庭に咲き乱れる花々が散っていく…年金繰上げで月20万円の琴瑟相和夫婦、60代で「自慢の我が家」を現金一括購入も、1年後「借金苦」に陥ったワケ【一級建築士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月5日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
憧れのマイホームを手に入れたものの、住み始めてから重大な欠陥が見つかるケースは少なくありません。多額の費用がかかることもため、特に年金を頼りに生活している高齢者の住宅購入は慎重に進めたいところです。予期せぬ大きな出費が重なると、生活水準を下げて暮らさなければならず、ときには老後破産に陥る恐れも。本記事では、60代夫婦が直面した中古住宅購入の失敗と、その背景にある問題について一級建築士の三澤智史氏が解説します。
マイホーム購入を夢見た60代夫妻の現実
地方在住の62歳のAさんと2歳年下の妻は、長年の夢だったマイホームを60代で購入しました。築30年の1,800万円の中古住宅を現金一括購入です。Aさんは、年金を繰上げしても月々20万円受け取れることがわかったため、妻との時間を確保しようと、65歳までは継続雇用で働くこともできましたが、早めの退職を決意しました。貯蓄もそれなりにあるし、20万円あれば、十分暮らしていけると思ったのです。
Aさんは仕事柄転勤が多く、これまでに住宅購入を検討したこともありましたが、二重生活で家計負担が重くなる点や、家族は一緒に暮らすべきだという考えから賃貸暮らしでした。しかし、子どもたちも手を離れ、退職を機に「自分の家」を持ちたいと妻と話し合います。妻も庭付きの家であればやってみたかったガーデニングができると乗り気。「60代」と一般的な住宅購入のタイミングからは遅れましたが、決断をしました。
新居への引っ越しがすむと、妻は早速ガーデニングを始め、庭には美しい花々が生活に彩りをもたらしてくれました。読書をしながら生き生きとする妻の様子を眺めたAさんは「賃貸だったらこんなことはできなかったね。思い切って買ってよかったなあ」と幸せを噛み締めました。
幸せは長く続かず…
しかし、わずか1年ほどで漏水をきっかけに配管の不具合が見つかり、配管の交換に80万円ほどかかることになりました。この出費を機に、生活費を見直さざるを得なくなり、老後の暮らしが変わっていくことになります。
現在、Aさんはその修繕費用80万円を分割払いにて返済中です。約3年後に完済予定ですが、それまでのあいだは月々の出費に応じて、生活水準を下げながら暮らしています。幸い、預貯金には余裕があり、現金一括で住宅を購入したため、月々の負担は修繕費用のみで住宅ローンの返済などはほかにありません。老後の後半に備え、預貯金には手をつけないようにしていたいため、妻はガーデニングの規模を縮小せざるを得ず、手をつけられなくなった花々が散っていく様子を悲しげに眺めています。
もし、Aさん夫妻の預貯金に余裕がなく、住宅ローンを組んで住宅を購入していた場合、さらに生活が困窮することになっていたでしょう。
築古物件に隠れた落とし穴
築年数が古い中古住宅には、見えないリスクが隠れています。Aさん夫妻のように、住宅購入後に予期せぬ大きな出費を防ぐため、起こりうるリスクを把握しておかなければいけません。
経年劣化による不具合
はっきりした定義はありませんが、中古住宅の購入は築年数15年前後が適しているといわれています。たしかに、築年数が古いほど住宅の価格は下がる傾向にあるため、内覧の段階で外観や内装に問題がなさそうであれば、購入を決意する人もいるでしょう。
しかし、Aさんが購入したような築30年といった築古の物件では、経年劣化により目に見えない部分でさまざまな不具合が発生する可能性があります。その分だけ多くの修繕費用がかかるため注意が必要です。
Aさんの住宅の不具合を例にあげると、原因は配管の経年劣化です。特に、2000年以前に建てられた住宅では、配管がコンクリートに完全に埋め込まれており、建物の微振動によって配管が破損する恐れがあります。
2000年以降に建てられた住宅であれば、床や梁のコンクリートに配管が通るための貫通孔があらかじめ計画されていることが多いでしょう。貫通孔の径は配管が通るために十分な大きさで設けられているため、配管がコンクリートに接することはなく破損することもありません。
想定外の出費を含んだ資金計画が必要
中古住宅を購入する際、多くの人が見落としがちなのは将来の修繕費用です。一般的に、修繕にかかる費用は住宅の広さや不具合の大きさにもよりますが、500万円前後といわれていて決して小さな金額ではありません。
また、国土交通省の「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によると、リフォームの実施状況は既存(中古)戸建住宅で52.1%、既存(中古)集合住宅では37.2%です※。このデータから、住宅購入前にあらかじめ修繕費用を含んで資金計画を考えたほうがいいといえるでしょう。
購入前にできる対策
専門家による住宅診断(ホームインスペクション)を依頼することが大事です。物件を購入する前に不具合を見つけることで、住宅購入後にかかる修繕費用がわかります。診断にかかる費用は約10万円です。予期せぬ不具合によるリスクを防ぐためにも、この費用を払うのはやむを得ないといえるでしょう。
そもそも、人生における数千万円単位の大きな買い物において、自己資金に余裕がなければ安易に住宅を購入すべきではありません。10万円程度の支払いをためらう時点で、住宅購入は考え直したほうがいいといえます。
不具合発覚後の改善策
修繕工事の費用は、リフォーム業者と相談して分割で支払う方法があります。自己資金を少しでも手元に残しておきたいときは、分割で少しずつ支払うように検討することが大事です。地方自治体に基づく補助金を使用して、修繕費用を抑えることもできます。自分が行う修繕工事の種類がどの補助金の対象になるか、あらかじめリフォーム業者に相談するのもいいでしょう。
また、Aさん夫妻のように配管に不具合が見つかった場合、その配管の修繕工事に加えて点検口を新たに設置しておくことも有効です。再び配管の修繕工事が必要なとき、点検口から簡単に床下や天井裏にアクセスできることで、迅速かつ容易に修繕でき費用も安く抑えられます。
今後も新たに別の配管で不具合が起きる可能性もゼロではありません。自己資金に余裕があれば、点検口の設置個所やそれに伴う費用を、リフォーム業者と相談してみるのも一つの方法です。
最悪の事態では売却という選択肢も
修繕費用が払えない場合、住宅を売却して、生活費を抑えるために賃貸住宅に移ることも検討した方がいいでしょう。住宅ローンを組んでいる場合は、売却益で住宅ローンを完済できるかどうかの検討も必要です。
Aさんの場合、幸いにも住宅を現金一括で購入しています。住宅ローンを完済できないといった問題で困ることはありません。
修繕費用を検討したうえでマイホームの購入を
築年数が30年といったような築古の住宅では、目に見えないさまざまなリスクが隠れています。特に年金生活を送っている高齢者は、多額の修繕費用による老後破産のリスクを慎重に考える必要があるでしょう。
<参考>
※国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査報告書」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001610299.pdf
三澤 智史 一級建築士
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