正義の味方か、金儲けか…安定かつ高いリターンの〈訴訟ファンド〉に潜むリスク【投資のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月27日 7時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
本記事は、くにうみAI証券『厳選コラム・ニュース』より抜粋・再編集したものです。
訴訟ファンド、正義の味方か金儲けかー日本初の組成報道もー
米国の法律TVドラマ『グッド・ファイト』――。主人公の新人女性弁護士が法律事務所を舞台にさまざまな訴訟案件を巡って奮闘する番組で、日本でも放映されて人気を博した。
ドラマのなかで、成功報酬型の訴訟の際に資金が問題となり、訴訟投資家が登場するストーリーがある。訴訟投資家は、人工知能(AI)を駆使して勝率を分析し、訴訟に資金提供するかを判断する。訴訟大国の米国ならではの資金調達方法であり、訴訟が投資家の新たな投資先となっていることがドラマからも垣間見える。
訴訟ファンドは、訴訟当事者の片方(主に原告側)と契約を結んで訴訟費用に充てる資金を提供し、勝訴した場合に勝ち取った額からリターン(投資収益)を受け取る。敗訴の場合でも通常、投資元本は保険で保全される。
日本経済新聞は2024年2月11日、日本初の訴訟ファンドの資金調達を報じた。訴訟当事者に資金支援して勝訴後に収益の一部を得るファンド運営を目指すスタートアップ企業、トレイルブレイズアセットマネジメントが、グリー傘下のグリーベンチャーズなどから約9,000万円を調達したと伝えた。
訴訟の資金調達に訴訟ファンド活用
オルタナティブ投資に特化した海外資産運用会社は、訴訟ファンドに関して、費用のかかる訴訟・仲裁のための資金を第三者が提供し、当事者が訴訟費用を支払うことなく法的請求を追求できる新しい資金調達手段と説明し、比較的、安定した高いリターンを享受できる投資戦略に挙げた。
訴訟ファンドは、米国では昔からあり、訴訟で有望な流れを展開している法律事務所に、判決が出るまでの運転資金として提供するという仕組みだ。ただ、銀行が業績や財務諸表に基づいて訴訟の勝ち負けも見込んで資金を提供していたため、実際には銀行が企業に融資を行っているのとほぼ同じ構図だった。
しかし近年、民事訴訟の賠償額が非常に高額になり、現在の訴訟ファンドのスキームに至ったようだ。
米国で高額な訴訟費用がかかるワケ
米国などで驚くほど高額な賠償が加害企業に命じられることがあるのは、懲罰的損害賠償の制度を採用しているためだ。
日本でも有名な米国の懲罰的損害賠償の裁判例としてマクドナルド事件がある。
1992年にマクドナルドのドライブスルーで熱々のコーヒーを買い、車のなかで膝の上にカップを載せて飲もうとしたら、こぼしてしまい、火傷で皮膚移植手術の入院と2年間の通院をしたという事件だ。
裁判では、マクドナルドは填補賠償額16万ドル、懲罰的損害賠償額としてコーヒー売上高2日間分に相当する270万ドルの支払いを命じられる評決が下された。被害者側の窮状と加害者側大企業の不誠実な態度、莫大な収益が陪審員から批判・問題視され、当時の為替レートで約3億円に上る高額な賠償となった。
また近年では英国で、競争法違反などの理由でフェイスブック(メタ)に対して数十億ドルの集団訴訟が起こされている。欧州連合(EU)でも同様の動きが強まっている。
こうした流れのなかで、競争法の専門家は、訴訟ファンドを活用しているという。
問題は、訴訟ファンドのバックに誰がいるかということだ。フェイスブックを訴える訴訟の場合、ファンドの後ろにアップルやグーグルなど競合他社がいたらどうなるのか? 企業秘密を開示させるため、舞台裏でファンドが原告をけしかけるという状況を生む可能性もあるだろう。
金銭欲に引きずられて倫理観を失う危惧も
全米の弁護士が加盟する米国司法協会は、ホームページで訴訟ファンドへの警告を発している。ファンドによって金だけが目当ての不当訴訟が生まれ、社会コストを引き上げ、法曹界も金銭欲に引きずられて倫理観を失うと危惧しているようだ。
弁護士には、顧客情報の守秘義務がある。しかし、この制約をうまく潜り抜けるような契約を顧客と交わすことにより、具体的な秘密の裁判資料をファンドに提供する可能性がある。ファンド側も、資金を出すか出さないかの判断は資料に左右される場合があるからだ。
米国における訴訟ファンドに関する規制の見直しは、①透明性と規制の整備②利害関係者の意見を反映③リスク管理と適切な運用④競争と市場の健全性など――がポイントに挙げられている。
訴訟ファンドの透明性を高めるために規制の整備が進められており、投資家や訴訟当事者に対して、ファンドの運用方針やリスクを明確に説明することが求められ、運用が適切かを監視する機関も設置されている。
公聴会や意見募集などを通じて、幅広い利害関係者の声を取り入れており、訴訟ファンドが当事者の利益を最大化するため適切な戦略を採用しているかを評価する観点が重視される。
訴訟ファンド市場の競争を促進し、健全な市場の形成を目指して、競合他社との公正な競争環境を維持するために当局は慎重に対応している。
訴訟ファンド投資は「潜在リスク」に要注意
訴訟は時間とコストがかかる。法の下での平等はうたわれているが、大手企業と中小企業の争い、あるいは大手弁護士事務所と小規模な弁護士事務所が代理人となった場合、資金力が証拠集めや調査に影響するのは想像に難くない。訴訟に勝ち目があっても資金力で和解を選択する場合もあるだろう。
しかし訴訟ファンドを利用することにより、訴訟の費用を賄いつつ法的請求権を行使できる。企業は訴訟にかかる費用の不確実性をファンドに転嫁し、法的請求権の現金化を目指すことができるわけだ。
一方、訴訟ファンドは、訴訟に関するデータベースを活用して、訴訟の行方や勝率を予測することにより、投資効果の見極めを厳しく行い、高い精度で訴訟のコストと回収のタイミングを目指す。
もっとも訴訟ファンドが役割を果たすには、訴訟の当事者、訴訟投資家など利害関係者がウィンウィンの関係を構築できるのか、全体の調和・協調といったバランスが重要だ。
さらに流通市場で取引されず流動性が乏しいため、金融市場の動向が急変した場合でも、投資家が迅速に解約・償還を行うことが難しいなど、多様な潜在リスクにも注意が求められる。
訴訟ファンドの利用時に締結される契約は十分に吟味される必要がある。リターンは勝ち取った額の30~40%、またはかかった費用の3~4倍ともいわれ、高額に設定されることもある。
将来は、日本でも訴訟ファンドへの投資が普及し、こうした役割が認知される時代が来るのではないだろうか?
髙橋 文行
池田 祐美
くにうみAI証券株式会社
オルタナティブ・インベストメントプロダクト部
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