もう疲れたよ…。仕事の重責に耐えかねた54歳エリートサラリーマンが「早期退職すれば3,000万円」の募集に飛びついた結果、半年で大後悔したワケ【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月11日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
業績不振などによって、割増退職金を提示して早期退職者を募集するケースは少なくありません。退職金が大きく上乗せになると聞いて、「このタイミングで辞めてしまおうか」と考えることもあるでしょう。しかし、後先考えずに早期退職をすると、その先に大きな後悔が待っているかもしれません。本記事では、早期退職に踏み切った年収1,200万円・元エリート会社員の木村武さん(54歳・仮名)を例に、早期退職で注意すべきポイントについて、南真理FPが解説します。
退職金3,000万円に貯金1,000万円、金銭的な不安はないと思ったが…
木村武さん(仮名、54歳)は、今年3月に大学を卒業してから30年以上勤めていた大手不動産会社を早期退職しました。元々、木村さんはバリバリの営業職で営業成績もトップクラス。優秀な成績が認められ、50歳のときに本社の営業部長に昇進し、年収も1,200万円ありました。
はたから見ればうらやましい限りのキャリアではあるものの、部長として各営業所の営業推進を任せられることは心身ともにプレッシャーも大きく、すっかり疲弊していました。
そんな状況のなか、昨年会社から業績不振のため早期退職の募集が告知されました。ここで辞めれば60歳時の退職金の予定額が2,000万円程度のところ、なんと1,000万円上乗せされて3,000万円支給されるとのこと。
これを見ると、木村さんの心はあっさりと早期退職に傾きました。
「子ども達も独立し、お金のかかる山場は越えた。この機会にしばらくゆっくりしてもいいんじゃないか。今なら退職金が3,000万円ももらえるし、貯蓄だって1,000万円ある。辞めてから先のことは考えればいい。4,000万円もあれば、うまくやれば年金受給まで働かなくても暮らしていけるんじゃないか?」
こうして木村さんは、早期退職の募集に飛びつく形で退職したのでした。
当初は十分な睡眠時間が取れて自由に散歩もできる日々に満足していた木村さん。しかし、それは最初だけでした。元々仕事一筋でプライベートを犠牲にしてきた木村さんに、趣味はありません。友人はもちろん現役で働いているので、木村さんと会う機会は限られています。
さらに、収入がないため通帳からどんどんお金が無くなっていくことに、言いようのない不安を感じ始めました。周囲は忙しそうにしているのに自分は暇。お金も減っていくという状況に、木村さんは大きなストレスを感じるようになったのです。
そして退職して約半年経った今になり、木村さんは「自分の選択は正しかったのだろうか」と、大きな不安を抱えるようになってしまいました。
そこで、木村さんは友人から紹介してもらったファイナンシャルプランナー(以下FP)にライフプランを相談することにしました。
今の生活を続けると60歳で貯蓄が底を突いてしまうという現実
木村さんの家計の収支は以下のようになります。
【相談者プロフィール】
夫 木村 武さん(54歳):元会社員。現在は無職
妻 木村 聡子さん(52歳):専業主婦
※子ども2人はすでに独立
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〈収入〉
現在はゼロ
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〈支出〉
年間の支出合計:年472万円
生活費(食費・日用品費・光熱費・通信費):年192万円(月16万円)
住宅ローン:年96万円(月8万円。残債470万円。5年で完済の予定)
住居費(維持費・固定資産税など):年16万円
保険料:年24万円(月2万円。医療保険・がん保険)
車両費:年34万円
娯楽費等(旅行代・夫婦小遣い・妻美容代・被服費):年110万円
このほか早期退職後の海外旅行(1回限り)100万円
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〈金融資産〉
金融資産合計:3,500万円
退職金:3,000万円(手取り2,822万円)
預貯金:660万円
※退職当初は1,000万円の貯蓄があったが、半年間で約340万円を支出
※これとは別に失業保険(雇用保険の基本手当)が受けられる(150日間、約130万円受給)
木村さんは、470万円残っているマイホームの住宅ローンをあと5年払い続けなければなりません。これについては、退職金で繰り上げ返済という選択肢もあります。
ランチは外食に出ることが多く、食費は営業マン時代と変わっていません。妻の美容代や被服費などの支出もかかっています。さらに、失業保険が約130万円入ることを見越し、今まで頑張って働いてきたのだからと妻と一緒に豪華海外旅行に出かけ、100万円近く費やしました。
退職金3,000万円には手をつけていませんが、預貯金はこの半年だけで340万円減り、660万円になってしまいました。FPによれば、無収入のままで、なおかつ今のままの支出が続くと、木村さんが60歳のときには預貯金が200万円を下回るとのこと。公的年金が入るまでに家計破綻に陥ってしまいます。
この結果に木村さんは現実を突きつけられ、「確かに仕事は辛かったが、退職金の上乗せにつられて退職してしまったことは大きな間違いだったのでは」と青ざめました。
早期退職をする場合におさえておくべきポイント(FPの助言)
では、早期退職するなら、木村さんはどうするべきだったのでしょうか。FPは木村さんに再就職活動のサポートや、お金の使い方に関するアドバイスを行い、将来設計の見直しを提案しました。
①そのままリタイアするのか再就職するのか、退職前に明確にしておく
木村さんのように勢いに任せて早期退職し、「その後のことは追々考える」というのは危険です。体調の問題などで絶対に辞めるしか選択肢がないのであれば別ですが、前述の通り金銭的な問題もありますし、努力して得たポジションは、一度辞めてしまえば二度と手に入りません。
50代で早期退職してそのまま完全リタイアを考えるのであれば、本当に家計に問題がないのか、より一層きちんと計算する必要があります。また、少し休んで再就職をするのであれば、その時期を決め、あらかじめ転職サイトに登録しておくなど、退職する前に準備をしておくことをおすすめします。
ちなみに、50代の転職事情はどうなっているのでしょうか。厚生労働省が公表している「令和5年 雇用動向の調査結果の概要」によると、50歳から54歳で男性5.6%・女性9%、55歳から59歳で男性6.6%・女性7.6%となっており、決して高くはありません。さらに就業形態は、一般労働者よりパート勤務が多くなっています。
その人の経歴などによって一概にはいえませんが、50代は20~30代の若手社員と比べて人件費が高くなり、体力的な面でも生産性が低いと思われる傾向にあります。一度会社を辞めてしまうと、どれだけキャリアがあっても年収が下がってしまうということもめずらしくはありません。
② 退職を決める前に、家計の収支をシミュレーションしておく
何事も事前準備をするに越したことはありません。まして、早期退職という大きな決断をするときには、家計の収入が大きく変わるため、家計の収支の把握はマストです。
お金は人生の目的ではありませんが、お金がなければ生活できないし、ライフイベントを実現することもできなくなってしまいます。あらかじめ収入がいくらあれば生活が成り立つのかをシミュレーションしたうえで、行動するほうが安心でしょう。
木村さんのように退職金が3,000万円。貯金も1,000万円あると、「これだけ資産があれば」と余裕を持ってしまうのも理解できます。しかし支出のペースが変わらなければ、手元のお金は驚くほど速く減っていきます。大きな金額に惑わされず、きちんと計算することが大切です。
当たり前の話ではありますが、収入がなくなる、もしくは、減るのであれば、その前に支出を見直すべきでしょう。一般的には、保険料や通信費といった毎月確実にかかる固定費から見直しをしていきます。
さらに、木村さんの場合には、外食を減らす、美容代や被服費を見直すなど、暮らしをコンパクトにする努力が必要になります。現在のままの生活では60歳で資金が尽きますが、見直しをすることでそれを先延ばしにすることも可能です。
③ 公的年金が入るまでは働くのが基本
木村さんは、早期退職するという選択をしました。しかし、特別な事情がない限りは、公的年金が入る65歳までは働き続けて収入を得るほうがいいでしょう。なぜなら、貯蓄の取り崩しを減らすことができ、老後の備えをより多く残しておくことができるからです。
投資をして増やせばいいと思われる方もいるかもしれませんが、余裕資金がなければ叶いませんし、必ず増えるという保証はどこにもありません。やはり毎月の収入があることは家計の安定はもちろん、精神的な安定にも繋がります。
仮に、木村さんが退職後、負担の少ない会社に再就職して年収300万円で働いたとすると、65歳までに得られる収入は手取り約2,400万円。一方、支出は約4,600万円です。差し引きすると、貯蓄の取り崩しは、約2,200万円となります。
54歳時の退職金とそれまでの貯蓄で約3,500万円ありますので、65歳時での貯蓄は約1,300万円となります。ここからも収入があることがどれだけ大切なことであるか、お分かりいただけるでしょう。
勢いで辞めるのはNG!早期退職
その後、木村さんは妻とも家計や老後の話をしました。そして再度FPに会いに行くと、こう話しました。
「心身ともに疲れていたので、仕事を辞めてかなり回復できたのは事実です。でも、退職金の上乗せにつられて辞めてしまうという決断は間違っていたと後悔しています。負担の少ないポジションに移れないか頼んでみるとか、ちゃんと考えるべきでした。それと、実は早期退職の申し出を会社にしたあと、次の就職先の斡旋があったんです。勤めていた会社の関連会社で、定時で帰れる仕事で年収は500万円という提示でした。でも年収も半分以下になるし、とにかく休みたかったので断ったんですよ。それも後悔しています……。でも私、営業スキルには自信があるんです。なので、気持ちを切り替えて再就職を頑張ります。給料が下がることは受け入れて、体に無理なくコツコツ働きたいですね」
本記事でご紹介した木村さんのケースでは、退職金を含む約4,000万円の貯蓄があることに安心し、会社員時代と変わらない生活を続けてしまうと60歳になるころには貯蓄が底を突いてしまうという現実が待っています。
仕事に疲れてしまったタイミングで退職金3,000万円という大金を提示されたら、それにつられてしまう気持ちは分からなくもありません。しかし、会社を辞めた後に何がしたいのか、家計の収支はどうなるのかなど、事前にきちんと考える必要があったのではないでしょうか。
「収入がなくなったり減ったりしても、生活費を下げればいい」と思われるかもしれませんが、それまで続けてきた生活習慣はなかなか変わらないものです。自分ならどのくらい生活費を下げられるか考えて、その収入で家計が成り立つのかをまず確認しましょう。働き方の選択は老後の明暗を分ける大きな決断ですので、後悔のないようにしたいですね。
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