〈年金月6万円〉妻を亡くした、ひとり暮らしの72歳破天荒な父…訪ねた息子も言葉を失う「あまりに奇妙な生活実態」【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月7日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
高齢者の「自己破産」は意外と多く、自己破産した人の4分の1が高齢者というデータもあります。彼らはなぜ自己破産に至ったのか……。本記事では、山村さん(仮名)の事例とともに、ひとり暮らしとなった高齢親の資産管理についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
母の死、残された破天荒な父
山村総太さん(仮名/45歳)は、地方で自営業を営んでいます。総太さんには隣町に両親がいましたが、母が他界し、父の良一さん(仮名/72歳)だけが残されています。
良一さんは、若いころにロックバンドでドラムを担当しており、長年バーを経営して生計を立ててきました。生き方は破天荒で、総太さんが中学生のころにイジメに遭ったときには、授業中に学校まで乗り込んできたことがあります。酔っぱらうとこの「武勇伝」を大声で語りだす父のことが、総太さんは嫌いでした。
バーを経営しているのに自分ではお酒を作れず、お客さんと話をしたり、常連客と一緒に楽器を演奏したり、自由に楽しく暮らしていました。自宅でも自由奔放、亭主関白。母はそんな良一さんに文句もいわずにいたといいます。
総太さんは、そんな良一さんとはあまり関わりたくないと思っていました。しかし母の死後は、ひとりで暮らしている良一さんに対して心配な気持ちもあり、月に1回くらいは様子を見に行くようにしています。
親父はソツなく家事をこなしている…?
「親父一人きりで生活していけるのかな……?」心配をしていた総太さんでしたが、実家を訪れても家は片付いていて、冷蔵庫にはしっかりと食材があり、キッチンを覗いてみると調理した形跡もありました。
「どうやって生活してるんだろう……」実家に顔を出すたび、そんな疑問を抱いていた総太さん。とはいえ、目に見えて体調を崩しているような様子もない以上、わざわざ良一さんの生活事情に踏み込む必要はありません。「なんとか上手くやってるんだろう」と考え、あまり気に留めないようにしていました。
しかし、このときの判断が、後にまさかの事態を引き起こしてしまいます。
大量に届いた督促状
母の死から1年が経ったころ、総太さんが父の家を訪れると、ポストに大量のチラシが溜まっていることに気が付きました。
「こんなに溜めて……」とポストからチラシを取り出しました。なかはぎゅうぎゅうに詰まっており、無理やり引っ張り出すと、いくつかの書類が地面に落ちました。総太さんは拾い上げた封書の表題をみて、寒気がしました。それは、クレジットカードの督促状だったのです。焦ってほかの書類も確認してみると、住民税、電気代、携帯代の支払いなど、ありとあらゆる大量の督促状が届いていたのでした。
驚いた総太さんは、一体いままでどんな生活をしていたのかと、良一さんを問い詰めます。あっけらかんとしている父の答えはこうでした。
なんと良一さんの家には、30代~50代の複数の女性達が交代で訪れており、料理をしてもらったり家事をやってもらったりして、代わりに好きなものをご馳走し、一緒に食事を楽しみ、お酒を飲んでいたというのです。
若いころから女性にモテていた良一さん。その魅力は高齢になっても健在で、自身が経営するバーのお客さん達やお店のスタッフが、家事のできない良一さんを心配してきてくれているのです。
しかし、ほとんど毎日来てくれる女性達にご馳走しているものですから、そんなに贅沢なものを食べているわけではないにも関わらず、毎日の食費が5,000円以上になり、当然お金は足りなくなってしまいます。
もともとお店の経営もどんぶり勘定で、まったく数字を見ておらず実際の所得は不明、毎月6万円程度しかない年金でお店のお金も家計もごちゃ混ぜの自転車操業状態、それに加えて高額な食費が掛かってしまっていたため、資金が枯渇していただけでなく、消費者金融からも複数社から借り入れをしており、返済不能な状態だったのでした。
衝撃の事実に総太さんは言葉を失いました。
(ここまで考えなしだったとは……)
いくら責め立てても、父親は気にも留めていない様子です。結局その日は退散した総太さん。
結果、総太さんは、店の経営は知人の複数の飲食店を経営する社長に任せ、父には自己破産させることにしたのでした。
配偶者の死後に注意が必要なこと
妻が先立ち、家事ができない夫だけが残された場合、食事は総菜や外食が増えて食費が妻の生前よりも増えてしまうこともあります。さらに、妻が受け取っていた公的年金がなくなり、収入は減るのに支出が大きくなるようなケースはよくあることです。
本記事でご紹介した良一さんのケースはかなり特殊な事例ではありますが、寂しさから馴染みのスナックに頻繁に通うようになり、支出が増えてしまったという相談はよく聞きます。
当たり前のように誰しもわかっていそうなことですが、自分はどの程度お金を使っても大丈夫か、一生のスパンで考えて支出の上限をしっかり決めておくことが必要です。良一さんの年金額は月に8万円程度であったため、本来は貯蓄を計画的に取り崩しながら倹約して暮らさなければならない収入レベルのはずでした。
また、個人経営の店舗ではよくあることですが、個人のお金と事業のお金が一緒になってしまっていることも問題です。事業のお金は事業でしっかりお金の出入りや損益を可視化し、家計は家計で管理しないと収入も支出もわからなくなってしまいます。
売上が入り手元のお金が多くなると先の支出のことをあまりよく考えずについ使ってしまったり、家計の支出と事業の支出が同じクレジットカードで支払われ、大きな金額の請求が来て不安になってしまったりとといった場合もあります。事業を営んでいる場合には必ず事業のお金と個人のお金はしっかり分け、可能な限り毎月売上と経費の実績や、手元のお金が足りているかをチェックしていく必要があります。
意外と多い高齢者の自己破産
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、破産債務者の割合は60歳代で16.37%、70歳代以上で9.35%で、25.72%と全体の約4分の1を高齢者が占めています。
公的年金の受給額に対し、自分が望む生活をすると支出がどの程度になるのか、何歳まで働いて収入を得て、どの程度の資産をリタイアするまでに準備しなければならないのか、こういった資金計画がなく、行き当たりばったりでお金を使った結果このようなことになっていることが多くあります。
本記事でご紹介した総太さんの父のように、年齢を重ねても魅力的で、人に囲まれて自分らしく楽しく生きることができるのは素晴らしいことだと思います。しかし、それもお金がなければできなくなってしまいます。自分の生き方と、それを最大限実現するためのお金の管理、資金計画を考え、最大限自分らしく生きられるお金の使い方を考えていけるとよいですね。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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