年収880万円の42歳・大企業サラリーマン、コロナ禍を機に「腐った組織」へ見切り。転職も…「健康保険証」を見て驚愕したワケ【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月15日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
人手不足の昨今、転職市場は求人数を伸ばしているようです。以前は、年齢が上がるにつれ、転職の難易度は増すといわれていましたが、ミドル世代であっても、経験豊富で即戦力となり得る可能性があることから、条件よく転職できている人もいます。ただ、転職前と後で、さまざまなシチュエーションで変化を感じることがあるようで……。本記事では、矢島さん(仮名)の事例とともに、長年勤めた会社からの転職における注意点について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
コロナを機に仕事に疑問を持った大手企業サラリーマン
現在、44歳の矢島さん(仮名)は、私立大学を卒業後、従業員1,000人以上の都内大手企業に就職をしました。入社当時から真面目に働き、順調に仕事を熟していました。大きな案件を任されるなど、自信もついてきた30代のころには、結婚をして2児の父となりました。
40代に差し掛かったころ、新型コロナウィルスの感染が世界中に拡大し、働き方が変化した企業も増え、大多数の企業に合わせるかたちで矢島さんの会社でもリモートワーク体制が整えられました。これにより、矢島さんも会社員人生20年で初めて「出社せずに働く」というスタイルを体験することに。最初は不安を感じていたリモートワークでしたが、徐々に慣れていき、わざわざ満員電車に毎朝揺られながら出社しなくても、仕事は自宅に居ながらでもできることを実感しました。さらに、出社していたころよりも、時間にゆとりが出てきたため、家族とともに夕食の時間を過ごせる幸せを噛みしめました。
そんなタイミングで、インターネットを見ていると、「自分にはもっとやりがいのある仕事がほかにもあるのではないか」と思い始めた矢島さん。コロナの感染拡大も落ち着いてきて、以前のように出社を前提とした勤務を命じられると、また家族と過ごす時間や自分自身の時間が少なくなってきてしまいました。また、承認のためだけのハンコ業務や、新型コロナウイルスの流行を機に多少なりとも進んだ業務のデジタル化を上層部が戻そうという動きをするなど、気になることが増えていきます。
コロナ禍前にマイホームを購入し、毎月8万円のローンがあります。転職になかなか踏ん切りがつかなかったのですが、リモートワークからコロナ禍前の働き方に戻ったことが、転職へのきっかけに。この時点で、42歳。月収は56万円で、これにボーナスが加わり、年収は880万円ほどでした。転職が当たり前の時代となったこともあり、大企業の肩書があるし、現職でそこそこ責任のある立場を任されている自信から、自分は大丈夫だと思いました。
「大手→中小」への転職…収入減以外に隠された落とし穴
矢島さんは、収入が変わらず、自身のキャリアと適正に合うと思われる企業に転職しました。しかし、転職して1週間、すぐに違和感を覚えます。どうしても新しい職場が合わなかったのです。ある日の朝、会社へ向かう電車の中で激しい頭痛とめまい、吐き気に襲われ、欠勤をしてしまいました。入社後、半年経てばリモート勤務が許される企業でしたが、結局それを待たずして、入社4ヵ月で次の転職先を見つけられないまま退職をする決断に。
その後、仕事がなかなか見つからずに、失業給付の待機期間である2ヵ月を超えて、失業手当が給付されることになりました。日額7,845円が最長で120日受け取れます。幸い失業手当の給付期間中に、ほどなくして転職先が見つかり、ほっと安堵しました。
転職先は、前々職の1,000人以上の大手企業や、4ヵ月在籍した前職と比べると規模が小さくなりますが、300人以上の従業員がいる企業です。仕事内容にもやりがいを感じ、入社時には給与が減るものの、入社前に今後のキャリアによるモデルケースの給与アップの話をされていたため、問題には思いませんでした。前職でツラい時期を支えてくれた妻への感謝の思いから、家族のことをより一層大切に感じ、リモートワークによって仕事以外の時間を増やせることも期待できそうだったため、矢島さんは期待に満ちていました。
転職後、初めてもらった給与は、月収35万円。今後も増えるだろうと考えていたものの、やはり以前のような待遇と違い、理想どおりの昇給はありません。それ以上にボーナスに大きな違いがあり、前々職では年間で200万円のボーナスが出ていましたが、転職先では年間で100万円と半分に。
また、財布にじわじわと響いたのは福利厚生の面です。健康保険証を見て驚いたことがありました。以前は「東京都情報サービス産業健康保険組合」だったのが「全国健康保険協会」に変わっていたのです。以前までは、いろいろな施設やサービスの利用に割引があったり、医療費も一定額以上は会社が負担してくれたりといった制度がありました。前職での激しいストレスを機に通院をしていた矢島さんには、医療費の毎月の負担が重荷に。これまでは収入も多かったのですが、支出も実は少なくなっていたことを転職して初めて実感したようです。
「古い体質が変わらない前々職には文句ばかり言っていましたけれど、こんなに守られていたとは……」矢島さんは複雑な表情を浮かべます。
すぐに収入を増やせないときは…
転職前は、自分の自由になるお金も多くあったので、欲しいと思っていたものはある程度買えていました。しかし、転職してからは、収入は減るも、支出は増え、欲しいものを我慢し、安いものを選んで買うようになったそうです。大手企業の福利厚生の手厚さは、普段実感しづらいところでも効いているのです。特に新卒から勤めている場合、環境が当たり前となり過ぎていて、ミドル世代となっても外の世界を知らない人も少なくありません。
転職して、家族との時間が増えたことや、やりがいのある仕事だったことには満足できました。しかし、就職活動中に貯蓄を崩していたことや、収入減と支出増で思うように貯蓄もできなくなり、現在は将来、特に老後への不安を感じるようになったのです。今回、筆者からは、
・生活費
・携帯電話料金
・住宅ローン
・生命保険
の見直しなど、現在の家計を点検して、支出を抑えられるものは抑え、将来の貯蓄ができるようにアドバイスを行いました。また、夫婦の老後のための貯蓄も、1社目で定年まで勤めた場合の定年退職金に比べ、現在の職場は少なくなります。そのため、企業型確定拠出年金の資産配分の見直しを行い、株式の比率を高めた運用で、大きく増やすことを考えた運用に変更しました。また、妻にもiDeCoに加入してもらい、夫婦で老後の資金を増やすことを考えていくことになりました。
子どもの教育費も、前々職では職場の積立をしていましたが、NISAで積み立てを行いながら、万が一のときには、NISAの拠出が継続できるよう、矢島さんを契約者・被保険者にした収入保障保険に加入することを助言。生命保険は、貯蓄性の保険や必要以上に保障が厚くなっているものを見直しし、社会保険をベースにして不足部分に応じて、見直しを行い、保険料を抑えました。
現在のようにNISAやiDeCoが多くの人に知られることになって、以前より投資を行うことに抵抗がない人も増えたと思います。しかし投資は短期的に大きな利益が出て、投資元本を下回ることは失敗だと思われている人も見受けられます。そんな不安があったときに、アドバイスを求めるだけでも、投資を継続していける可能性は高くなります。今回の相談のケースのように、転職によって収入だけではなく福利厚生の違いで支出が多くなるというケースも少なくないでしょう。ただ、お金の収支のバランスを考えて、使い方を見直すだけでも、自由に使えるお金が増える可能性もあるのです。
<参照>
吉野 裕一
FP事務所MoneySmith
代表
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