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なぜ介護報酬不正請求などの「コンプラ違反」は絶えず起きるのか?ビジネスマン・エッセンシャルワーカー・正義の人、介護業界参入3パターンから見えてくる理由

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月16日 10時45分

なぜ介護報酬不正請求などの「コンプラ違反」は絶えず起きるのか?ビジネスマン・エッセンシャルワーカー・正義の人、介護業界参入3パターンから見えてくる理由

(※写真はイメージです/PIXTA)

昨今、介護報酬不正請求等のコンプライアンス違反(コンプラ違反)により行政処分を受け、指定取り消しや効力停止に至る介護施設・事業所が後を絶ちません。なぜこのようなことが起きるのか、そしてコンプラ違反を起こさないためにはどうすればよいのか。高浜敏之氏(株式会社土屋 代表)が解説します。

介護業界で起こっているコンプラ違反とそのカタチ

昨今、介護報酬不正請求等のコンプライアンス違反(コンプラ違反)により行政処分を受け、指定取り消しや効力停止に至る介護施設・事業所が後を絶ちません。何故このようなことが起きるのか、そしてコンプラ違反を起こさないためにはどうすればよいのか。この問題は、介護業界全体が「明日はわが身」と思って取り組まなければならないものです。

介護経営者は、国から介護報酬を得ている以上、コンプライアンスを厳しく遵守しなければなりませんが、同時に経営も成り立たせなければならず、その過程で多くのコンプラ違反が起きているのが現状です。

最近では、食費の過剰請求により大手介護会社Mグループが指定取り消し処分を受け、訪問介護最大手だったC社による介護報酬不正請求事件(2007年)もいまだ記憶に新しい中で、双方に共通するのは法令遵守とビジネスにおける「バランス感覚の欠如」といっても過言ではありません。

収益性に特化するあまりコンプラ違反を犯し、あるいは法令遵守に集中しすぎることで報酬改定等で倒産してしまう。右でも左でもない第三の道をどう見つけるか、これは業界全体で考えていかなければならない課題であり、そうでなければ第二・第三のMグループが生まれてしまいます。

この問題を考える上で、まず認識すべきは「コンプラ違反に至る要因」であり、そこには経営者の特性が大きく関与していると思われます。長年、業界を見続けている中で、経営およびマネジメントを主眼として介護業界に参加する方には、大別すると3つのパターンがあるように思えます。

1つ目は、ビジネスとして介護業界に興味を持ち、参入する“ビジネスマン”。2つ目は、もともとケアの仕事をしていて、「利用者さんに感謝されるのが好き」といった素朴な思いで現場を担ってきた人が、自分なりの介護の形を実現しようと起業する“エッセンシャルワーカー”。3つ目が、社会活動家として、社会変革を志向する“正義の人”です。

こうしたそれぞれ入り口、すなわち「どのような動機でこの業界に入ったのか」が、それぞれのコンプラ違反のカタチ、言うなれば運命を決めているようなところがあります。

ビジネスマンがコンプラ違反をする理由

ビジネスチャンスを介護業界に発見して参加した経営者たち―2000年初頭ではC社、そしてMグループがこれに当たると思います―は、言うなれば「儲かるから」という理由で業界に参入したと見受けられます。

少子高齢化時代において、ほとんどの市場が右肩下がりで、マーケット自体がシュリンクしていく中で、この時代においてもなおかつマーケットが拡大しているのが介護業界であり、ビジネスに対する感度の高い人の参入は当然の事象でもあります。

ビジネスにおいて「儲かる」というのは非常に大切なことではありますが、問題なのは、経営の優先軸が「儲かる=善」になった場合です。一般的に、儲けたい理由として、より質の高い消費をしたいなどの「欲望」があるわけですが、彼らにとっては儲かる・儲からないというのが「欲望」の基準ではなく、「善悪」の基準となっている。儲かる=善、儲からない=悪という具合にです。

そうすると、通常は欲望と善悪の葛藤の中で、ルールに基づいて判断が行われ、欲望を制御してバランスをとるところが、儲かることが「善」になった途端、その葛藤自体がなくなってしまい、バランスを制御する原理が機能しなくなります。

すなわち、法令の観点から見て「アウト」でも、これをすれば儲かるという事があった場合、「アウトだからやめよう」とはならず、「アウトと言われても、こっちのほうが正しい」と、やすやすと法を超えていく。むしろ法は、「ルールだから守らなければいけないもの」ではなく、邪魔なものであり、破ってもごまかせばいい、ばれなければいいという発想になってしまいます。

確かに利益が出ると会社が潤い、会社が潤うと会社は安定し、会社が安定すると倒産せず、従業員の雇用が維持できます。企業経営においては、そうした面が確かにあるので、全て否定できる話ではないと思いますが、儲けることを優先順位のトップに上げている経営者は、それを邪魔するものは全て敵であり、障害物であるという捉え方をしてしまう。

これを私は、この業界で目の当たりにしてきましたが、C社やMグループの社長もそういうところが少なからずあったと思います。儲けることに憑りつかれているわけです。欲望を充足させるために稼ぐのではなく、稼ぐことそのものが正義であるという、まさにマルクスの言う「貨幣フェティシズム」がそこにあります。貨幣を従物崇拝し、貨幣そのものが目的になっているところに、ビジネスを動機とした経営者によるコンプラ違反が生み出されると考えます。

エッセンシャルワーカーがコンプラ違反をする理由

現場に長らく携わってきたエッセンシャルワーカーもコンプラ違反をする率は高いですが、理由はビジネスマンとはまったく違います。というのも、コンプライアンス=法令ですが、それを知るためには行政文書を読む、あるいはそれについて教えてもらうなど学習しなければなりません。つまり、ここには情報をインプットし、それをアウトプットするという知識労働があります。

それこそが学校教育でなされるべきことですが、エッセンシャルワーカーから起業した方の多くが、勉強があまり好きではないので、この業界を選んだとの印象があります。勉強しなくても良い仕事、すなわち身体を使う仕事です。

つまり、情報をインプットするのが得意ではなく、心や身体を使うことが好きな中で、経営者になった途端、行政文書を読む羽目に陥り、そこに書いてある文章の意味自体が分からなかったりするわけです。そして最悪の場合、法令を知らないまま経営をしてしまう。

行政の指定申請書ですら、Excelが使えずにお手上げという経営者もいる中で、知識労働に慣れていない人が複雑な行政文書を理解するのはかなり厳しいことは確かです。でも、彼らの多くが心優しく、「利用者さんのために」という思いで経営している中で、知らない間にコンプラ違反を犯してしまい、それをどうしていいかもわからず処分されているのはよくあるケースです。

正義の人がコンプラ違反をする理由

障害福祉制度や介護保険制度は元来、社会的公正を求めるムーブメントの延長として制度化されたもので、社会活動家や、社会変革を志向する人たちがこの業界を選んだというパターンがあります。そして、彼らの基本的な価値観の中には「行政=悪」というのがあるわけです。どう考えてもおかしいことではありますが、これは長年にわたる双方のぶつかり合いに起因しています。

つまり、行政が税金をしかるべきところに分配する役割を持つのに対し、社会活動家は何かしらの社会課題に対して新たに予算の分配を求めますが、予算がすでに決まっている場合、分配することはできません。ここから双方の飽くなきぶつかり合いが始まるわけですが、その繰り返しの中で行政が新たな予算配分を決定したりと、社会的な公正が生まれてきます。重度訪問介護しかり、女性団体の強い意見によって生まれた介護保険制度もしかりです。

介護保険制度そのものは、介護が仕事になると女性が家事労働から解放されて外で働けるようになるという、男女共同参画を求めて女性団体が要求し、制度化されたものですが、一方で、この仕事そのものが、女性が社会的に活躍するチャンスにもなり得るというような、いわゆる運動の中で生まれた側面があります。

つまり、この障害福祉と高齢福祉分野は正義の人たちが行政と闘いながら作った仕事であり、さんざんぶつかり合ってきたわけで、彼らには行政=悪という視点があります。そうした正義の人が経営者となった時、コンプライアンスの遵守は行政からルールを課されることと同一です。

すると、「行政は現場のことをまったく分かっていない。だから行政の言うことなど一切聞く必要はない」という感覚になり、確信犯的にコンプライアンスを破っていきます。

相手が悪いわけだから、悪いことをしている感覚もありません。ただし、社会正義があるから様々な福祉制度が生まれたことをみても、正義はもう一方において社会を良くしていくための一つの判断軸にもなり得ます。つまり正義というのはもろ刃の刃で、良いか悪いかではなく、毒と薬という両義性を持つ、まさにドラッグであり、1歩間違えると非常に危険な存在です。

中には法を破壊するような機能があるので、社会正義が過剰になりすぎるとコンプラに対して鈍感になり、コンプラ違反のきっかけともなり、それがコンプラ違反の文化を醸成していくわけです。

もっとも、コンプライアンス至上主義者から何か新しいクリエイティブなものが生まれた試しはないので、正義の人の両義性というのはあるとは思いますが、バランスが大事だと感じます。

いかにしてコンプラ違反をなくせるか

三者三様の特性によって起こるコンプラ違反ですが、はっきりしていることは介護業界において事業者は「行政の下請け」ということです。かつて行政が行っていたことを代行するようになり、その対価として給付金をもらって運営しています。自分たちで稼いでいるわけではありません。

多くの市場において、親会社に嫌われた下請け業者が消えていくのと同様に、行政は我々をつぶすことができます。ですから、この仕事に携わる経営者は、たとえそれがビジネスが動機だったとしても、エッセンシャルワーカー出身だったとしても、社会正義を追求する人だとしても、コンプラ遵守は非常に重要です。

会社経営と同じですね。経営陣と従業員、経営陣と株主との関係がある中で、日々仕事をしていると、自分に給料を払っている人が経営者であることや、自分自身の生殺与奪権を株主が握っていることを忘れてしまいます。そして一生懸命仕事をしているうちに経営者の意に沿わない所にどんどん逸脱していき、ある一線を越えてしまった時には、突然ぷつっと切られてしまったりするわけです。これが、コンプラ違反をする事業者と行政の関係に似ていると思います。

つまり、事業者は介護業界の構造を自覚し、自分たちの置かれている構造を時折思い出すことが必要です。我々はコンプラ違反をしたら経営が続けられなくなる構造になっている。事業を行っているうちに、バックに行政がいることを忘れてしまいますが、自分たちに給付金、あるいは給料を払っているのは誰なのか。そして、その人たちはどういうルールを自分に課しているのか、それを思い出す必要があると思っています。

とはいえ、法は可変的なものでもあるので、法を守っておけばそれで済むということではありません。法は守るべきものでもありつつ、変革すべきものでもあるという中で、変革するというときに、何を根拠に法を変えるのかが大事なポイントになります。そこに、我々のできることもあります。

法は神様から降りてきたものではなく、国会議員が議論して立法府が決めることですから、立法府の人たちに、「この法はおかしい。現場の実態に合っていない」というのを多くの人が伝えることにより、その法自体がなくなったり、形が変わったりする可能性があるわけです。なので、業界団体や経営者、リーダーシップを取る人は、そういった役割も同時に有しているということは、法令遵守がいかに大事かということを大前提とした上で、忘れてはいけないと考えます。

高浜 敏之

株式会社土屋 代表取締役 兼CEO

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系べンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。

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