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好感度ワースト1位なのに!? アンチが多いはずのタレントがテレビや広告から消えないワケ

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月31日 8時15分

好感度ワースト1位なのに!? アンチが多いはずのタレントがテレビや広告から消えないワケ

日本では、俳優やアイドル、歌手などの有名人が宣伝を行う「タレント広告」が主流になっています。このタレント広告が国内で広く使用されている理由と、効果を発揮する商品について、法政大学文学部心理学科教授の越智啓太氏による著書『買い物の科学:消費者行動と広告をめぐる心理学』(実務教育出版)から一部を抜粋・再編集して解説します。

日本はタレント広告がとても多い国

タレント広告は、俳優、歌手、アイドル、スポーツ選手などの有名人が、あるブランドや商品を宣伝するタイプの広告です。欧米圏ではセレブリティ広告と呼ばれます。

日本はタレント広告がきわめて多い国として昔から知られていましたが、最近では韓国と中国でもタレント広告の比率は高くなっています。

では、なぜタレント広告は有効なのでしょうか。これについてはいくつかの仮説が提唱されています。

注目仮説:我々は、知人がいると素早く自動的に検出し、そこに注意を向けるという特性を持っている。そのため、著名なタレントがいるとその広告に目がとまりやすい。

条件づけ仮説:我々に「快」をもたらすものと一緒に、あるものが繰り返し呈示されると、いずれ、そのものも「快」を引き起こしやすくなる(古典的条件づけ)。

そのため、好感度や魅力度が高いタレントと一緒にブランドや商品を呈示すると、次第にブランドや商品自体が我々に「快」を感じさせるようになる。

バランス理論:社会心理学では、自分の好きな人が好きなものは自分も好きになりやすいという傾向があることが知られている(同様に、自分の好きな人が嫌いなものは自分も嫌いになりやすい)。

これは、認知のバランスがとれていることが安定した状態であり、人は安定した状態を求めるからである。

そのため、多くの人に好かれている人が、あるブランドや商品を好んでいる、愛用しているといった情報を提示することによって、そのブランドや商品の好感度が増加する。

想起手がかり仮説:あるタレントがあるブランドや商品の広告に出ると、そのタレントを見たときに、そのブランドや商品を連想して思い出しやすくなる。

一般に思い出せば出すほど好感度が上がっていく。そのため、注目を浴び、露出の多いタレントを広告に使用すれば、この効果を使ってブランドや商品を印象づけることができる。

憧れ仮説:タレントはしばしば「あのような人物になりたい」という憧れの存在となる。そのためにファンは、そのタレントと同じようなものを身に着け、同じような行動をするようになる。  

タレントが使っているコスメや着ているファッションを身に着け、同じ道具を使用したくなる。

専門性仮説:専門家と非専門家では、専門家のアドバイスのほうが信憑性(しんぴょうせい)が高く認知され、説得力も高くなる。

ファッションやコスメあるいはグルメなどの分野では、タレントはプロフェッショナルだと思われているので、彼ら/彼女らの勧める商品に対する魅力度は高くなる。学者タレントや高学歴タレントは、この効果を使うときにはとくに重宝される。

じつは、これらの仮説のすべてが正しいということがわかっています。

タレントを用いた広告は、数多くの広告の中で目をとめられやすく、タレントの好感度が転移し、商品を思い出しやすくなるのです。いいことばかりですね。だから多用されるわけです。

タレント広告が有効なのは周辺ルート

ただ、ひとつ注意しておかなければならないのは、タレント広告が有効な商品やサービスと、それほど有効でない商品やサービスがあるということです。

タレント広告は結局のところ、タレントの好感度というイメージを利用しているわけです。とすると、商品認知-購買プロセスにおいて、周辺ルートで処理される場合に効果を発揮します。

中心ルートの場合には、そもそも購買の意思決定が広告に登場している人の好感度や雰囲気に左右されにくいので、タレント広告の効果は限定的になります。

たとえば、あなたが自動車マニアでスポーツカーを購入したいという場合、重要なのはスペックであって、アイドルがほほえんでいる広告によって買いたくなることはないと思います。

また、非常に高価なもの、たとえば不動産などでも広告に出てくるタレントはあまり関係しないでしょう。

一方で、比較的安価なものや、スペックに差がなかったり、ユーザーがスペックの差を評価する能力を持っていなかったり、評価するつもりがなかったりする場合、スペックよりもイメージが重要なものには、このタイプの広告が効果を発揮しやすくなります。

車でいえばファミリーカーや軽自動車、パソコンでいえば初心者ユーザー向けの入門機、チョコレートやスナック菓子などは、タレント広告が有効になると考えられます。

タレント広告における好感度仮説

では、タレント広告を作る場合、どのタレントを使うべきでしょうか。

上記の仮説が有効に働くためには、使用するタレントの人気があり、好感度が高いことが決め手になってきます。これを好感度仮説といいます。

事実、広告に使用されるタレントは、好感度ランキングトップの人ばかりになるのが普通ですし、好感度ランキングの順位とコマーシャル出演本数は非常に高い相関を持っています。

もし商品のターゲットが明確に決まっていれば、老若男女に人気がある人よりも、そのユーザー層にとってとくに好感度が高いタレントを使うのがよいでしょう。

たとえば、若い女性向けの商品の場合には、その層が支持するタレントを、高齢者向けの商品であれば、高齢者が好きなタレントを用いるのがセオリーです。

そのため、雑誌『日経エンタテインメント!』などが公表しているタレント人気ランキングは宣伝部や広告代理店にとって重要なツールになります。

最初に、日本や韓国、中国などでタレント広告の人気があり、欧米諸国ではそれほどではないというお話をしましたが、この原因のひとつは、人種や民族が比較的単一だからである可能性があります。

「すべての人に人気がある」タレントが存在しやすいからです。

なぜワーストタレントがテレビコマーシャルに出るのか

ところが、実際のコマーシャルを観ていると必ずしも好感度が高いタレントばかりが起用されているわけではないことに気がつくと思います。

ときには好感度ランキングワーストタレントでさえ登場しています。なぜこのようなことが発生するのでしょうか。

ひとつは、ファン効果(※)があるため、人気タレントが必ずしもコストパフォーマンスが良いとは限らないからです。

※人気タレントはたくさんの商品やサービスの広告に起用されています。ひとりのタレントが多くのものと結びついているがゆえに、連想関係が少なくなっていくことを「ファン効果」といいます(このファンは「タレントのファン」のファンとは違い、ひとつの概念とつながっているノード(結び目)の数のことをさします)。

人気ワーストタレントはワーストであるがゆえに有名でもありますし、また、マスメディア登場回数も多いと思われます(登場回数が少なければ、そもそもワーストワンにはならないでしょう)。

上記の仮説の中では、注目仮説や想起手がかり仮説の効果を条件づけ仮説やバランス理論の効果よりも優先しているわけです。

これらの仮説の下では、我々は感情の方向性(好き-嫌い)よりはその強度に敏感なので、コストパフォーマンスが良い可能性があるのです。

宣伝広告費をかけられる大企業は基本的に失敗がないみんなに人気系のタレントを起用しがちなのですが、中小企業がコストをかけずに効果を最大化しようとすると、独特のポジショニングのタレントを起用しがちになるわけです。

越智 啓太

法政大学文学部心理学科教授

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