでいると最終的にどうなるのか?
ここまで現金が手元にない状態で相続税を納めるための方法を紹介してきましたが、では相続税を払わないままでいるとどうなるのでしょうか。相続税を払わないまま放置すると、最終的には国に財産を差し押さえられ、没収されます。
大まかな流れとしては、次のようになっています。
督促状 → 税務署からの電話・訪問 → 最終督促状 → 差押え予告所 → 差押調書 → 差押え上記は一般的な流れです。滞納額や税務署からの連絡への対応等によっては税務署側の対応も異なる可能性がありますので注意が必要です。
税務署からの連絡は無視せずに、誠意をもって対応するようにしましょう。
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