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大部屋に8日間入院で“請求額50万円”…乳がん罹患の年収450万円・40歳女性「病院食に1回460円は高い…」【CFPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月9日 11時45分

大部屋に8日間入院で“請求額50万円”…乳がん罹患の年収450万円・40歳女性「病院食に1回460円は高い…」【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

がんはお金がかかるという印象が強い病気、がんへの備えはがん保険と考える人は少なくないでしょう。一方で、がん保険に加入していなくても、健康保険証があれば誰でも申請することができる保障があることをご存じでしょうか。本記事では、フリーランスで働く水谷さん(仮名)の事例とともに、がんでかかるお金と、公的保障「高額療養費」について、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が解説します。

無知の怖さ

千葉県船橋市在住、40歳の水谷香織さん(仮名)。水谷さんは半年ほど前に早期乳がんで入院し、手術を受けました。その際、入院費の自己負担として約50万円を出費し、がんはお金がかかる病気であること、がん保険の必要性を実感しました。

ところが最近FPに資産運用の相談をしたところ、以前負担した入院費用について多額のキャッシュバックが受けられることを教えられて安堵するとともに、知識がないことの怖さを実感しました。

50万円の入院費自己負担で感じた「がん保険先送り」の後悔

水谷さんは現在フリーランスのWebデザイナーとして働いていて、年収は約450万円、貯蓄は約350万円。住まいはマンションの購入も考えていますが、会社員に比べ安定度の低いフリーランスという立場から、なかなか考えがまとまらず、いまのところ賃貸マンション暮らしです。倹約家であまり浪費などはせず、家賃を含まない月々の生活費は6万円~8万円程度であるため、貯蓄は十分にできています。

40代になり、今年から乳がん検診を受けるようになったのですが、初めて受けた検診でまさかの乳がんが発覚。幸い、がんは早期段階で、1週間程度の入院・手術できれいに取り除くことができるとの見立てで、主治医の勧めに従い、水谷さんは手術を受けました。

がん検診を考え出したころ、がん保険の加入も検討していたのですが、日々の仕事に忙殺され、先送りにしてしまったことを後悔しました。

予定どおり8日間の入院・手術でがんを取りきることができ、幸いほかへの転移は確認されず、その点は安堵した水谷さん。ただ、入院費自己負担額は約50万円。内訳をみてみると、「治療費、入院基本料、食事代」などが記載されていました。

「治療費、入院基本料はしょうがないか。……食事代が1食460円!? 食べられない日もあったし、病院食って美味しくないし、量も少ないし割高に感じる。ちょっとでも削れればいいのに……」と思わずぼやきました。懐が寂しくなると、さまざまなことが気になってしまうようで、水谷さんは悲しい気持ちになりました。

ちなみにですが、病院食は病院にもよりますが、たとえばおかず1品とっても、〇℃以上、〇分以内に〇度まで温度を下げるなど、細かい規定があります。手袋着用はもちろんですが、それが使い捨てであることや、手を洗う頻度も家庭の基準より大幅に多いこと、管理栄養士が患者1人ひとりに合わせた食事を考えて提供されていることなど、さまざまなコストがかかっていることを考慮すると、1食460円が高いとはいえないかもしれません。

※健康保険法施行令の改正により、2024年6月1日からの一般の方の入院時食費は1食490円に引き上げられました。

そして、治療とその後の療養期間は仕事を休んだため、本来であれば稼げたはずのその月の収入40万円が貯蓄から消えることとなり、あらためてがん保険の必要性を感じました。

がん保険のときのように、もう先送りにはしない

乳がんでの入院手術のあとは、特に別の治療の必要はなく定期的な検査を受けることとなった水谷さん。仕事を約1ヵ月休んでしまった分を取り戻すべく、いままで以上に仕事に励みました。

一方でフリーランスという立場上、今後なにかあったときの備えも考えなければいけないとも感じるように。少し調べてみると、一度がんになってしまうと医療保険やがん保険には加入ができないことがわかります。

そのため、いまある貯蓄や今後の収入から、将来に向けて資産運用などを考えていこうという思いになりました。資産運用に関して水谷さんはほとんど知識を持っていなかったため、つい最近自宅の周辺で活動しているFPがいることを知ったため、そのFPに相談してみることに。そこで水谷さんは、乳がんでの入院手術の際に利用可能であった保障の存在について知ることになります。

資産運用相談をしていると…

FPに資産運用の相談をした水谷さん。まず、このまま過ごしていった場合の将来の年金受給額のシミュレーションをチェックし、薄々は感じていましたが、年金だけではとても生活が成り立たないことを確認。いままでまったく関心を持っていませんでしたが、やはり自助努力で資産運用することが必要だと感じました。そして、70歳までの今後30年間に数%の利回りで資産運用した場合と、ほとんど利息の付かない預貯金にお金を放置した場合の資産額の違いに驚き、強い危機感を感じました。

なにもしてこなかったとはいえ、水谷さんもやはり老後に関しては不安を感じています。以前がん保険を考えたときのように先送りせず、これを機にアクションを起こさなければいけないと思いました。

そんな話のなかで、なんとなく半年前の乳がんでの入院・手術についての話題となりました。入院療費の自己負担額が50万円かかり、貯蓄を大きく取り崩し、がん保険加入を先送りしたことを後悔したことをFPに伝えた水谷さん。

すると、そのFPは急に真剣な表情になり、ある質問を水谷さんに投げかけてきました。

初めて知った「高額療養費」の存在

「入院中は1泊何万円もする高額な個室に入っていたのですか?」FPから問われた水谷さん。「なぜ?」と思いながらも入院は大部屋だったため、個室代はかからなかったと回答しました。

するとFPからはさらなる質問が「高額療養費は申請しましたか?」。「なんですかそれ?」思わず聞き返した水谷さん。

ちょうど手元の資料に病院の領収書があったため、それをFPに見せたところ、FPからは想定外の言葉が「水谷さん、今からでも高額療養費を申請すれば約40万円のキャッシュバックを受けることができます」。

まさかの案内に驚きながらも、水谷さんは、FPからその『高額療養費』というものの詳細を教えてもらいました。後日、市役所へ行って教えてもらったとおり手続きを完了させました。入金までには少し時間がかかるもののFPがいったとおり、退院時に支払った入院療費自己負担額のうち約40万円のお金が戻ってくるようです。

ひととおり手続きを済ませ冷静になった水谷さん。資産運用の相談でこんなことまで教えてくれたFPに感謝するとともに、無知であることがとても怖いことだということを実感しました。

がん保険より先に必ず知るべき「高額療養費」

一般的に30代、40代と年代があがってくると生活習慣病などへの不安が出てくるといわれています。がんもその生活習慣病のひとつとされ、そういった年代でがん保険を考えたいという人も少なくありません。

実際生命保険文化センターの調査によると、がん保険の加入率が一番高いのは40代ということです。がんのリスクが気になると、がんへの備えとしてがん保険に加入しようというアクションをとるかもしれませんが、民間の保険加入を考える前に、「すでに得られている保障」について正しく理解することが非常に大切です。

使うと実感するとても手厚い保障

高額療養費は健康保険制度のなかのひとつの保障で、健康保険証を持っていれば誰でも必要なときに申請し、保障が得られます。その中身は厚生労働省によると、

高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額(※)が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。

※入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません。

とされています。つまり、ひと月当たりに負担すべき医療費の自己負担額には上限が定められていて、その限度額を超えた場合にはその金額がキャッシュバックされるという制度です。一般的に入院・手術という流れになると、その限度額以上の医療費が発生するため、手続きをすることでキャッシュバックを受けることができます。

特にけがや病気の種類を問わないのですが、がんのように手術が高度なものとなり、医療費が高額になるケースほどキャッシュバック額も大きくなり、ありがたみも増してくる設計になっています。がんという重い病気でも、現在は早期で発見できれば、短期間の入院手術で治療が終了となることも少なくありません。

もし今回の事例の水谷さんのようなシナリオであれば、がん治療費は約10万円ですんでしまい、必ずしもがん保険が必要とはいえないかもしれません。

もちろん、がんは再発転移などで治療が長期化することもあり得ますから、そういったシナリオ、また手元の貯蓄のゆとりなどもふまえて総合的に判断する必要はありますが、この高額療養費は必ず押さえてこの保障では足りないところを民間の医療保険・がん保険でカバーするという考え方が無駄のない保険の組み方といえるかもしれません。

知らなければ使えない

日本の社会保障制度には、高額療養費のようにとても手厚い保障が得られるものが存在し、安心感があります。しかし、いざというときに、その安心を得るためにとても大事なことがあるのです。それは、そういった制度(保障)があることをあらかじめ知っておかなければ使えないということです。

日本の公的保障や救済制度は申請ベースのものが多く、本人から手続きしなければその保障を得ることはできません。また、高額療養費に関しては、加えて知っておくべき点として以下の3つがあります。

1.時効は2年

2.あくまで対象は医療費のみ

3.事前申請で立替払いが不要になる

まず(1)についてですが、高額療養費に関していうと、時効が2年間という注意点があります。今回の事例の水谷さんは半年前の入院についての申請であったため問題はありませんでしたが、もし2年を超えていたら40万円のキャッシュバックの権利は消滅していました。

次に(2)について。この制度はあくまで医療費自己負担額が対象のため、入院中の個室代や食事代などは対象外で発生した費用はすべて自己負担となります。入院しても高額療養費があるから「すべての入院費の自己負担額は10万円程度ですむ」と誤った理解をして、高額の個室を利用した場合に思わぬ自己負担額を請求される可能性があります。

最後に(3)、実は高額療養費は事前申請することもでき、立替払いを不要にすることが可能です。

このように入院時にはとても手厚い保障が得られる高額療養費ですが、いまあげたような一定のルールがあり、このいった知識事項を事前に知っていなければ、その恩恵を受けることができなくなる可能性があります。

がんが心配になったのでがん保険に加入する、そう考える方も少なくありません。しかしその前に日本の社会保障制度を正しく知ることが大切です。今回の事例のような早期がんでの短期入院の場合、自己負担額は想像以上に低く抑えられる可能性があります。

高額療養費の落とし穴

高額療養費のメリットと注意点を中心に述べてきましたが、実は、大きな落とし穴もあります。それは、がんの再発・転移等で長期の通院治療といったシナリオとなった場合、実は高額療養費はあまり機能しない場合があることです。

そういった高額療養費の特性を正しく理解し、社会保障制度では手薄なところを民間のがん保険でカバーする、そのような考え方が無駄のない民間保険の活用といえるかもしれません。ただそれを適切にするためには、日本の社会保障制度を理解し、かつがんになってしまったときに、どのようなシナリオがあり、どのようにお金がかかるのかを知ることが必要です。

そういった意味で、もし自分自身ですべてを正しく理解することが難しい場合には、社会保障制度とがんを熟知した専門家に相談することをお勧めします。  

谷藤 淳一

株式会社ライフヴィジョン

代表取締役

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