後悔しかありません…退職金1,000万円で銀行員に勧められるがまま「外貨建て保険」を契約した65歳・元会社員の悲惨な末路【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月19日 9時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「こんなはずじゃなかった..」と、退職金の運用で後悔する人は少なくありません。今回ご紹介するのは、銀行員に勧められるまま退職金の半分を使って外貨建て保険に加入した、田中栄太郎さん(仮名)の事例。人生100年時代に備えて資産形成をしたいと思った田中さんに、いったい何が起きたのでしょうか。シニア世代の資産運用の落とし穴とそれを避ける方法を、大手銀行に長年勤務した経験を持つFPの青山創星氏が詳しく説明します。
退職金2,000万円の運用に悩む田中さんにかかってきた1本の電話
田中栄太郎さん(仮名・当時65歳)は、長年勤めた会社を定年退職し、退職金として2,000万円を受け取りました。自他ともに認める敏腕営業マンとして活躍してきただけあって、それ相応の金額をもらえたことに満足していましたが、同時に「このまま普通預金に預けておくだけではもったいない。何か良い運用方法はないものか……」と、退職金の使い道に思い悩んでいました。
そんなある日、田中さんに銀行から1本の電話がかかってきました。
「田中様、大口のご入金ありがとうございます。しかし、1,000万円を超える預金は預金保険の対象外となります。ご注意ください。もしよろしければ、ぜひ一度ご来店ください。対応方法や有利な運用のご相談にも乗らせていただきます」
預金保険とはいったいなんなのか?と田中さんが聞くと、万が一金融機関が破綻などをした際に保護されるのは「元本1,000万円までと、その利息」で、それ以上は保護の対象外とのこと。確かにそれは不安だし、運用の相談に乗ってくれるのならばと翌日、田中さんは銀行に足を運びました。
すると、別室に案内され、まるで自分が特別な人になったかのように感じました。銀行員は改めて大口の入金について丁重にお礼の言葉を述べた後、熱心に説明を始めました。
「田中様、人生100年時代と言われる今、退職後の資産運用はとても重要です。日本円だけでなく、世界一の経済大国アメリカのドルで資産を持つことで、リスクを分散しながら効率的に資産形成ができるんですよ」
銀行員はある保険のパンフレットを取り出し、グラフを指さしました。「例えば10万ドルを預けると、20年後には約2倍の21万ドル、40年後には4倍の40万ドルになる可能性があるんです。金利が高いので為替リスクも軽減されます」
「こんなに増えるんですか? すごいですね!」
「はい、それに保険なので死亡保障もついています。相続対策にもなりますよ」
さらに銀行は色々と説明を続けてきます。田中さんは、銀行員の言うことなら間違いない。株などの投資は怖いけれど保険なら安心だ。お金が増えて保障もつくなら運用先として万全だと考えました。そして、退職金2,000万円のうち、預金保険の範囲内である1,000万円は特別金利の定期預金に、残りの1,000万円は外貨建て一時払終身保険に投じたのでした。
想定外の円高進行で資産が大きく目減り…外貨建て保険のリスク
それから2年が経ったある日、新聞を見た田中さんは、とある話題に目を奪われました。それは、最近まで1ドル160円近くだった為替レートが急激に150円を割り込み、円高が進んでいるという記事。そして、「契約時よりも円高になると外貨建て保険の受取額は大幅に減少することがある」など、円高が進んだ時の外貨建て保険の為替リスクについて書かれたコラムでした。
それを読んで、自分が契約した外貨建て保険も無関係ではないと気づいた田中さん。銀行員から為替リスクの詳しい説明は受けていなかった気がします。そして、あらためて外貨建て保険についてネットで調べれば、注意喚起をするような記事が多数見つかりました。
焦った田中さんは、すぐに保険を売ってくれた銀行員に連絡を取りました。すると、「為替リスクの説明はしました。そして今解約すると金利上昇と円高の影響で大幅にマイナスになるので、解約はお勧めできません」とのこと。
しかし、その後も円高は進み、1ドル140円に近づいていき、田中さんの不安は増していきます。「お金が減るとは思わなかった」「本当に為替リスクの説明をしてくれたんだっけ?」「もっと円高が進んだらどうなるんだ……」
そんな日々が続くなか、田中さんは「こんなことばかり気にしているのは精神的に良くないな。自分にはこの保険で運用するのは向いていない」と、外貨建て一時払終身保険を中途解約。結果として100万円を失う結果になってしまいました。
お金が増えて保障も得られると思って契約したのに、損をしてしまった。そう落ち込みながら、田中さんは今回の顛末を友人に話しました。すると、「その保険に申し込んだこと自体良くなかったのかもしれないけれど、そのタイミングで解約したのも間違いなんじゃないか?」そう冷静に諭されました。
そう言われて、さらにがっくり肩を落とす田中さんでした。こうならないためには、いったいどうすればよかったのでしょうか。
得するはずと考えて加入した保険の「3つの問題点」
田中さんが申し込んだ外貨建て一時払終身保険は、保険料を米国債などの外国債券で保険会社が運用するというものです。この投資には、3つの大きな問題がありました。
1. 為替リスクの大きさを理解せずに、大金を一気に米ドル資産に投資したこと この商品のように外貨建て債券に投資する商品の場合は、大きな為替リスクがあります。いくらの円高までなら元本が確保できるかなどのシミュレーションは必須です。
2. 商品の仕組みをしっかり理解せず、高い手数料で信用リスクの高い商品に投資したこと この商品では10年経過未満の解約の場合には、解約控除率(手数料)がかかる、米国債金利などの基準金利からは保険関係費用が差し引かれ、保険会社の裁量で数%の調整があるなど、わかりにくい金利(積立利率)設定となっています。
さらに、米国債に直接投資する場合は米国の高い信用力を得られますが、保険を通じた投資では保険会社の信用リスクを負うことになります。死亡保険金額は積立金相当額と解約返戻金額のいずれか大きい金額に留まり、保険機能は限定的です。
3. 為替レートが購入時より円高で、しかも購入時より金利が高くなっていたという最悪のタイミングで解約してしまったこと 購入時より円高のときに解約すると為替損失が発生し、金利が高くなったときに解約すると市場価格調整(手数料)もかかります。
[図表1]のグラフを見るとわかるように、田中さんの投資期間近くではほとんどのタイミングでオレンジ色の線(ドル円の為替)と青色の線(米20年国債利回り)は逆方向に動いていました。つまり、米国債投資にとって為替と金利の関係が補完関係(片方がマイナス要因になる場合はもう一方がプラス要因になる)にあることが多かったのです。
しかし、田中さんは、3.95円の円高と0.26%の米金利上昇という米国債投資にとっての2つのマイナス要因が同時に起きるという、この期間ではとてもまれで最悪の時期に解約してしまいました。急速な円高への恐れからの行動ですが、理性を失い感情に走る行動は投資にとって最も避けるべきことです。
外資の成果を評価、比較する場合は、元本が何倍になったかではなく、年利回りで比較しないと判断を誤りやすいのです。田中さんが説明を受けた「10万ドルが20年間で21万ドルになる」というのは、複利利回りにすると3.8%、40年間で40万ドルになるというのは3.5%です。しかも、これはドルベースでの利回りであり、円ベースでは確定しません。
田中さんが投資した保険に今投資すると複利利回りは3.65%です。20年の米国債に直接投資すると複利利回り4.14%です。20年後の金額は、米国債に投資した場合に比べてこの商品に投資した場合の方が(為替変動がないと仮定した場合)約300万円少なくなってしまいます。手数料が高いためです。
つまり、本当に顧客のことを考えるのであれば、保険よりも米国債に直接投資するほうが有利だと教えるべきなのです。しかし、米国債を売っても証券会社の儲けはとても少ないので、宣伝すると赤字になってしまいます。一方、保険は手数料が高いので、広告費や人件費をかけても儲かるのです。だから積極的に売ろうとするわけです。
また、注意すべき商品として『通貨選択型変額終身保険のターゲットタイプ』もあります。これは今、銀行などの販売会社の姿勢に問題があるとして金融庁が注意喚起している商品の一つです。
この商品は、目標額に達すると自動的に円建ての終身保険に移行します。その時点で一度解約させて、同時に同一商品の再購入を勧められる事例が多く報告されています。なぜこんなことをするのかといえば、販売会社側が手数料を二重取りできるからです。
外貨建て保険の注意点と退職金運用のポイント
このように、相手が銀行員だからとお勧めされるがままに保険の契約をしてしまうと、大きな落とし穴にハマってしまう場合があります。
大切なのは、仕組みを理解できないものに大金を投じないこと。商品の仕組みをしっかり理解して、保険は本来の役割である予測不可能な事故や損害を補償するものに限定して使うということ。また、投資には、保険よりも投資信託やETF、国債などの中から透明性が高く、手数料の安い商品を選ぶことをお勧めします。
また、今回の田中さんのケースの場合、慌てて解約せずに待つことができれば100万円も損をすることはなかったでしょう。あのとき銀行員が田中さんに「今解約すると大幅にマイナスになるので、解約はお勧めできません」と言ったことは嘘ではないので、銀行員を信用できなくてもFPなどお金のプロに相談すれば、資産減を避けられたかもしれません。
そして、それ以前に、退職時に夫婦二人分の生活費があれば、パートナーの生活費を保険で残す必要性はそう多くはありません。長い老後のためにお金を増やしたいと考える気持ちはもっともですが、リスクやストレスを抱えて運用する必要が本当にあるのかということを、慎重に考えたほうがよいでしょう。
【外貨建て保険の注意点】
- 元本確保は外貨ベースでのみ
- 払出時に円高なら元本割れのリスク
- 中途解約時は外貨ベースでも元本割れの可能性あり
- コストがとても割高
- 保険の機能は限定的
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【投資について】
- 退職金の運用は慎重に検討し、商品の仕組みやリスクを十分に理解することが重要。
- 外貨建て保険などの複雑な商品は、為替リスク・金利リスクや高額な手数料などの落とし穴が潜むことを認識する。
- 銀行員などの説明を鵜呑みにせず、独立したファイナンシャルプランナーなど、第三者の意見を求めることも大切。
- 保険は本来の役割「予測不可能な事故や損害の補償」に限定して使用し、投資には投資専用の商品を検討する。
- 投資する場合は、投資専用商品の中から透明性が高く手数料の安い商品を選ぶことが賢明。
- 人生100年時代の資産運用は重要だが、理解できる範囲のものに留め、投資しないというのも一つの選択肢。
投資の神様ウォーレン・バフェット氏の「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものです」というのは身に染みる言葉です。
田中さんの経験は、多くの定年退職者が直面する可能性のある問題を浮き彫りにしています。慎重さと知識、そして適切なアドバイスの重要性を忘れずに、それぞれの人生に合った最適な資産運用の道を探っていくことが大切です。
青山 創星 ファイナンシャルプランナー
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