「大丈夫です」を多用する日本人の不思議…欧米と日本にある“決定的な違い”の正体【ふかわりょう×言語学者が対談】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月1日 15時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日本語は、欧米の言語に比べ、結論を先延ばしにして断定を避ける傾向にあります。英語がストレートな表現であることから、「責任の所在を曖昧にしている」とネガティブに捉えられてしまうことも少なくありませんが、言語学者の川添氏はこの曖昧さこそが日本語の「品を保っている」といいます。芸人のふかわりょう氏と気鋭の言語学者・川添愛氏が、著書『日本語界隈』(ポプラ社)より、「日本語の妙味」についてみていきましょう。
日本人は「曖昧」がお好き?
ふかわ:ぜひ、日本人の曖昧好きについても話しておきたいんです。断定を避ける曖昧な表現も、否定か肯定かも最後まで聞かないとわからない文法も、日本人はそういうスタイルを選んで、今日に至るわけですよね。
川添:そうですね。ただ、世界の言語でいうと、日本語と同じく、最後まで聞かないと結論がわからないSOV型、つまり「主語―目的語―述語」型の言語の割合は約40パーセントだそうです※。意外に多いんですよ。
※ Matthew S. Dryer. 2013. Order of Subject, Object and Verb.In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.) WALS Online (v2020.3) [Data set]. Zenodo.https://doi.org/10.5281/zenodo.7385533 (Available online at http://wals.info/chapter/81, Accessed on 2024-02-11.)
ふかわ:え! それは初めて聞きました。
川添:ちなみに英語、中国語、フランス語のようなSVO型、つまり「主語─述語─目的語」という語順を持つ言語は35パーセントほど。韓国語、トルコ語も日本語型。韓国人とトルコ人と日本人が性格的に似ているかというと、ちょっと違う気がしますよね。
ふかわ:それは、意外です。
川添:なので、語順と文化が直接結びつけられるわけではないんですが、もともとあった語順をベースにして、それぞれの土地で風土に合った話し方が固まってくるということはあると思います。
ふかわ:日本人は結論を先延ばしにし、さらに曖昧に、ぼやかすところがあるでしょう。私はそこが日本人の素敵なところだと思っているんですよ。なるべく、断定を避けるところ。
川添:そうですね。何かにつけて、「できるだけやんわり言おう」という力が働きますよね。
断るときも笑顔を添える日本人
ふかわ:たとえば「これ、いかがですか?」と聞かれて、「いえ、大丈夫です」と断るときも笑顔を添えるでしょう。断るのは悪いからせめて愛想笑いでコーティングして提供する文化があるじゃないですか。
でも、これは欧米の人からすると「その笑顔はなんだ」という話なんですよね。断っておいて、笑っているのは意味がわからないという感想を聞いたことがあるんです。
川添:意味のわからない笑みを向けられる側としては、ちょっと気味が悪いかもしれませんね。あと、日本語の「大丈夫です」という言い方も、だいぶ曖昧ですよね。
ふかわ:そうなんですよ。
日本人の「大丈夫」は、責任逃れと謙遜の“ハイブリッド”
ふかわ:日本人の断定を避ける傾向についてはどう思いますか。
川添:ひとつは、いい意味では「品を保つ」という意味合いがあるのかなと思いますね。
ふかわ:わ、意外な見解!
川添:はい。ふわっとさせることで丁寧に見せる。「書類をお預かりします」ではなくて、「書類のほうをお預かりします」とか。「お車が到着しました」ではなくて、「お車が到着したようです」とか。自分と物事の間にワンクッション置く感じがありますよね。
ふかわ:意地悪な見方をすると、責任の所在を曖昧にしている感じですよね。そこでも曖昧が効いている。
川添:たしかに、曖昧にすることで、「自分の判断じゃない」という責任逃れにもなるし、「私はそれを判断できる人間じゃないです」という謙遜も表せるので、いろいろな感情が混ざり合いますよね。
ふかわ:責任逃れと謙遜のハイブリッド! 日本人らしいなぁ。しばしば耳にする「誤解を与えたのであればお詫びします」みたいな、煙に巻く感じ!
川添:出ましたね(笑)。「不快に思われたのであればお詫びします」という類例もあります。「誤解するのも不快に思うのもそちらがなさることなので、それに関しては私どもは100パーセント責任を持つことはできないんですが、一応お詫びしときます」という感じですかね。
ふかわ:この混ざり具合、絶妙ですね。責任逃れに自信のなさに謙遜に、そこに調和も入りませんか? 全体の和を乱したくないという気持ち。
川添:とりあえず謝ることで、どうにか丸く収めようという意図が見えますよね。
ふかわ:なんでも欧米と比較するのもよくないかもしれませんけど、日本の全体主義と欧米の個を重んじる文化の違い。
野球でも「3番バッターからの流れがよかったですね」という日本に対して、「流れってなんだよ、俺が打ったんだよ」という欧米。だから、皆保険制度も浸透しにくい。自我を認識するときにも、我々日本人は「自分」という座標がはっきりしていなくて、関係性で自分の居場所を認識している気がします。
一方、彼らは関係性は重要じゃなくて、「俺はここにいるよ」っていう意識が強いんですよね。そういう自我の捉え方がそれぞれの言語に影響している気がするんです。
川添:日本では、最終的にはお上が決定したことに従うっていうことが、長い間、行われてきましたからね。個ではなく、公。長い歴史をそういう姿勢で生きてきましたから、「自分はこうだ」とか「自分はこう思う」とはっきり言いづらいような土壌がまだ残っているんでしょうね。
ふかわ:それがいいほうに作用することもあるのでしょうが、一長一短なのでしょう。
川添 愛 言語学者
ふかわ りょう お笑い芸人
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