ダメ、どうしても会いたくない…遺産分割をきっかけに〈絶縁状態〉になった62歳女性と58歳弟、父が亡くなったときにしておけばよかった15年前の「ある後悔」とは?【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月20日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相談者の幸子さんは、父の遺産分割をきっかけに弟に不満を抱くように。以来15年間膠着状態が続いたものの、母の死によってついに遺産分割に蹴りをつけることになりました。しかし弟との溝は深く……代理人として間に入った相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)はどのように解決に導いたのでしょうか。
15年間にわたる確執のきっかけ
幸子さん(62歳・女性)の父親は2009年に亡くなり、相続の手続きが必要になりました。相続人は母親と58歳の弟の3人です。
父親の財産は35坪の自宅の不動産程度で、しかも、自宅の土地、建物は共働きだった母親と2分の1ずつの共有名義となっていました。
現在の自宅の土地、建物の2分の1の相続評価は3,000万円ですので、預金を足しても、当時の相続税の基礎控除8,000万円以内の財産で、相続税の申告は不要でした。
父親の遺産分割が弟との行き違いの発端
父親は2009年に亡くなりましたが、15年経っても遺産分割協議ができていません。ことの発端は四十九日の法要の席だったといいます。法要が終わり、母親と幸子さん夫婦、弟夫婦は実家に戻ったのですが、その席で弟からこんなふうに言われたのです。
「実家は自分が相続する。お母さんと姉さんは現金でいいな?」「書類も作ってあって、お母さんの印はもらったから、姉さんもここに実印押してくれたらいいよ」と。
母親からも何も聞いていなかった幸子さんは弟が、さも当然のように、「実家を相続する」ということが許せなかったのです。
弟は会社員で、結婚するまでは実家で同居していましたが、結婚してからは実家を離れています。さらに子どもが生まれてからは自分の家も購入していますので、実家を相続するのは納得できないと、幸子さんは印を押さなかったのです。
それ以来、弟は幸子さん夫婦と話をしようとせず、ずっと避けている状況。母親は男の弟がかわいいようで、「弟が言うとおりに家は弟名義にすればいいのでは」と言っています。結果、父親の名義のままであっという間に15年が過ぎたのでした。
母親が亡くなり、いよいよ相続手続きをしなくては…
そしてついに昨年、母親が亡くなりました。その間、幸子さんは実家に通って母親の介護をしてきましたが、3年前くらいからいよいよ一人暮らしが大変になり、母親は介護施設に入所しました。実家は空き家となり、預金は弟が管理すると通帳を全部、持って行ってしまいました。
さらに弟に対して不信感が募った幸子さんは許せない気持ちのままですが、父親と同様、母親も遺言書を作成していないため、いまとなって幸子さんと弟の2人で父親と母親の財産について遺産分割協議をしなければなりません。
父親の財産はすでに自宅だけ、母親の財産は自宅と200万円程度の預金。母親の財産についても基礎控除4,200万円以内ですので、相続税の申告は不要です。2人とも同居しておらず、同等の立場ということで、財産は等分に2分の1ずつ分けるというのが幸子さんの希望です。実家も売却して2人で分けるしかありません。
幸子さんは弟とは直に話ができないということで、弟との連絡役として売却等の話をまとめてもらいたいと相談に来られました。
調停はしたくないが…歩み寄れない。お金の問題じゃない!
幸子さんも、弟も「財産は等分に分けること」、「実家は売却すること」については、異論はないそう。当事者間で事務的に進められそうなものですが、それでは進まないことがわかっています。
15年の間も互いに譲らず、溝ができた姉弟ですので、「姉の言うとおりにするのは気に入らない」「弟が言うとおりではおもしろくない」という感情があり、いまさらその距離が縮まることはないと言えます。
幸子さんは「お金の問題じゃない! 15年前の遺産分割協議書のことから、弟に詫びさせたい」という気持ちが根底にあり、何事も疑心暗鬼となってしまって、決断できないようです。
しかし、空家の実家をそのまま維持することはできないため、当社が幸子さんの窓口となって売却を進めていくよう依頼を受けました。弟は自分で探した弁護士が間に入って連絡窓口になるということで、ようやく売却の話が進みだしたのです。
買主が決まってから、売却までさらに半年
幸子さんの実家は閑静な住宅街にあり、人気があるエリアですので、路線価評価6,000万円の1.5倍の価格で購入申し込みが入り、売却することは難しくはないと判断できました。しかし、幸子さんと弟の足並みが揃わず、本来であれば購入申し込みがあればすぐに契約するところなのですが、半年間の膠着状態となり、話は一向に進みませんでした。
売買の価格はどんどん動いているため、購入を希望した法人も待ちきれない様子でしたが、なんとか、遺産分割協議書の作成、相続登記が終わり、測量を開始、不動産売買契約をすることができたのです。しかし、一同に集まって調印はかなわず、順番に署名、押印し、印紙もそれぞれに貼り、各自、原本を保有する形としました。
どこまでも会わず、一緒にせずということで、残念ながら、長年の確執は解消されないままとなりました。それでもようやく父親が亡くなったときから15年間抱えてきたことが解消することなので、ひとつのハードルは越えたと言えます。
幸子さん夫婦には3人の子どもがあり、自分たちの相続には弟は関係しないため、いまから自分たちの子どもがもめないための対策はしたいと幸子さんはしみじみ話をされていました。
自宅がある人の相続対策には遺言書が必須
誰しも実家には住んでいた経験があるため思い入れがあります。大人になって家を離れた人でも多くは「実家を残したい」と言われます。ずっと住んでいる親世代はさらにその思いが強く、「家を残して、子どもや孫世代に継いでもらいたい」とおっしゃいます。
しかし、相続人が複数いる場合、遺産分割協議はなかなかの難題です。家が財産の大きな割合を占めていればなおさら分けにくく、不公平感が残りやすくなります。そこで、自宅がある人で、これからの相続を考えるのであれば、下記のようなことがポイントになります。
【生前】
遺言書で家を相続する人を決めておく遺言書の内容を相続人全員に知らせて、自分の意思を伝えておく
不公正感のない分割案を作る不動産と金融資産のバランスが取るバランスが取れていない場合は生前に自宅を売却して分けやすくしておく
【相続時】
相続人全員で情報共有、コミュニケーションを取るできるだけ公平な分割にする相続の専門家のアドバイスを受け、依頼する相続登記が義務化されたことを説明、理解してもらう。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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