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これじゃあ暮らしていけない…夫婦の年金月30万円で〈余裕の老後〉が一転。夫の死後に知る〈遺族年金額〉に絶望も、遺品整理で見つけた古いアルバムに挟まれた「真新しい封筒」の中身に66歳妻、再び号泣【CFPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月5日 10時15分

これじゃあ暮らしていけない…夫婦の年金月30万円で〈余裕の老後〉が一転。夫の死後に知る〈遺族年金額〉に絶望も、遺品整理で見つけた古いアルバムに挟まれた「真新しい封筒」の中身に66歳妻、再び号泣【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後のシニアの生活の要となる「年金」。受給できると想定していた年金額に突如狂いが生じる場合の要因として、「配偶者の死」が挙げられます。今回は、長年共働きで生計を立ててきた夫婦に起こりがちな遺族年金の落とし穴について、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が事例をもとに解説します。

「遺族年金」とは

年金の受給中に亡くなった場合、条件を満たすことで遺族に遺族年金が支給されます。遺族年金には大きく「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、それぞれ支給要件は異なります。

以下でそれぞれの特徴や要件について順にみていきましょう。

遺族基礎年金

遺族基礎年金とは、国民年金に加入中の方や老齢基礎年金を受給中の方などが亡くなった際に、18歳未満の子どもがいる遺族に支給される年金です。

遺族基礎年金の受給額は一律で81万6,000円となり、そこに子どもが1人増えるごとに年金が加算される仕組みです。

【遺族基礎年金の支給額】

・基本額:81万6,000円(2024年度)

・子ども1人目:23万4,800円

・子ども2人目:23万4,800円

・子ども3人目以降:各7万8,300円

遺族厚生年金

遺族厚生年金とは、厚生年金に加入中の人や、老齢厚生年金を受給中の人などが亡くなった際に、遺族に支給される年金です。遺族厚生年金にかんしては配偶者に子どもがいない場合でも支給されます。ただし、子どものいない30歳未満の妻は5年間のみの有期年金になります。

遺族厚生年金の計算式は次のとおりです。

【遺族厚生年金の計算式】

(1)加入月数が300ヵ月未満の場合:平均標準報酬額×5.481/1000×300×3/4

(2)加入月数が300ヵ月以上の場合:平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数×3/4

また、老齢厚生年金を受給中の方が亡くなった場合、次のうちどちらか高い方の金額が支給されます。

・亡くなった方の老齢厚生年金の3/4分の金額

・「亡くなった方の老齢厚生年金額の1/2分の金額」と「配偶者の老齢厚生年金額の1/2分の金額」を合算した金額

その他にも、一定期間厚生年金に加入していた夫が亡くなった当時、遺族基礎年金を受給しておらず、40歳以上65歳未満で生計を維持されていた妻に支給される中高齢寡婦加算などの制度も設けられています。

このように、遺族年金の受給要件は制度ごとで異なります。配偶者が亡くなった際に、自身がどういった遺族年金を受け取れるのかを事前に把握しておくことで、今後発生するリスクに対応しやすくなるでしょう。

年金受給額に不安を感じていなかった前田夫婦

66歳の前田彰さん(仮名)は、同じく66歳の前田佳子さん(仮名)と2人暮らしです。戸建ての持ち家に住んでおり、住宅ローンは完済しています。夫婦には長男と次男の2人の息子がいます。2人とも結婚しており、現在は遠方に暮らしているため、年に数回程度しか会う機会はありません。

夫の彰さんは長年、食品メーカーの商品開発に携わっており、忙しい時期は日をまたいで帰宅することもありました。彰さんの趣味は健康維持の目的で始めたランニングです。定年後の現在も、週末には10kmのランニングを日課にしています。

一方の佳子さんは貿易会社の営業事務として定年まで勤務していました。趣味はヨガで、毎週近くのフィットネスクラブでヨガを楽しんでいます。

夫婦はともに老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給しており、2人合わせて年間360万円(月約30万円)の年金収入があります。

その内訳は以下のとおりです。

夫:老齢基礎年金……80万円、老齢厚生年金……105万円

妻:老齢基礎年金……80万円、老齢厚生年金……95万円

夫婦共働きだったため、年金は月30万円となり、夫婦2人で生活するには十分な金額です。

現在の資産額は預貯金で300万円。彰さんの生涯年収自体はそれほど多いものではありませんでしたが、毎月の年金受給額だけで十分生活ができるので、いまの預貯金でもとくに心配はないと感じています。

いつも通りランニングに出かけた夫に異変が…

そんなある日のこと。彰さんは早朝から「いまから軽く走ってくるね!」と言い残しランニングで出かけました。しかし、いつもは1時間もすれば帰ってくるのに、その日は2時間を過ぎても帰ってきません。

佳子さんは嫌な予感がしました。直後に、自宅に一本の電話がなります。病院からの電話で、彰さんが心臓発作で倒れたとのことです。急いで駆け付けた佳子さんでしたが、彰さんはすでに還らぬ人となっていました。佳子さんは悲しみと混乱が一気に襲い、佳子さんは人目をはばからず声を上げて泣き叫びました。

年金事務所で遺族年金の支給額を聞き、絶望する佳子さん

その後、周りの援助もあり、無事に葬儀を済ませた佳子さん。彰さんを失った悲しみがまだ残っていますが、相続手続きなどの現実的な問題が待っており、悲しんでいる時間はありませんでした。息子たちは遠方に暮らしているため、数日しか実家に滞在できず、遺品整理などは佳子さんが少しずつ進めていくことになります。

それと並行して、遺族年金などの手続きも必要となります。佳子さんは早速、年金事務所に遺族年金について手続き方法などの確認にいきました。その際に遺族年金の給付額についても説明も受けたのですが、この内容に佳子さんは絶句します。

年金事務所で担当者に具体的な年金額を計算してもらったところ、佳子さんが今後受け取る年金額は、遺族年金と合わせて180万円(月15万円)であることが判明しました。これまで受け取ってきた年金の半分です。

佳子さんは「どうしてこんなに年金が下がるの⁉ これじゃあ暮らしていけない……」と驚きと不安で言葉を失いました。

遺族年金は支給停止の対象になる場合も

年金事務所の担当者が佳子さんに説明をし始めます。

彰さんが死亡した場合、65歳以降の妻への遺族厚生年金は「夫の老齢厚生年金の3/4」(ア)あるいは「夫の厚生年金の1/2と妻自身の老齢厚生年金の1/2の合計」(イ)、いずれか高いほうの金額で計算されます。

今回のケースでは、佳子さんの老齢厚生年金は95万円のため、以下のように計算されます。

(ア)105万円×4分の3=78万7,500円

(イ)52万5,000円(105万円÷2)+47万5,000円(95万円÷2)=100万円

(ア)と(イ)では、(イ)のほうが大きいため、佳子さんの遺族厚生年金は100万円となります。

しかし、この遺族厚生年金100万円から、佳子さんが受け取っている厚生年金額を差し引く仕組みがあります。美帆さんは遺族厚生年金100万円を受け取れるものの、自身の老齢厚生年金部分の95万円は支給停止となるのです。

結果として、佳子さんが実際に受け取れる年金額は、佳子さんの老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金95万円+遺族厚生年金(100万円-95万円)=合計180万円となります。月に換算すると15万円となり、これまで毎月30万円だった年金が、彰さんが亡くなった後は半分まで減ってしまいます。

これまでの安定した生活が、突如として揺らぎ始めるのを感じ、佳子さんは頭が真っ白になりました。

遺品整理で見つかったエンディングノート

絶望的な精神状態のなか、佳子さんは遺品整理を進めていると、夫の部屋の押し入れから古い写真アルバムが出てきました。アルバムを開くと夫婦2人でいった新婚旅行の写真や家族写真など、これまでの思い出の写真が目に映ります。それらの写真を見るうちに、彰さんとともに過ごした幸せな時間が鮮明に蘇り、佳子さんは涙をこらえきれなくなりました。

そしてしばらくアルバムをめくっていくと、一封の封筒が落ちます。佳子さんは拾い上げて、まだ真新しい封筒の中身をみてみると、作成中のエンディングノートでした。彰さんは亡くなる数ヵ月前からエンディングノートの書き始めており、完成したら佳子さんにその存在を伝えるつもりだったのです。

エンディングノートには彰さんの名前や生年月日、マイナンバーなど基本的な情報から、親友や知り合いの連絡先などが記載されています。さらに読み進めていくと、財産の詳細が記載されていました。

なんとそこには、生命保険の詳細も記載されており、彰さんは800万円の生命保険に加入していたのです。受取人は佳子さんで、保険証券の保管先も明記されています。

どうやら彰さんは、子育てが落ち着き、経済的に余裕が出たタイミングから終身保険に加入し、毎月4万円を積み立てていたのです。佳子さんは彰さんが終身型の生命保険に加入していたことへの驚きと、同時にこの保険金によって少し余裕を持って生活ができるという安堵の表情を浮かべました。

そして、さらにノートをめくると、佳子さんへの感謝の気持ちが綴られていました。

「佳子さんへ

いつも家族のために尽くしてくれて本当にありがとう。ぼくたちの日々がどれほど幸せであったか、言葉にするのが難しいほどです。佳子さんと過ごした時間、家族として共有した喜びは、私の生涯の宝物です。これから先の人生で、ぼくがそばにいることは叶わないけれど、このノートが佳子さんの支えになれば幸いです。どんなときも、佳子さんが笑顔でいられるよう願っています。」

と夫からの最後のラブレターです。

佳子さんは泣き崩れ、「彰さん、こちらこそありがとう。あなたとの日々は私の一生の宝物よ」と心の中で呼びかけました。その手紙は、佳子さんがこれからの日々を生きていくうえでの大きな支えとなりました。

その後、佳子さんは受け取った生命保険を少しずつ取り崩しながら、残りの老後生活を無事に過ごすことができています。

共働き夫婦は注意が必要

今回の事例のように、共働き夫婦の場合はパートナーが亡くなる前と亡くなる後とで、年金収入に大きな開きが生じやすくなります。

仮に妻が専業主婦で、受け取れる年金が老齢基礎年金のみの場合で試算してみましょう。

【夫の年金収入】

老齢基礎年金:80万円

老齢厚生年金:200万円

【妻の年金収入】

老齢基礎年金:80万円

上記のケースでは、200万円×4分の3=150万円となります。妻は厚生年金を受給していないため、150万円の全額を遺族年金として受給できます。したがって、妻の年金は以下のとおりです。

老齢基礎年金80万円+遺族厚生年金150万円=230万円

月約19万円を受け取れる計算です。先ほどの彰さん夫婦と比較して、毎月3万円以上の差が生じます。

加えて、遺族厚生年金は非課税所得となるため、税負担においても有利となるのです。

年金制度はたびたび見直しが実施される

年金制度はこれまで何度も改正されてきました。今後も政府は公平性を保つために改正を実施するでしょう。

現在、見直されている内容は遺族厚生年金についてです。遺族厚生年金の給付が、60歳未満で子どものいない配偶者には5年間の有期給付となる案が検討されています。

今回の見直し案については、子どもがいない世帯のみが対象であり、子どもがいる世帯については引き続き遺族厚生年金は維持される模様です。なお、その他にも「中高齢寡婦加算」が段階的に廃止されることも検討されています。

このように、今後はさらに社会保障制度の充実は減りつつあります。そのため、社会保障制度だけに依存するのではなく、自身でも現役世代のうちから自助努力で老後資金などの準備を進めていくことが重要になるでしょう。

辻本 剛士 ファイナンシャルプランナー

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