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2,000万円もらえるはずが…1億2,000万円の親の遺産、長女・二男〈遺留分ルール〉知らず、想定外の減額「長男だけずるい」【弁護士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月26日 8時45分

2,000万円もらえるはずが…1億2,000万円の親の遺産、長女・二男〈遺留分ルール〉知らず、想定外の減額「長男だけずるい」【弁護士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

誤解も多い「遺留分」。いざ相続が発生した際、ルールを知らずに損するケースもあって……。本記事では、生前贈与がある場合の遺留分の計算について、Authense法律事務所の堅田勇気弁護士が詳しく解説します。

遺留分の基本

遺留分については、誤解も少なくありません。はじめに、遺留分の基本について解説します。

「遺留分」とは?2019年7月にルールが変わっている

遺留分とは、亡くなった人(「被相続人」といいます)の配偶者や子どもなど一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。遺留分は、その相続について遺言書がある場合や、生前贈与などの特別受益がある場合に登場する概念です。

たとえば、相続人が長男、長女、二男の3名であるにもかかわらず「長男に全財産を相続させる」という内容の遺言書があった場合、長女や二男の遺留分を侵害しています。遺留分を侵害したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。しかし、この場合は長女と二男は遺産を多く受け取った長男に対して、侵害された遺留分相当の金銭を支払うよう請求することができます。この請求を「遺留分侵害額請求」といいます。

なお、遺留分請求は以前は「遺留分減殺(げんさい)請求」という名称であり、物権的請求権でした。しかし、物権的請求権である場合、遺留分請求をされることで遺産である不動産が共有となるなどの問題がありました。共有となった不動産は使い勝手がよくないうえ、別のトラブルの原因となる可能性があります。そのため、2019年7月に施行された改正民法によって遺留分請求が金銭請求へと改められ、名称も「遺留分侵害額請求」へと変更されています。

遺留分のある人

遺留分のある人は、相続人のうち、兄弟姉妹や甥姪以外の者です。つまり、遺留分の権利があるのは、相続人のうち次の者などです。

・被相続人の配偶者 ・被相続人の子ども、孫 ・被相続人の父母、祖父母

遺留分のない人

被相続人に子どもがいない場合など、兄弟姉妹や甥姪が相続人となることはあります。しかし、兄弟姉妹や甥姪には、遺留分はありません。つまり、被相続人の配偶者と弟、妹がともに相続人である場合、被相続人が全財産を配偶者に相続させる旨の遺言書を遺したとしても、弟や妹は被相続人の配偶者に対して遺留分侵害額請求をすることはできません。

また、遺留分の権利は相続人であることを前提としているため、そもそも相続人ではない者には遺留分はありません。相続人でない者とは、たとえば次の者などです。

・被相続人の内縁の配偶者 ・被相続人の長男が相続人である場合の、長男の子ども(被相続人の孫) ・相続放棄をした者 ・被相続人の遺言書を隠匿したり偽造したりして、相続欠格に該当した者 ・被相続人を虐待するなどして、家庭裁判所で相続人からの廃除を許可された者

遺留分の割合

遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1です(民法1042条)。個々の相続人の遺留分は、これに法定相続分を乗じた割合となります。たとえば、被相続人の配偶者と長男、長女、先に亡くなった二男の子ども(被相続人の孫)2名の計5名が相続人である場合、それぞれの遺留分は次のとおりです。

・配偶者:4分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1) ・長男:12分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分6分の1) ・長女:12分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分6分の1) ・二男の子ども(孫)1:24分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分12分の1) ・二男の子ども(孫)2:24分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分12分の1)

ただし、被相続人の父母など直系尊属だけが相続人である場合は、遺留分割合が例外的に3分の1となります。なお、先ほど解説したように、兄弟姉妹や甥姪には遺留分はありません。

遺留分を請求できる場合

遺留分を請求できるのは、どのような場合なのでしょうか? ここでは、遺留分を請求できるパターンを2つ紹介します。

遺言書で遺留分を侵害された場合

1つ目は、遺言書で遺留分を侵害された場合です。たとえば、相続人が長男、長女、二男の3名であるにもかかわらず、被相続人が「長男に全財産を相続させる」旨の遺言書を遺した場合などが該当します。

生前贈与などの「特別受益」で遺留分を侵害された場合

2つ目は、生前贈与などの特別受益で遺留分を侵害された場合です。たとえば、相続人が長男、長女、二男の3名であるにもかかわらず、被相続人が亡くなる5年前に長男に対してだけ自宅の購入資金を2,000万円贈与していた場合などが該当します。

なお、1つの相続において、遺言書と生前贈与の両方があるケースも珍しくありません。 たとえば、「長男に全財産を相続させる」旨の遺言書があり、さらに長男に対して生前贈与をしていた場合などです。

「特別受益」は何年前の分まで遺留分計算の対象になる?

生前贈与などの特別受益も遺留分計算の対象になるとはいえ、あまり古いものまで計算の対象となると、遺留分の計算が困難となってしまいかねません。そこで、民法では遺留分の対象となる特別受益に一定の制限を設けています(同1044条)。ここでは、遺留分計算の対象に含まれる生前贈与について解説します。

相続人が特別受益を受けた場合

生前贈与などの特別受益を受けたのが相続人である場合、相続開始前10年以内になされたものが遺留分計算の対象となります。ただし、被相続人と贈与を受けた相続人とがいずれも遺留分権利者を害することを知って贈与を行った場合は、10年以上前のものであっても遺留分計算の対象となります。

被相続人の財産がその後増える予定がないにもかかわらず遺産の大半を生前贈与した場合は、遺留分権利者を害すると知っていたと判断される可能性があるため注意が必要です。 相続開始前10年以上前にした贈与が思いがけず遺留分計算の対象となる事態を避けるため、多額の生前贈与をしようとする際は、あらかじめ弁護士へ相談することをお勧めします。

相続人以外の者が特別受益を受けた場合

生前贈与などの特別受益を受けたのが相続人以外の者である場合、相続開始前1年以内になされたものが遺留分計算の対象となります。相続人以外の者とは、たとえば相続人ではない孫や、子どもの配偶者などです。

ただし、こちらも遺留分権利者を害することを双方が知って行った場合は、1年以上前の贈与であっても遺留分計算の対象となります。

特別受益がある場合の遺留分の計算方法

生前贈与などの特別受益がある場合、遺留分計算はどのように行うのでしょうか? 本記事では、次の前提で解説します。

・相続人:長男、長女、二男の3名 ・被相続人は、長男に6,000万円相当、長女に500万円相当、二男に1,500万円相当を相続させる旨の遺言書を遺していた ・被相続人に債務はない ・被相続人は、相続開始の3年前に、長男に対して4,000万円相当の生前贈与を行った

ステップ1:遺留分計算の基礎となる金額を計算する

はじめに、遺留分計算の基礎となる金額を計算します。遺留分計算の基礎となる金額は、次の式で算定します。

遺留分計算の基礎となる財産の価額=(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(遺留分計算の対象となる贈与の価額)-(被相続人の債務)

このケースでは、次の額が遺留分計算の基礎となります。

遺留分計算の基礎となる財産の価額=6,000万円+500万円+1,500万円+4,000万円(生前贈与)=1億2,000万円

ステップ2:自身の遺留分割合を確認する

次に、それぞれの遺留分割合を確認します。例の場合は、長男、長女、二男の遺留分割合は、それぞれ6分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分3分の1)です。

ステップ3:遺留分の額を計算する

次に、各相続人の遺留分額を計算します。例の場合において、長男、長女、二男の遺留分額は、それぞれ2,000万円(=1億2,000万円×6分の1)です。

ステップ4:遺留分侵害額を計算する

最後に、各相続人の遺留分侵害の有無と、遺留分侵害額を計算します。例の場合には、それぞれ次のとおりです。

・長男:遺留分額2,000万円≦受け取った財産の合計額1億円(=6,000万円+4,000万円)よって、遺留分は侵害されていない

・長女:遺留分額2,000万円>受け取った財産の合計額500万円よって、遺留分が侵害されている。侵害額は、1,500万円(=2,000万円-500万円)

・二男:遺留分額2,000万円>受け取った財産の合計額1,500万円よって、遺留分が侵害されている。侵害額は、500万円(=2,000万円-1,500万円)

つまり、このケースでは、長女は長男に対して1,500万円、二男は長男に対して500万円を請求できるということです。遺留分侵害額請求を受けたら、長男は原則としてこれを金銭で支払わなければなりません。ただし、分割払いの交渉をすることは可能です。遺留分侵害額請求をされてお困りの際は、弁護士へ相談することも一案です。

「長男だけずるい」とならないために…遺留分侵害額請求の注意点

遺留分侵害額請求をする際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか? ここでは、主な注意点を3つ解説します。

期限内に請求する

遺留分侵害額請求には期限があり、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に行使しないと、時効によって権利が消滅してしまいます(同1048条)。また、遺留分侵害の事実などを知らなくても、相続開始から10年が経つと、もはや遺留分侵害額請求はできません。

そのため、特別受益や遺言書で遺留分侵害に気付いたら、できるだけすぐに請求することをおすすめします。請求の効果は口頭や普通郵便であっても生じるものの、期限内に請求をした証拠を残すため、遺留分侵害額請求は内容証明郵便にて行うのが一般的です。

なお、請求する遺留分侵害額の算定に時間がかかることもあるでしょう。特に、生前贈与などの特別受益によって遺留分を侵害された場合には、侵害額の調査や算定に時間がかかる傾向にあります。そのような際は、期限に間に合わせるためにまずは金額を明示することなく遺留分侵害額請求の意思表示を行い、具体的な金額については追って調査することも少なくありません。具体的な進め方については、弁護士へ相談したほうがよいでしょう。

弁護士へ相談する

遺留分侵害額請求をする際は、無理に自分で行うのではなく、弁護士へ相談したうえで行うことをおすすめします。なぜなら、遺留分トラブルは、具体的な侵害額について争いが生じることが少なくないためです。金額の交渉を相手方と直接しようとすると、感情的になり解決が困難となるおそれがあるほか、自身にとって不利な内容で合意してしまうリスクもあります。

弁護士に依頼することで、遺留分侵害額の算定を弁護士に行ってもらうことができます。 また、相手方との交渉の場に同席してもらったり交渉を代理してもらったりすることもでき安心です。さらに、交渉がまとまらず調停や訴訟へと移行した際も全面的にサポートを受けることができるため、落ち着いて対応しやすくなります。

特別受益については証拠を集める

一定の生前贈与などの特別受益も遺留分計算の対象となります。とはいえ、被相続人が自分以外に者に行った贈与について、証拠を集めることは容易ではありません。

しかし、遺留分について当事者間での意見がまとまらず訴訟にまでもつれ込んだ場合には、証拠のない主張は通らない可能性が高いでしょう。そのため、生前贈与などの特別受益を遺留分算定の基礎に含めたい場合は、証拠を集めておく必要があります。証拠の探し方がわからずお困りの際は、弁護士へ相談するとよいでしょう。

まとめ

遺留分の対象となる特別受益について解説しました。遺言書での遺贈のほか、一定の生前贈与も遺留分計算の対象となります。ほかの相続人などがまとまった生前贈与を受けており、これについて遺留分侵害を主張したい場合は、早めに弁護士へ相談することを勧めます。

弁護士へ相談すると、生前贈与を遺留分計算の基礎に含められるかどうかの見通しが立てやすくなるほか、遺留分侵害額請求を代理してもらうことも可能となります。  

堅田 勇気

Authense法律事務所

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