なんで? お金ないの?…動物園は年に1回“無料の日”だけ。手取り月収15万円「シングルマザー」の悲鳴【インタビュー】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月23日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
レジャーやスポーツ、音楽鑑賞など、子どもの成長に欠かせないさまざまな「体験」。しかし、子どもたち全員が享受できているものではありません。親の経済状況に大きく左右される「体験格差」の実態を、事例とともにみていきましょう。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事の今井悠介氏が解説します。
深刻な“ひとり親家庭”の子ども
ひとり親家庭の多くは、厳しい経済的な制約の中で暮らしている。その大半は仕事をしており、それに加えて子どもの生活の面倒を見たり、勉強の世話をしたりもしている。家庭の中に大人が一人しかいないことは、時間的にも、精神的にも大きな制約となる。十分な社会的サポートがない中で、子どもたちの「体験」にとっても、その影響は大きい。
体験は後回しに
小西尚子さん……長女(小学生)・長男(小学生)
小西尚子さんは1年契約の不安定な仕事で働きながら二人の子どもを育てている。普段は旅行に行くのも難しいが、今年の夏は他県に住む姉夫婦の家まで家族で泊まりに行った。
―お子さんたちと動物園や、海、旅行などに行かれることはありますか。
動物園は年に1回、無料の日があるので、その日に行ったりします。
旅行は行けていないですね。ただ、私の姉が他県に住んでるんですけど、今年の夏は私の両親がレンタカーを借りてくれて、子どもたちと一緒に乗せてもらって行きました。親は一泊で帰って、私たちはもう一泊したので、自分では帰りの電車代だけ払いました。
―お姉さんの家ではどんなことをしましたか。
庭でプールをしたり、スイカ割りをしたり。近くに、子どもたちが一日中遊べるような大きな公園があるので、そこにも行きました。姉の子どもと一緒に行って、みんなすごく楽しそうでしたね。
あとは、姉の家でゲームをやらせてもらって。自分の家にはゲームがないので。
―ゲームですか。
(Nintendo)Switchです。子どもたちは「Switchがほしい」とずっと言っていて。学校の友達は大体持ってるんです。一人1台ですね。小学校に上がるときに買ってあげる家が多いみたいです。
この前、息子の友達が家に遊びに来たんですけど、「Switch持ってる?」って聞かれて、息子が「持ってないよ」って言ったら、「なんで? お金ないの?」って言われたんです。もう、びっくりしました。
うちはYouTubeも見せていないんですけど、ゲームを持ってないとか、そういうことで子どもが孤立してしまうというのを最近本で読みました。話題にも追いつけないし、「あいつはゲーム持ってない」みたいに言われたり、ゲームでみんなで遊ぶときに呼ばれないとか。
確かにそれはあるなと思って、かわいそうだなと思いましたね。
―みんなが持っているものを自分だけが持っていないという。
私の姉が遠くに住んでいるので、自分の子どもとの普段の様子を動画で撮って、それを両親がタブレットで見れるようになっているんですね。両親は私の家の近くに住んでいるので、私の子どもたちも一緒に見せてもらったんですけど、プールのウォータースライダーで遊んでいるのを見て、「ずるい」って言ったんですよ。自分より年下のいとこがそういう経験をしているのを目の当たりにして。それを聞いた私の父が、「ウォータースライダーに行こう」って言って、連れていってくれました。
貧乏でしたが…小西さんが子どもだった頃の記憶
―子どもたちも比べてしまいますよね。小西さんが子どもだった頃は、ご両親が色々なところに連れていってくれるような感じでしたか。
私の父はすごい貧乏だったときも、年に1回、夏はキャンプ、冬はスキーとか温泉とかに連れてってくれましたね。そういうのは大事にしていて。なので、孫にもさせてあげたい。私もすごい楽しかったという記憶があります。昔の写真も残っています。
ただ、自分が子どもたちにしてあげるとなると、お金的にも、体力的にも、時間的にも、難しいですね。
―小西さんのご両親は近くに住んでいるんですね。
そうですね。子どもたちが遊びに行くこともあります。いつも家に3人でいるので、逃げ場というか、別の居場所も子どもにとっては必要かなと思います。でも、子どもたちには「あまり頻繁には行かないでね」って言ったりします。両親も疲れてしまうので。
安定しない経済状況に漠然とした不安感
―お仕事について聞いてもいいですか。
はい。離婚をしたあと、仕事を変えました。週4のパートで働いていたのを、正社員の事務に。週5の仕事で、週6のときもありました。そのときは結構しんどかったですね。収入は手取りで月約8万円から月約15万円まで増えました。ただ、最初からすごいパワハラを受けてしまってきつかったです。でも、仕事を辞めると子どもたちを保育園に預けられなくなってしまうので、しばらくがんばりました。
そのあとに就いたのが今の公務員系の仕事で、有期雇用契約のパートです。毎日朝から夕方まで、土日祝日は休みです。自分が倒れちゃうと何もかもうまく回らなくなるので、絶対にパワハラがなくて、子どもの行事や体調不良時になるべく迷惑をかけずに休める仕事がいいなと思って選びました。手取りで15万円ぐらいで、ボーナスもあります。
ただ、1年契約なので、そこが不安です。職場の人数もどんどん減ってきています。毎年、既存のメンバーと外から応募してきた人が一緒に集団面接を受けるんです。そこで受からないと次の年は続けられません。
忙しすぎて「節約」も考えられない
―面接も過酷ですし、契約も短期で不安定ですね。来年どうなるかもわからない。物価も上がっていますよね。
すごく高いですよね。例えば今日は牛乳がこんなに高いんだ、じゃあ買うのやめようって、買えるものがすごい少ない日もありますね。そういうことが続くと家に食べ物がなくなってしまって。
フードバンクみたいなものもたまに利用しています。子どもたちと一緒に行くんですけど、「友達に言ってもわからないから言わないようにね」って言ったりして。
ただ、今の仕事になって忙しくなってからは、毎日をこなすことが精一杯で、節約とかもあんまり考えられなくなってしまって。これはこっちの安いお店に買いに行ってとか、そういう体力がもう残っていなくて。少しは稼いでいるから、ちょっと高いなと思いつつ買ったりすることもあります。
仕事からの帰りで運転しているときに、道が混んでいるとイライラしてくるんです。子どもたちがおなか空いてるだろうなとかって考えて。早く帰らないとって。
仕事以外の“収入”もあるにはあるが…
―仕事の収入以外に行政からの手当などは受けていますか。
児童扶養手当があります。前は全部支給だったんですけど、今の仕事になってから一部支給になりました。
あとは児童手当で、「児童手当は全部進学のために貯金したほうがいい」と本で読んだので、貯金に回しています。本の情報ばっかりで……。ほかの家がどんな感じかわからないんですけど、ほかの家と同じくらいは貯めたいです。多分無理だけど……。
―そういった情報についてやりとりできる人は周りにいますか。親御さん同士でのやりとりなどがあるでしょうか。
そういう人は一人もいないんです。相手がどんな状況かわからないので、色々と聞いたら傷つけたり、つらい思いをさせたりとかもあるかなって思うと、あまり踏み込めなくて。だから、一番知りたいことは聞けないです。友達はほしいんですけど。でも……。
小西さんの切なる願い
お金のことを勉強できる機会があったらいいなと思います。漠然と不安だけが募っている感じなので。高校に入学するときに私立ならいくら必要、県立ならいくら必要というリアルな数字が知りたいです。どこを目指せばいいのかわからないまま、ずっと走り続けてる感じなんです。
子どもたちが進学するときにお金のせいで我慢するんじゃなくて、自分が行きたい学校に行けるようにって。その邪魔になりたくないので。県立に行ってもらえたらと思ってはいるんですけど……。
―事前に想定していたよりもっとお金がかかってしまうことへの不安でしょうか。
いや、もうちょっと少なくて済むんじゃないかなという気持ちもあって。こんなに必死になってやらなくていいのかどうなのかがわからないんです。
こんなにキツキツにしなくていいのか、それともこれくらいはがんばらないといけないのか。それがわからないのにがんばるっていうのがしんどいですね。もし今節約しすぎていて、それで子どもにも迷惑がかかっているとしたら改善したいです。
有期雇用で不安定ですし、養育費も最近振り込まれなくなってしまったので、お金は貯めれるだけ貯めようみたいな感じになっています。
今は「体験」より「勉強」が優先に
―子どもたちにさせてあげられていないなと感じることはありますか。
上の子は「こどもちゃれんじをやりたいな」と言っていました。まだ離婚する前に一度やっていたことがあって、それでもう一回やりたいって。でも、払うのが大変ということもあるし、続くかもわからないからと言って、ちょっとやめておこうと。
今は私と一緒に勉強しようと言って、本人も納得してくれてる感じです。でも、相手のことを考える優しい子なので、私を困らせないようにと思って言っていないだけかもしれませんね。本当はいろんな思いがあっても。
学年が上がって、だんだん問題が難しくなってきて、算数でも漢字でも、テストでうっかりミスが出たり、授業だけではまったくわからないことも増えてきているんですね。今はまだ小学生なので、私が自分で教えられる範囲ではあるかなと思って、仕事の昼休憩の時間に本を読んで、勉強の教え方を学んだりしています。
弟は「バスケがやりたい」と言ってましたね。クラスで仲のいい子がバスケをやっていて。あと「スラムダンク」を見てかっこいい、やりたいって。バスケのクラブは週に2回、平日の夜に学校の体育館でやっているみたいなんですね。体力が余ってる感じもするので、やらせてあげたいんですけど、経済的な理由と、時間的な問題でできていなくて。
―お金以外の理由もあるんですね。
4時半に仕事が終わって、スーパーで買い物をしたりして、5時半ぐらいに家に帰ってきて、急いでご飯をつくって食べさせて、練習に連れていって、2時間ぐらいしたらまた迎えに行って、お風呂に入れて……、とやっていると、ちょっと私の体がもたないなと思っています。
親が二人いたら、色々と手分けできるんですけど、一人だとそれができない。全部自分でしなきゃいけないので。
だから、下の子はウズウズしていると思うんですけど、「バスケはちょっと待って」と言っています。もうちょっと大きくなって、次の日の学校の準備とか、自分のことがしっかりできるようになってから、それでもやりたいと言ったらやらせてあげようと思って。
お店で売ってたバスケの小さいゴールを買って、家の壁に取り付けてあげました。今は毎日それで遊んでいます。
―職場から帰ってきても、家でもずっと別の仕事が続きますよね。学校が終わった後、小西さんが家に帰ってくるまでの間は、子どもたちはどうされていますか。
学校が終わったらそのままほかの子たちと学童に行っています。でも、上の子は今年から定員オーバーで学童に入れなかったんです。同じ家庭の子どもでも、大きい子のほうが保育が必要な度合いが低いということで点数が低くて。だから、家で待っている感じです。
―お金の優先順位として、子どもの体験にかかるお金と、子どもの勉強や進学にかかるお金とを比べるとどうでしょうか。
やっぱり勉強にかけたほうがいいなと思います。体験のほうは、無料で参加できるイベントに応募している感じです。色々なことを体験するって、子どもの成長にとってはすごく大事なことですよね。でも、今はそれが後回しになってしまっているかもしれません。
今井 悠介 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 代表理事
※インタビュイーのプライバシーに配慮して名前は仮名とし、一部の情報に加工を施している。
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