2024年の米国大統領選挙:投資家への影響は?【フランクリン・テンプルトン・インスティテュートの見解】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月6日 7時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
2024年11月の米国大統領選挙に向けて、各候補者の主要な経済政策、次期大統領が2025年に直面する可能性のあるその他の主要な課題、そして投資家に与える幅広い影響について、フランクリン・テンプルトン・インスティテュートの見解をご紹介します。 ※本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が2024年9月13日に配信したレポートを転載したものです。
ポイント
・米国大統領選挙は、経済および投資ポートフォリオ全体にとって重大な影響を及ぼすと見なされることが多々あります。しかし歴史的に見ると、共和党または民主党政権が市場全体のパフォーマンスに影響を与えたことを示すエビデンスは見当たりませんでした。
・米国の政党間で異なるのは、特にエネルギーや製薬業界に影響を与える政策であり、この点はよく注視する必要があります。
・米国の選挙結果は、大統領だけでなく、上院および下院でどちらの党が多数派となるかも依然不透明であるため、投資家がポートフォリオを大幅に調整するのは時期尚早です。
選挙が投資家に与える影響
8月12日の週に、トランプ前大統領とハリス副大統領の両候補は自らの経済政策と優先課題を示す演説を行い、8月19日の週には民主党全国大会がシカゴで開催されました。しかし、ここで語られなかったことが、語られたことと同じくらい重要である可能性があります。
本稿では、各候補者の主要な経済政策、次期大統領が2025年に直面する可能性のあるその他の主要な課題、そして投資家に与える幅広い影響についてまとめています。
ハリス候補の経済政策
民主党全国大会が開催された週、ハリス氏のキャンペーンにメディアの注目が集まり、世論調査では、初夏にトランプ氏がリードしていた差をハリス氏が縮めていることが示されました。まずは、ハリス氏の経済政策について考察します。
最初に注目すべきは、ハリス氏は熟練の弁護士であり、元検察官、元上院議員、そして現職の米国副大統領であるということです。ハリス氏は、いずれの役職においても、経済に関する明確な実績や自身の見解を打ち出してきたわけではありません。そのため、ハリス候補が経済情勢やその課題をどう捉え、どのような政策で解決しようとしているのか、投資家はもちろん有権者は今まさに注目しているところです。これらのプロセスは、選挙に向けて進展し、彼女が大統領に当選した場合、移行期間から任期にかけて変化していく可能性があります。
したがって、「ハリス・エコノミクス」が第一に示唆するものは、投資家がハリス氏の優先事項を見極め、それが自身のポートフォリオにどのような影響を与えるかを理解するには時間がかかるということです。
とはいえ、党大会やその前週行った演説では、ハリス氏は彼女の対抗者と共通する戦術を採用しました。これは現在の多くの政治家が使う戦術でもあり、広範な経済イデオロギーを避け、特定の問題を解決するための実務的な提案に重きを置くというものです。
例えば、食料品価格の高騰に対しては「便乗値上げ」の取り締まりによって対処するとしています。住宅価格の高騰や、低所得者層や若い世代の家庭が手狭だが安価な住まいから、広く快適な住宅に段階的に住み替える「住宅すごろく」が不可能になっている問題については、対象者に頭金として最大2万5,000ドルの政府補助金を支給し、住宅建設の奨励策も講じるとしています。また、子育てコストの上昇に対処するため、子供が生まれた最初の年に6,000ドルの子ども税額控除を提案しています。また、ハリス氏はトランプ氏が公約したチップに課す連邦税の廃止にも賛同しています。
これらの提案はいずれも特定の有権者層をターゲットとしたものであり、純粋な経済哲学というよりも政治的な策略と見なされるかもしれません。しかし、候補者とその政策、所属政党がイデオロギー的な経済路線に沿って激しく対立していた時代は終わったことは注目に値します。両候補者も主要政党も、かつてとった政策を支持していません。例えば、かつて共和党は「自由市場」と「自由貿易」を支持すると期待されていたのに対し、民主党は「ケインズ主義者」とレッテルを貼られていました。これに代わり、昨今の経済政策は有権者層を狙った「取引のようなもの」であり、かつての大言壮語は影を潜めています。これまでのところ、カマラ・ハリス氏も同様です。
トランプ候補の経済政策
ハリス氏とは対照的に、トランプ氏は経済政策の実績があり、過去に数多くの演説や発言を行っているため、彼の政策はより広く知られており、ホワイトハウスに復帰した場合の計画もよく理解されています。また、トランプ氏が大統領に再選された場合、共和党が上院とおそらく下院も制する可能性が高く、トランプ氏は政策を実施する上でより大きな権限を持つことになる可能性が高くなります。
トランプ氏の1期目の看板政策は、「減税」(主に法人税減税)、化石燃料産業を中心とした「規制緩和」、そして「関税」でした。2024年の選挙キャンペーンでのこれまでの発言からは、これらの中核政策が2期目に実施されないと示唆するものは何もありません。
しかし、トランプ氏は、社会保障税の廃止や新たな関税の導入、不法移民の強制送還の拡大など、他の経済政策を検討する姿勢を示しています。また、不法移民の強制送還の強化とともに新たな一律関税を提案しています。トランプ氏の政策はコストを押し上げ、インフレを加速させる可能性がありますが、国内の生産、経済成長、賃金を押し上げる可能性もあります。
トランプ氏は自由貿易の推進など、共和党の伝統的な信条と決別して久しく、この点において、ハリス氏と同様、特定の政治目標や経済的成果を達成するための経済政策を展開しています。
2025年の市場の現実
もちろん、選挙キャンペーンは、公約やスローガンが中心であり、当選候補者の政策が実現する場合もあれば、ならない場合もあります。それは単なる政治ではなく、現実が政策に介入し、その方向性を変えることがよくあります。パンデミックや世界金融危機は、政策が予期せぬ課題に対応せざるを得なかった最近の例といえるでしょう。
また、候補者は、当選した場合に必然的に直面する問題についての発言は避けたいと考えるかもしれません。2025年の就任後に当選者が直面する最も重要な現実問題のひとつは、連邦政府の巨額な財政赤字(2023年対米国GDP比6.3%の1.7兆ドル)1、もうひとつは、2017年に可決された減税措置の期限切れです。
これまでの発言から、トランプ候補は2017年の税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act)の完全な延長を支持する可能性が高いようです。しかし、民主党が上院で多数派を維持した場合(可能性は低い)、あるいは下院で多数派を奪還した場合(可能性は高い)、トランプ氏はねじれ議会に直面する可能性があります。
ハリス氏が大統領に就任し、議会で多数派共和党の反対に直面した場合、立法で妥協点を見いださない限り、2017年のトランプ減税のほとんどは2025年末に失効することになります。しかし、いかなる妥協法案でも、ハリス氏は、年収40万ドル未満の個人に対しては現行の課税水準を維持し、法人税率を21%から28%に引き上げることを支持しているようです。
いずれの候補者も、中期的な財政赤字削減に向けた信頼に足る計画を提示する意向はないようです。
2025年に注目されるであろうもうひとつの問題は関税です。前述の通り、トランプ氏はほぼ全ての国からの輸入品に高関税を課すことを支持しています。ハリス氏はこの問題について沈黙していますが、バイデン-ハリス政権はトランプ氏が設定した関税を維持しています。
次期大統領の任期中には、反トラスト問題も浮上する可能性があります。すでに、米国司法省はグーグル(アルファベット)に対する反トラスト法訴訟で勝訴しています。また、両候補者および政党は、企業やビジネスリーダー、有力投資家からの政治献金に大きく依存していますが、物価の高騰や不正競争、労働組合の問題などに関するポピュリストの不満が高まっていることから、両候補者は反トラスト法や競争を強化するための法整備を推進する可能性があります。
最後に、気候変動政策とそれに関連した補助金、課税、規制などを通じた投資や支出への影響は、いずれの候補が勝利した場合にも検討課題となるでしょう。トランプ氏は、代替エネルギーや電気自動車の導入に対する補助金を含む、「インフレ抑制法」の多くの条項を廃止すると公約しています。一方、ハリス氏は、これらの政策を維持し、新たな取り組みを支持することはほぼ確実ですが、新たな気候変動政策がどのようなものになるかは、まだ明らかにされていません。
投資への影響
以上の議論から、米国大統領選は投資にまず2つの影響を及ぼすと予想しています。
第一に、ハリス氏が大統領選に出馬したことで選挙戦は激戦となったため、どのように投資すべきか選挙結果に基づいて判断するには時期尚早です。また、ハリス氏の出馬は民主党の「下院票」獲得を促す可能性があります。つまり、仮にトランプ氏が大統領に再選されたとしても、ねじれ議会に直面する可能性があるということです。共和党が大統領職と連邦議会の上下両院を独占する可能性が低下したのはほぼ確実と言えるでしょう。そのため、2025年にどのような政策が打ち出されるのかを予測することはより困難になっています。
第二に、選挙でどちらが勝利したとしても、抜本的な政策変更は起こりそうにありません。今回の大統領選は2つの対立する経済イデオロギー間の争いではありません。各候補者の提案は、焦点を絞った漸進的なものであり、例えば1980年代初頭にレーガン大統領と連邦準備制度理事会(FRB)のボルカー議長が登場したときのような大きな変化ではありません。しかし、特に業種レベルでは、他に重要な要素があります。
化石燃料および製薬業界は、トランプ政権下では規制が緩和され(化石燃料)、あるいは価格設定の自由度が拡大する(製薬)可能性があるため、トランプ政権を歓迎するでしょう。ハリス氏が大統領に就任すれば、住宅建設を奨励策で促進するという目標を表明していることから、再生可能エネルギーや住宅への支援が強化される可能性が高いと思われます。
最後に、選挙や政治が長期ポートフォリオのリターンにどのような意味を持つのか、全体の状況を考慮して理解することが重要です。言いかえると、選挙や政治はそれほど大きな意味を持ちません。米国およびグローバル株式市場は、ワシントンで共和党と民主党がそれぞれ政権を握っていた時代やねじれ議会が続いていた時代も繫栄してきた一方、どの政権も相場の反落や調整、弱気相場と無縁ではありませんでした。
もちろん、時には大統領の就任とともに歴史の流れが変わることもあります。レーガン大統領の就任時がこれに相当します。時には、クリントン大統領時代に財政赤字の解消、債券利回りの低下、力強い成長など、大統領が誰にとっても好ましい結果をもたらすこともあります。
しかし、さまざまな理由から、2024年はそうした節目にはならないようです。当社の予想では、選挙結果は有権者が関心を寄せる複数の問題の行方を左右する可能性がありますが、米国経済の状況や投資ポートフォリオの全体的なパフォーマンスに対する影響は限定的と思われます。
【脚注】1.出所:米国議会予算局(CBO)
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