〈職場のストレス対策〉「してもらえることが当たり前」と思っている人への対応で、“絶対にやってはいけない”致命的なこと【アンガーマネジメント協会代表理事が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月24日 8時15分
画像:PIXTA
「こんなにしてあげたのに、なんで?」職場や日常生活において、感謝が足りない相手に、イライラしてしまった経験はないでしょうか。研修講師として25万人以上にアンガーマネジメントを指導してきた戸田久実氏は、特に仕事の場面においては、ときには感謝をしてもらうように上手く伝えることが重要だが、その「伝えるか」「伝えないか」の判断基準を明確にすることが、ストレスを軽減し、ビジネスを円滑に進める鍵であると話します。本連載では、戸田氏の著書『アンガーマネジメント大全』(日経ビジネス人文庫)から、感謝が足りない相手にイライラしてしまったときの適切な対応策を、一部抜粋・編集して紹介します。
無意識に、相手に求めすぎていないか
Q:感謝が足りない相手にイライラしてしまいます
A:怒りを「お願い」に変えて伝えよう
相手に「こうしてほしい」と期待しすぎていませんか? 何も言わずにムカムカするのではなく「◯◯してほしい」と、お願いする形で伝えましょう。
相手に何かをしてあげたときに感謝やお礼の言葉がないと、「感謝をするべきだろう」と思ってしまうことは、誰にでもあるでしょう。感謝されたとしても、自分が思っていたことと違ったとき、「自分ならばもっとこんなふうに感謝するのに」と、虚しさやがっかり感を味わい、怒りがわいてしまう場合もあります。
どこまで感謝を表すのかという基準も、表し方も、人それぞれ違うもの。ひと口に「感謝を表す」といっても、その人によって、求めているものは大きく異なるのです。
わたしも若い頃は、「こんなにしてあげたのに、なんで?」と思ってしまったこともありました。でも、大人になってから、それは利己的な考えだったということに気づいたのです。相手に感謝の言葉をもらおうと期待しすぎないことも、ときには必要です。
不満は本人に「お願い」として伝える
なかには「してもらえることが当たり前」と思っている人もいるかもしれません。そういう人に対しては、思いきって「せめてありがとうは言ってほしい」と正直に伝えてもいいでしょう。
よくないのは、「この人はいつも感謝が足りない人だ」と相手に対して嫌な態度をとったり、言葉で伝えずに不機嫌な態度をとることです。これでは、あなたがなぜ怒っているのかが相手に伝わりませんし、「あの人は急に機嫌が悪くなって、感じが悪い」と、逆に自分の評価を下げることにつながってしまいます……。
さらによくないのは、「あの人、わたしがここまでしてあげたのに、なんの感謝もない」と、ほかの人に悪口のように言うことです。これを繰り返していると「この人はこういうことで怒って、悪口を言ってしまう人なんだ」という印象を、周囲に与えてしまいかねません。また、その悪口がまわりまわって、本人の耳に入ってしまう可能性もあります。
感謝の仕方について怒りや不満がわいたとき、本当に気になったなら「『ありがとう』 『助かった』と言ってくれると、次も気持ちよく協力してあげられるんだ」とお願いする形にして、本人に直接伝えましょう。
伝えるかどうかの基準は「後悔しないかどうか」
相手に何も言わないことで、デメリットも生じます。怒りや不満が積もりに積もって爆発することで「もう関わりたくない!」と一気に疎遠になったり、関係自体が終わってしまって、取り返しがつかないことになることもあるかもしれません。
気になることを伝えるかどうかは、今後のことを考えて決めましょう。アンガーマネジメントでは、「怒りで後悔しないこと」がひとつの基準になっています。決めるときは、どちらの行動をとったほうが後悔しないかという基準で決めるのがおすすめです。
伝えたことで、相手の行動が変わるかどうかはわかりません。「相手がどう受けとめるかわからないけれど、腹を割って言ったほうがいい。そのほうが後悔がない」と思うのであれば、伝えたほうがいいですね。たとえば、「◯◯のとき『ありがとう』のひと言がほしかったんだ」と声をかけてみてください。もしも、あとで「やっぱり言わないほうがよかったな」と思うようなら、言わないという選択もあります。
家族の場合:無理に伝えないほうが得策なケースも
プライベートの話にも触れておきましょう。家族の場合、肉親であれば言いやすいかもしれませんが、義理の間柄では言いづらいことも多いのではないでしょうか。
たとえば義理の両親や義理のきょうだいに「こういうときには感謝の言葉がほしいんです」と言って、今後の人間関係をギクシャクさせてしまう可能性があるのなら、いちいち言わないという選択をしてもいいでしょう。
実のきょうだい関係が良好で、パートナーへのお願いごとをしても「うちの妻(夫)にはそういうところがあって、ごめんね。気が利かなくて」と言ってもらえるようなら、伝えることも手段のひとつです。でも、「いちいち、俺(わたし)のパートナーにうるさいなぁ。細かすぎるよ。そんなこといちいち言わないでよ」ときょうだいゲンカになる可能性もあるなら、無理に伝えないほうが得策です。
職場の場合:立場によって対応を変えていい
そもそも、感謝やお礼をすることは、まわりの人の助けを借りるためには必要なことです。たとえば、仕事上で何かアドバイスをしてもらったら、「ありがとうございます、おかげでこうできました」と報告するのが筋です。
もし、後輩や部下に感謝が足りないと感じる人がいるなら、このコミュニケーションの必要性から教える必要があるかもしれません。目上の人に対しては、「感謝が足りませんよね」とは言えません。こういったときには「こういうときに感謝の言葉を言えない人なんだな」と割り切ってしまいましょう。
【事例】「感謝」は周囲に大きな影響を与える
以前、ある企業の役員向けのコンサルをしたときに、「上の立場になったら、むやみに部下にありがとうを言わないほうがいい」という思い込みを持っている方がいました。
たとえば「今日のネクタイは素敵ですね」と言われても「あ、そう?」と言うだけ。うれしいと思っても、にっこりしたり「本当?」「ありがとう」と言っては威厳が保てない、と思い込んでいたのです。この方の場合、若い頃に「ヘラヘラするな」と指導されたときの影響だとわかり、思い込みを変えていきました。
後日、彼の部下たちの間では「上司がニコニコしてありがとうと言った」「いったい何が起こったんですか」という話題で持ちきりだったそうです。 感謝は、それほど周囲に大きな影響を与えるものなのです。いいコミュニケーションがとれるように、必要なときにはお願いとして伝え、お互いが気持ちよく関われるようにしましょう。
戸田 久実
アドット・コミュニケーション株式会社代表取締役
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事
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