朝9時「税務調査だ!」…本社と倉庫に抜き打ち同時臨場。「2台目のポルシェ」を経費計上した30代・ジンギスカン店社長、袋叩きの末路【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月8日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
いつくるか、いつくるか、と税務調査にヒヤヒヤとしている経営者や個人事業主の人もいるでしょう。基本的に税務調査には事前告知があります。しかしなかには、抜き打ちで入られるケースも。それほど悪質性が高いとみなされる理由とは……。本記事では、ジンギスカンを提供する飲食店に入った税務調査の実例から、税理士の清川英哲氏が税務署が厳しく目を光らせる「経費」について解説します。
そこそこ成功させたジンギスカンを提供する飲食店
筆者はもともと消費者金融に勤めていました。現在は、公認会計士・税理士・証券アナリスト・宅建士・ファイナンシャルプランナーとして活動しています。
ここでは、筆者の税理士としての活動で目の当たりにした「税務調査」についてお話します。これまでに法人・個人併せ20回ほど担当した税務調査の経験のなかで、特に印象深かった実例を紹介します。
読者の皆さんのなかには、多くの会社の役員や経営者、個人事業主がいらっしゃると思います。自分の会社にもいつかは税務調査が入ると思っている人は多いでしょう。なかにはすでに税務調査の経験があるという人もいるかもしれません。
とはいえ、5回も6回も税務調査を経験した経営者はそういないでしょう。また、税務調査を経験したとしても、大体が税理士任せで、細かいことまではあまりご存じない経営者がほとんどではないでしょうか。
では、設立5年で初めて税務調査が入った30代の男性が経営するジンギスカン屋さんの事例をもとに、どんなところを税務署が見ているのか、解説していきたいと思います。筆者が独立する前に担当した前任から引き継いだ案件で、引き継ぎ直後に税務調査に入られました。
今回は、悪質性が高いとみなされ、会社の本社と倉庫を同時に、それも抜き打ちで朝9時に乗り込まれたケースです。税務調査は、基本的に顧問税理士へ事前に電話で知らされるものです。今回は、それだけ悪質性が高いと税務署にみなされていたため、抜き打ち調査となってしまったケースですので、普通の経営者であれば「税務調査が突然やってくるかもしれない」と、そこまで怯える必要はないでしょう。
とにかく税金を払いたくない経営者
筆者は、「税金をたくさん払って、社会に貢献する」といった崇高な考えを持つ経営者にこれまで1人たりともあったことがありません。多くの経営者は、「自分の会社を黒字にして、自分や自分の家族で贅沢したい」そんな気持ちで経営をしているでしょう。
しかし、黒字にすればするほど税金を取られます。もちろんそれも嫌でしょう。では、どうするか。やはり、
1.実際の売上を低く見せる
2.私的な支出をいかに経費に計上して、税金を安く済ませる
はっきりいってこの2点しかありません。そして、税務調査の主眼も売上を隠していないか、本来経費にならないものが経費になっていないかを見てきます。
売上を隠すのは非常に困難
「売上を隠す」「経費を膨らませる」……この2つであれば、圧倒的に売上を隠すほうが難しいです。先日バラエティ番組で、国税局がどのように会社の売上隠しを見破ったか、ドラマでの再現を見ました。やはり、手口が幼稚といわざるを得ません。
飲食店で現金商売をしている場合、現金を抜くのが王道でしょう。しかし、最近はカード払いや2次元バーコードを用いたキャッシュレス決済が盛んとなりましたので、現金の授受は減ってきています。また、単純に売り上げた現金を抜くといっても、食材の仕入れ金額との関係を計算すれば売上原価率が異常に高くなり、すぐにバレます。ちなみに、その番組で紹介された手口は、レジから出てくる「ジャーナル」という売上を管理する紙を抜いていたというものでした。
税理士の立場で見ていましたが、売上を管理できる店舗の役職者全員に犯罪まがいのことをさせる面倒も考えると、非現実的な手口だと思いました。あくまでもテレビ番組ですが。
税務調査は売上も見るが、やはり「経費」を見る時間が長い
さて、今回のジンギスカン屋さんですが、意外にしっかり見られたのは2点でした。まず1つ目が、架空の給与です。
現在の中小の株式会社は「株主=取締役=代表取締役」という形態が非常に多いです。つまり、オーナー社長1人でなんでも決められる会社が大半なのです。ただ、社長のほかに取締役が数人いて、しっかり会社の統制が利いているかというと、ほぼありえません。取締役と言っても、ほとんどが身内であるケースなどが存在しますから。そのような、形ばかりに取締役や従業員に税金がかからない範囲で給料を払うことは結構あります。
税務署はどのような調査をするのか?
まずは、給与台帳を見て、社長と同性およびその配偶者の旧姓と同じ者をピックアップします。
飲食業の場合、正社員にアルバイト、しかも数店舗経営していたら従業員が100人を平気で超えてきます。そうであっても、間違いなく給与台帳は見てきます。該当者がいた場合、経営者との関係性や勤務実態を聞かれるのはもちろん、今回のケースでは「その人を呼んできてくれ」とまで要求されました。
勤務実態がないにも関わらず、身内全員に税金のかからない程度の給料が払われていたケースもあります。給料も、毎月発生し何人かいれば大きな金額にもなりますので、税務署は厳しくチェックし、見逃しません。
一発否認となる「家族旅行」
次に2つ目が、家族旅行。「家族」というより、取締役に入っている方とその家族全員で行った旅行も慰安旅行として経費に計上している経営者もよく見られます。もちろん税務調査では簡単に見つかって一発否認です。
というのも、旅行の領収書は、行った場所はもちろん人数まで書かれています。となると、完全に取締役の人数と合いませんので、身内だけで行った家族旅行だと判断されます。「せめて取締役の分だけでも慰安旅行として経費計上は認められるのでは?」という考え方もあるかもしれません。しかし、これも完全にアウトです。
旅行に行くなら、従業員全員が行くレベルでないと「旅行」が経費になることはないと思ってください。むしろ、仕事用だといって買った、高級車や高級ブランド品のほうが、まだ見られ方は緩いなとも感じます。
そのほか、こんなものも否認されている…
ジンギスカン屋さんの事例では、以下のようなものも否認されました。
1.収入印紙
印紙は領収書を頻繁に発行する飲食業でしかあまりかかわりがないかもしれません。印紙の貼り忘れなんて、領収書はすでにお客に渡しているので現物がない以上、どうやって貼り忘れを断定できるのでしょう。
ちなみに、印紙は5万円以上の領収書に貼る必要があります。この場合、税務署は、1回につき5万円以上の売上をピックアップして、購入した印紙の枚数との整合性をチェックします。本来あるべき印紙の購入金額と、実際の印紙に購入金額を比較し、足りていない部分が印紙税法違反の金額になります。領収書はすでにお客に渡しているからと、収入印紙についてずぼらな飲食店の経営者は気を付けたほうがいいです。
2.2台目の高級車
これも常識で考えればわかると思います。仮に、会社名義で購入したとしても、事業用でない要素があれば簡単に否認されます。下手をしたら、役員への報酬だと判定されて、役員本人に給与課税がされる可能性もあります。今回の経営者は、2台目としてポルシェを経費計上していました。
3.役員への貸付金
これもよく見られます。会社から役員へお金を貸し付けること自体は、取引上ありえます。ただ、貸したまま数年間まったく返ってきている様子がないと、役員への報酬とみなされる可能性もあります。仮に報酬とみなされた場合、役員本人にも給与課税がされますため、二重に痛いです。会社から本人にお金を移動することはありえますが、イコール返さなくてもいいというわけではありません。いつかは会社に戻さなければならないお金だということを常に頭へ入れておいてください。
以上のように、税務調査が入ったときに、この辺は確実に見られる経費をいくつか挙げてみました。常識から考えて、これは経費にするのはどうかと思うものを経費計上した場合、税務調査では確実に指摘されると思っておきましょう。
もちろん、経費が否認されるかどうかは税務署の判断になります。ただ、探られてヒヤヒヤしたくないのであれば、あらかじめ経費にはしないでおくのが無難です。税務調査を経験したことない経営者や飲食業をされている方は、ぜひご参考になさってください。
清川 英哲
株式会社アートリエールコンサルティング
税理士/公認会計士/証券アナリスト/CFP/宅地建物取引士
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