シニアの資産形成に「複雑な株価の分析は不要」といえるワケ【証券アナリスト資格を持つFPが助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月16日 11時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
多くの方々が資産形成に関心を持っていますが、どのような手法で行うかはそれぞれの考えがあるでしょう。しかしシニア世代の場合においては、個別の株を分析するような、手間暇をかける投資スタイルは不要だといえます。元銀行員で大学教授のキャリアを持ち、いまも教壇に立つFPが、シニアのための堅実な資産運用について解説します。
証券投資の手法には「3つの考え方」があるが…
証券投資の手法には3つの流派ともいうべき考え方があります。それは、「ファンダメンタル分析」「テクニカル分析」そして「ポートフォリオ分析」です。
★ファンダメンタル分析
ファンダメンタル分析とは、世界経済、日本経済の分析や個別の企業の財務状況の分析から今後の業績を予測して証券の価値を算出し、それを市場価格と比較して投資するか否かを考える立場です。これは証券投資における伝統的な立場で、これからさらに2つの考え方、すなわち、「トップダウン・アプローチ」と「ボトムアップ・アプローチ」に分かれます。
トップダウン・アプローチは、投資対象を選別するときに経済情勢の分析、産業動向の分析から始める手法です。反対にボトムアップ・アプローチは、投資対象を選別するときに個別の企業分析から始める手法であり、この立場が最も伝統的といわれます。
★テクニカル分析
テクニカル分析はチャート分析とも呼ばれ、市場に現れた価格や出来高等から過去の価格変動のパターン分析を行い、今後の証券の価格を予測して売買を行う立場です。長期投資家ではなく、短期のトレーダーと呼ばれる人々にこの立場の人が多いといわれています。
テクニカル分析は一定のトレンドが形成され、それが崩れたときにしか行動できないという点で、市場の変動から遅れるという点もあります。
★ポートフォリオ分析
これらに対してポートフォリオ分析は、証券市場は証券の価格についての情報処理が効率的であると考える効率的市場仮説をベースにしています。そのため、ファンダメンタル分析を行っても割安、割高の証券は存在しないと考えます。また、市場は過去の情報はすべて織り込んでいますので、過去のチャートをいくら分析しても今後の価格変動はわからないと考えます。
そして、そう考えた上で株式投資を行うのであれば積極的に収益を得ることを目指すよりも、リスクを分散してポートフォリオ、つまり分散投資を行うのがよいと考えます。この考え方の究極は、東証株価指数のような市場の指標(インデックス)と同じ動きをするような投資、つまり、インデックス運用がいちばんよいということになるのです。
こうした3つの流派のどれが有効であるかは抽象的な議論で決まるのではなく、実際の市場の状況にどれだけあてはまるかによって決まります。
公的年金の資産運用、約82%はインデックス運用
実際の運用状況(2024年1月までの過去10年間)についてみると、日本のインデックスファンド(インデックス運用を行う投資信託)の収益率は年率8.3%、リスク(標準偏差)は10.4%、投資対象の分析・選択を行う投資信託であるアクティブファンドの収益率は年率5.7%、リスク(標準偏差)は10.7%であったという報告があります(投資信託協会「インデックスファンドが席巻する日本の投資信託」2024年)。
また、インデックス運用を行うファンドとアクティブファンドの比較をみると、投資の効率性を測る指標であるシャープレシオは、日本、米国、そして国際的に販売される投資信託が多く作られるルクセンブルクのいずれにおいても、インデックス運用を行うファンドがアクティブファンドを上回っていることが明らかとなっています(金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)。
そして、シニアの方々にとって身近な公的年金の資産運用もその約82%をインデックス運用で行っています(年金積立金管理運用独立行政法人「パッシブ運用及びアクティブ運用の割合の推移」2023年度)。(パッシブ運用とは、インデックス運用を含む市場全体の動きに追随する運用方法の意味です。)
また、ポートフォリオ分析は投資期間が長期になるほど運用成績がよいとする報告もあります。
こうしてみると、分散投資を行うことを前提として個々の株価の分析を不要とするポートフォリオ分析の立場は、長期投資を目指す多くのシニアの方々に適した方法と思います。
藤波 大三郎 中央大学商学部 兼任講師
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